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プルースト『失われた時を求めて』を読む 前編

 プルーストの『失われた時を求めて』を読み終えました。
 去年の9月の読書記録に『失われた時を求めて』(光文社版)の1巻を読み終えたと書いてあるので、1年と4ヶ月ほどかかったことになります。

大長編を読む楽しみ

 いやー、長かった。『失われた時を求めて』光文社版は途中までしか出ていないのですが(なので、途中からはグーテンベルク21版を読みました)、岩波文庫版は14巻、集英社版は13巻。大長編ですよね。
 フォローしている楠本栞さんが『なが〜い小説を読む醍醐味』という記事を書いていらっしゃいます。
 

 楠本さんはデュマ・ペールの『ダルタニャン物語』全11巻を読破なさったのです(その中の一部である『三銃士』や『鉄仮面』が有名なシリーズです)。長い小説を読むのがお好きということで、他にも、同じデュマの『モンテクリスト伯』(全7巻)やロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』(全5巻)も読まれたようです。

 私が読んだ長い小説としてまず思い浮かぶのは、歴史&時代小説です。池波正太郎さんの『鬼平犯科帳』と『剣客商売』は、短編や文庫本1巻サイズの長編からなるシリーズです。鬼平が24巻、剣客が16巻と聞くと、「長い…」と思われるかもしれませんが、読み切りの短編が多いので、スイスイ読めます。


 司馬遼太郎さんも長い作品が多いですが、私が読んだ中では『翔ぶが如く』が一番長いかな(同じぐらい長そうな『坂の上の雲』は読んでないです)。これは…好きな方がいらしたら申し訳ないですが、繰り返し部分が多く…司馬さんでしたら、もっとコンパクトな『燃えよ剣』『峠』『国盗り物語』などをおすすめします。

 青空文庫で読んだ吉川英治の『私本太平記』と『宮本武蔵』も長さを忘れる面白さでした。吉川英治といえば司馬さんや池波さんより更に何世代か古い印象ですが、新聞の連載小説ということもあるのか、とても読みやすい作品でした。


 ファンタジー小説も、大長編が多いジャンルですよね。『指輪物語』は映画でハマって原作を読みました。反対に、原作を先に読んだのがジョージ・R・R・マーティンの『氷と炎の歌』シリーズです(ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作)。出版されているだけで文庫本12冊になるのですが、まだまだ続きそう。もう十年以上新刊が出ていないので、作者は話を終わらせる気があるのか…。異世界の話なので、現実逃避の手段として、また作品世界への没入度も、ファンタジーの大長編に勝るものはない気がします。

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 文学系の小説で長編といえば、村上春樹さんの作品を思い出します。一番長いのは『1Q84』かな。これも長さを感じさせない作品でした。
 先に挙げた歴史・時代小説やファンタジー小説、村上さんの小説は、現代の小説か、または少し古いにしても時の流れが今とそれほど変わらない時代の作品です。なので、読み手側も特に構えることなく、読むことができます。


 それに比べると、長い古典作品を読む時は、気持ちを切り替える必要があると思います。やたらと長い説明やヘンテコ科学が混じる作品もありますし、価値観や認識も今とは全く違う社会の話です。私は暇な時間がたっぷりあった中高時代にそうした長い古典小説に出会ったので、ゆったり読み進めることができたのですが、社会人になってからだと、読む気になったかどうか。
 一度その世界に入り込んでしまえば、表面的な違いなど忘れて、現代の私たちと同じように悩み、同じようにもがき苦しむ登場人物たちの物語に夢中になれるのですが。

 コロナ禍の出歩けない時期に、トルストイ『戦争と平和』(全6巻)の新訳が発売されたので、購入しました。この小説はそれまでにも3回読んでいるので、さすがに二度と読まないだろうと思っていたのですが、読み始めると前とは違う視点で物語を眺めることができました。作者が30代の時に書かれたので、若く溌剌とした雰囲気に満ちた作品なんですね。大勢の個性的な人たちが織りなす波乱万丈の物語。後半、作者の歴史観が何度も語られる部分が私にはちょっと退屈なのですが、その点を別にすれば、最も面白い古典小説の一つだと思います。

 『戦争と平和』の刊行を待つ間に、同じ作者の『アンナ・カレーニナ』(全4巻)も読みました。こちらは、『戦争と平和』よりも後に書かれた小説だからか、苦しみや孤独、裏切りといった感情に割かれるページが増えます。登場人物もそれほど多くないので、一人一人の心のありようが詳しく描写されています。歴史小説でもある『戦争と平和』とは違い、普通の人たちの日常を書いた作品なので、特別な知識がなくても入り込みやすい。また、タイトルが女性の名前なので、男性の方は敬遠なさるかもしれませんが、アンナだけではなく、作者がモデルになったリョーヴィンという男性も主人公です。アンナの恋愛の話と、善人だけど頑固で色んなことにこだわってしまうリョーヴィンの成長物語、二つの話が時に混じり合いながら語られる、男性にもおすすめしたい小説です。


 その後は、日本文学を読み始めたこともあって、海外の長編小説を読む暇がないのですが、それでも今、『カラマーゾフの兄弟』(5巻)と『ドン・キホーテ』(6巻)を少しずつ読んでいるところです。

 作者が作った精巧な世界に入り込み、自分もその世界の一部になったかのようにさえ思えるのが長い小説を読む醍醐味だと思います。
 中でも、『失われた時を求めて』はその独特さと長さにおいて他の追従を許さない作品なのですが、少し長くなりそうなので、次回、改めて書きたいと思います。
 
 

  

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