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今日出会った親子のこと

今日出会った親子の話。

今日も遠隔地のコミュニティーにいって成長モニタリングの手伝いをしていた。
1組だけ、重度の低栄養状態の子どもがいた。

1歳2か月になる男の子の双子。
体重は6kgと5.6kg。通常生後2~3ヶ月でこのくらいの体重になる。1歳2ヶ月かの平均体重は8~11kg。重度の低体重だった。
2人ともぐったりとしていて、時折視線が合わない。泣く力も弱く、声もほとんど発さない。歩くこともできず、吸啜も弱弱しい。
お母さんは軽度の片麻痺がある様子で、自由の利かない脚を引きずりながら不自由な片手を器用に使って二人の赤ちゃんに授乳していた。

少し前までは、重度の低栄養児をみつけたらすぐさまアンケートをとろうとしていた。でもいまは色々な想いがあって、アンケートやインタビューはやめている。

目の前に支援が必要な親子がいるのに、私にできることは見つけられなかった。だから、英語と現地語が話せて、10年以上の経験があるボランティアさんに、この親子が重度の低栄養状態にあることを伝えた。すると、なにもあげられるものはないからアドバイスするしかできない。といって、食事の与え方の指導をしてくれた。

人の輪から外れて、二人の赤ちゃんに授乳をするお母さんから、なにかを訴えかけるように送られた視線。その視線に、その想いに気づきながら、なにもできなかった。せめてそばに行って話を聞くことができれば。いたたまれなくなって、看護師に相談した。「彼らは重度の低栄養状態で、お母さんは体に障害があるみたい…」
「なにをアドバイスしたの?」投げかけられた言葉にドキッとした。
「なにをしたらわかなくて..」
そう答えると、私の代わりにお母さんを呼び、月曜日に栄養士のもとを訪れるよう話してくれたのであった。

今までずっと成長モニタリングに来ていたのに、ただ体重測定をするだけで放置されてきた親子。
これをきっかけになにか介入がはじまれば…

でも、車で20分ほどかかる距離にあるヘルスセンターに双子の赤ちゃんを連れて、足の不自由なお母さんがやってくることは可能なのだろうか。
それに、いまさら彼らにどんな介入ができるのだろうか。
仮に、医療的な介入によって彼らの栄養状態が向上したとしてもすでに発育の遅れがでていることは確かだし、成長すればそれだけお金もかかるし子育ての手間もかかる。
彼らの未来に希望はあるのだろうか。

もしかしたら、これまで1年2か月も低栄養の双子が放置されていたのには理由があったのかもしれない。ただ見逃されていただけではなく、介入したところでなにもできないから意図的に見て見ぬふりがされてきたのかもしれない。

彼らのように重度の低栄養状態にある子どもの数は多くない。
それに少なくとも成長モニタリングに来てくれている時点で、単なるケア不足で重度の低栄養状態に陥っているわけではない場合がほとんどだ。

双子、低出生体重児、養育者の障害、シングルマザー…

あのお母さんは、子どものケアを怠っていたわけではないと思う。
月齢も正確に答えられていたし、ほとんど毎月成長モニタリングの記録があった。
ちゃんと育てたいのに、それができない。
妊娠も、双子も彼女が望んだことではないかもしれない。
障害の原因はわからないが、それだってもちろん彼女が望んだことではないはずだ。
もしかしたら彼女はだれかの助けを求めて、毎月成長モニタリングにきていたのかもしれない。
でも私も彼女になにもしてあげることができない。
胸が苦しくて、重たい。
何かを訴えかける彼女の視線と、ぐったりとした無表情の子どもたちの姿が頭から離れない。

この2年間は、なにもできないという現実を知るための期間
でもなにもできない現実を突きつけられるのは結構堪える。
見てみぬふりをすることもできる。忘れようと思えば忘れられる。
感受性を鈍くすれば、どれだけ楽になれるだろうかとも思う。
でも見て見ぬふりはしたくないし、忘れちゃいけないと思う。
だからこうして毎回のように記録している。そして伝えようとしている。
たくさんの数字のなかに埋もれてしまう、苦しみのなかで生きる彼らの存在を。

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