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桜、綻ぶ頃…… (日記)

毎年、桜が咲き始める頃、私の心は固く閉ざされる。春めいた陽気がかえって気持ちを不安定にさせる。暗闇の中で、絶えずもがいているような感覚。何もする気になれない。

桜なんて見たくない。
母の死を思い出す桜が、この世から無くなってしまえばいいとさえ思ってしまう。

2019年4月、医師に母の余命を告げられた。
後、数日の命だと。

(とうとう、来るべき時がきた……。
いつの間に、そんなに悪くなったんだろう)

医師の言葉に絶望しながら、覚悟を決めて病室に入った。
ベットに横たわる母の顔が、酸素マスクに覆われていた。食事を受けつけなくなり、点滴だけが母の命を繋いでいた。一回り痩せてしまった母の姿に、涙が込み上げてくる。

「母さん……」

母に近づき、声をかける。目は閉じたままだ。反応はない。
今度は耳元で、ゆっくりと話しかけた。

「母さん、元気になったら、父さんがいる施設に一緒に会いに行こうね! ねぇ、母さん!」

「うん、うん……」

喉の奥から声を絞り出すように、母が反応した。
恐らく、ただ私の声に反応しただけかもしれない。
会話の意味は通じていないだろう、と思った。
私は母の手を握り締め、しばらく傍で見守っていた。
できることなら病院の傍のホテルに泊まり込み、
毎日母の病室に通い、傍にいたかった。だけど私は隣の県に住んでいて、仕事もそう簡単には休めない。後ろ髪を引かれる思いで、その日の夕刻、
病院を後にした。

あと、どれくらい母の命が持つのか。
私は毎日祈った。

(奇跡が起きて、母さんは元気になる!)

毎日祈り続けた。
だけど1週間後、見事に希望は打ち砕かれた。
朝、病院から母の危篤を知らせる電話がかかってきた。
私は動揺し、急いで病院へ向かった。
道路沿いにある桜はほぼ満開で、目に眩しすぎるほどだ。こんな日に咲き誇る桜が、恨めしいとさえ思った。

母の最期には間に合わなかった。

今でも後悔が消えない。私は何度も心の中で母に言い続けている。

(母さん、入院中も一人ぼっち、亡くなる時も一人ぼっちにさせてごめんね。あの時、仕事休んでずっと母さんの傍にいたかったよ。ごめんね、ごめんね母さん。母さん、会いたいよ。幽霊でもいいから
会いに来てよ……)



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