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松下幸之助と『経営の技法』#69

4/24の金言
 ジャズとスポーツ的な気分で仕事をしたい。愉快に楽しく喜び勇んで活躍していきたい。

4/24の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 諸君にお願いすることは、時勢に対してしっかりした考え方をもっていただきたい、そして各自生産人としての責務を自覚し、これが遂行に邁進願いたいということである。
 遂行は、苦しみながらではなく、同じ人生の過程なら愉快に楽しく喜び勇んで、活躍していただきたい。ジャズとスポーツ的な気分でするのが理想である。仕事の遂行に、犠牲があってはならない。働くことを楽しみつつ、希望に満ち満ちて欣喜雀躍の中に成果を上げていくべきだ。
 諸君もどうか私と同様に考えていただきたい。悩みのタネもあろうが、楽しく見、楽しく考えるように努めていただきたい。さすれば、楽しく人生が過ごせることと思う。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 「生産人」という概念に初めて出会いましたが、職人と同様のプライドを感じさせる言葉です。そこには、当然「誇り」「自覚」が伴いますが、ここで注目される1つ目のポイントは、この「誇り」「自覚」は、バランスの上で成り立つ、という点です。すなわち、一方で「時勢に対してしっかりした考え方」をもちつつ、他方で「働くことを楽しむ」ことが必要としているのです。
 2つ目のポイントは、その中でも後者の「働くことを楽しむ」が強調されている点です。これは、楽しむことの方が重要、ということかもしれません。あるいは、真面目な人たちは「時勢に対してしっかりした考え方」を、わざわざ言わなくても習得するから、そんな真面目な人たちにこそ、敢えて「働くことを楽しむ」意識が必要、ということかもしれません。
 3つ目のポイントは、「働くことを楽しむ」場面として、特に「遂行」と限定的に示している点です。色々な解釈が可能ですが、次のように解釈しましょう。すなわち、決定は経営判断であり、重大な責任を伴うから、大いに悩み、慎重に、しかし大胆に行うべきです。しかし、一度会社の問題として決定し、腹を括った以上は、くよくよ悩まずに開き直って、楽しみながらその実現を目指そう、という解釈です。
 この解釈は、意思決定過程はデューデリジェンスの問題であり、リスクコントロール上特に重要で、慎重だが大胆な判断が求められるので、「楽しむ」という名目で軽率に判断されても困るけれども、逆に、執行過程は組織の一体性や責任の所在の明確化の問題であり、好機を逃さずに一気呵成にやり遂げることの方が重要だからです。このような意思決定過程と執行過程を明確に区別した重要な概念として「衆議独裁」という言葉があります。この言葉の「独裁」部分は、一度決めた以上はつべこべ言わずやり遂げよう、という意味で、組織の側から見た言葉ですが、これを執行にかかわる従業員の立場から見ると、俺はこのやり方に反対したんだ、などとつべこべ言わず、一層のこと開き直って楽しくやり遂げればよい、と見ることが可能です。
 すなわち、「楽しく」「遂行」しよう、という呼びかけには、「衆議独裁」と同様の発想が見えるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者には、従業員教育の責任がある、従業員教育できる経営者を選ばなければならない、というヒントをくれます。とりわけ、真面目に「時勢を見る」冷静な面と、「楽しく」遂行する陽気な面の両方が備わった従業員が多く育てば、会社組織がそれだけ強くなることが、誰にでも理解できます。
 もちろん、そのような人材に集まってもらうことから話が始まりますし、従業員教育にもいろいろな方法が考えられ、会社の社風や従業員の個性に応じて適した方法を上手に組み合わせることが必要となりますが、松下幸之助氏のようなトップ自らも、このような講話を通して従業員教育に乗り出していることは、経営者のあるべき姿を考えるうえで、参考になるはずです。

3.おわりに
 プロとしての誇りと、楽しむという意識は、とてもバランスの取れた発想だと思います。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。



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