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鑑賞ログ「せかいのおきく」


230507

最初の情報解禁から、観たいと思っていました!黒木華推しとしては観るべき作品でしょう。平成生まれで一番着物が似合う女優、と言っても過言ではない。ちなみに、昭和生まれの一番は岩下志麻ね。
阪本順治監督で池松壮亮も出てるんだったらクオリティは間違いないし。しかも青春映画ってところがいい。阪本順治監督って、勝手にちょっと硬めのイメージがあったけど、過去作品を見れば軽めなものもあるんだな。
が、劇場は貸切状態だった。悲しい。

時は幕末まっしぐらの安政期。もうすぐ新しい時代が始まろうとしている時の江戸。矢亮の生業は、江戸の市中で糞尿を集め、荒川を越えて葛西の農家まで届けること。時にバカにされながらも、生きるために相棒の中次と丁々発止のやりとりをしながら、仕事をして生きている。仕事先の一つの長屋には、何やら問題を起こして浪人となった源兵衛と娘のきくがいる。武士の娘として育てられたきくは、寺で書道を子どもに教えながら、エリート武士のルートからこぼれ落ちた父親と共に暮らしている。
そんな中、侍によっておきくの首が切られる。幕末、大きく時代が変わろうとする中、若い3人の行く末とは…という話。

「狐狼の血」を思い出させる冒頭。モノクロの必然性がよく分かる。モノクロにするのは、矢亮の生業をソフトに描くというメリットはもちろん、時代感を出すのに加えて、ちょっとごまかす部分もあるのかなと正直思ったけれど、雪の中の裸足が映るシーンは腹が寒く感じるほど寒々しかったな。長屋とかのセットも、モノクロだったからこそリアルに感じられた気がする。

3人の大きな絡みがあるわけではなく、それぞれの思いが交錯しながら物語が進んで行く。屎尿を集める仕事と、人間としてのプライド。その相剋を抱きながら、軽口を叩きながら、日々を生きる矢亮。なんだかこう、人間臭いんだよな。それがいい。演じる池松壮亮の力によるところもある気がしたな。
そして、おきくの味噌のおにぎりのくだり。ほっこりしたり、うまくいきそうでいかないところになんか自分を重ねちゃったな。ほっこりからのうまくいかないのスパンが短いこと…。もうちょっと幸せにしてあげればいいのに笑。佐藤浩市と寛一郎が共演してるのもツボ。

もうあと何年かすれば明治、という時代の中で、紡がれる市井の人々の物語。大きなうねりとは距離を置いた小さな物語ではあるけれど、ニマニマとほっこりして心にともしびが灯るような作品だった。


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