「上映禁止」と「シンポジウム」と「展覧会」----飯山由貴「あなたの本当の家を探しにいく」
図書館の棚でチラシというか、リーフレットを見つけた。
飯山由貴「あなたの本当の家を探しにいく」
コロナ禍以降、アートを見に行きたくても、持病のこともあり、感染が怖くて出かけられないことが続いて、特に都心部のビルの中での展覧会は、人が多そうで余計に行かれなかったので、移動のときも、なるべく人が少なそうな場所と時間帯であれば、と考えると、見られるアート自体が限られてしまう。
そんな中で、図書館で見つけたチラシの展覧会は、このアーティストの映像作品は、どこかで見た記憶もあったけれど、「東京都人権プラザ」という場所も初めてだったし、週に一度だけ出かけるところから比較的近いし、失礼な話だけど、現代美術は空いていることが多いし、あまり知られていない施設だったら、感染のことも考えなくてすみそうで、ありがたかった。
すごく立派な言葉で、さすが「人権プラザ」というような気持ちになり、これだけだと、ちょっと行くのをためらいそうだったけれど、同じチラシに、作家の文章があって、それは、とても行きたい気持ちになれるものだった。
「展覧会のためのノート」
すごく大事で、自分が無知だと分かるような内容であり、そして、ウソがない魅力的な文章だと思った。
こういう人が制作する映像作品は、見てみたいと思い、そして、11月下旬まで展覧会はやっているから、まだ期間はあるけれど、個人的には、用事が終わって、この場所に着くのは、おそらくは午後4時半。だから、閉館まで1時間しかなく、チラシにそれぞれの映像作品の上映時間が示されていたが、それを足すと、その時間では足りなくて、じゃあ、どうしよう、などと考えているのも、ちょっと楽しかった。
「上映禁止」
やっぱり、改めて失礼なことだと思うのだけど、おそらくは、現代美術の展覧会によくあるように、ひっそりとした感じで、だから、ゆっくりは見られるのだろうと思っていた。
だけど、急に、美術にまつわる「検閲」という言葉を目にするようになり、ここ何年かは、そういうことが多くて、ちょっと嫌にもなっていたけれど、その「上映禁止」というニュースが、自分が行こうと思っていた展覧会だと分かった時は、勝手に意外な気持ちだった。
《In-Mates》という作品の「上映禁止」という事態が起こっていたのを、こうしたニュースで初めて知った。
アートと政治は無関係ではないのだけど、こんなふうに注目を浴びるようなことには驚きと既視感もあった。やっぱり、「上映禁止」になった作品も、できたら見たかったのに、とアートの観客として思ったし、トークショーなどがなかったのは、確かにちょっと不自然だったのにも気がついた。
シンポジウム
そんなことを思っていたら東京藝術大学で、シンポジウムが開かれるのを知った。
オンラインで、「上映禁止」になった作品も見られるらしいので、申し込んで、途中で、こちらの操作が未熟で、うまく連絡が来なかったりもしたのだけど、そのことを問い合わせたら、きちんと対応もしてくれた。
当初は、500人予定だったのが、すぐにいっぱいになり、1000人で再設定になっていたから、予想以上の反響だったのだと思うのだけど、私のような一般の人間にも、視聴できるのは、やっぱりありがたかった。
当日、自分の操作ミスで、最初の数分が見られなかったけれど、《In-Mates》は、全編通して見ることができた。
川崎の海底トンネルという場所で行われた撮影で、入院患者という、当事者の記録がほぼ残っていない中で、その境遇を想像した上で、自らの思いや経験を含めたであろうラッパー/詩人のFUNIによる詩とパフォーマンスは、説得力もあったし、映像作品としても良かったし、「上映禁止」に関しての都側の理屈だけで、中止にするのは無理があると思った。
その後も、シンポジウムでは、ゲストたちによる話の中で、思った以上に「検閲」や「規制」のようなことが、アートに対しても行われていて、無理とは思いつつも、「中止」を決めた側の人たちも含めて話ができれば、それも含めて「作品」となるし、観客としては見たいと思ってしまった。
展覧会
そのシンポジウムがあった数日後、実際の「展覧会」に出かけられた。
夕方に用事が終わり、そこから浜松町に向かい、初めて行く場所だから、チラシに書いてある地図を、自分が歩くたびに方向を変えつつ、道路を歩くと、ホテルの隣に、本当にごく普通のビルがあった。
そこは「人権プラザ」であって、行政のスペースであるのは分かったけれど、現代美術の展覧会が開かれている感じはなく、入り口付近に受付のような場所があり、中年の男女のスタッフが二人いて、消毒と検温を促され、コロナ感染の場合のために連絡先を書いてください、と言われ、その後にシャープペンシルと一緒にアンケートなども手渡された。
閉館は、午後5時30分です、と告げられる。あと1時間弱しかない。
一番奥の部屋で展覧会が行われていた。
大きい1部屋には、映像作品が3本、同時に上映されている。
本当は一本、一本、じっくりと見た方が、鑑賞体験としては質が高くなるのは分かっていても、時間を考えたら、一つを見ながら、後ろを見て、違う作品を見たりして、出来るだけ全部を見ようとした。
そのハンドアウトには、丁寧な解説が書かれていた。すべてに振り仮名が振られていた。
作品解説
病院に関する映像作品は、本当に知らない事ばかりが多く、それでいて、そこに生きていた人が確かにいて、といったことまで伝わってくるようなものだった。
個人的には、《あなたの本当の家を探しにいく》が、姉妹二人で夜の街を歩いて、同じ方向を向いているから話せるような、カジュアルでシリアスでもある会話と揺れる映像が、とても豊かなものに感じて、好きな作品だと思った。
アンケート
実は、シンポジウムにはオンラインだけでも、500人は参加していたのだから、それからそれほどの時間が経っていないから、展覧会が、とても混んでいたら鑑賞しづらいし、コロナの感染を考えたら、怖さもあったのだけど、その企画展のスペースには、私以外は、女性が一人いただけだった。
それに、記者会見なども開いたのだから、会場の内外に騒然とした気配があるかもと思っていが、ただ静かな場所だった。
そして、午後5時30分近くになった時に、この施設の女性スタッフがやってきて、そろそろ閉館です、と遠慮がちに伝えてくれたのだけど、もう少し見たいと思い、立ち上がりながら、いつでも帰れるような姿勢を保っていた。
だけど、同じスペースにいた女性も帰っていったので、まだ全部見ていないけど、と思いながらも、その部屋を出て、出入り口付近で、アンケートも記入したものをスタッフに渡した。
すると、よろしかったら、ということで、自分が使ったシャープペンシルを持ち帰っていいようだった。ありがたくいただいた。
アンケートには、こんなことを書いた。
(他にも、いろいろなことを書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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