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【書評エッセイ】短歌という武器

萩原慎一郎さんの歌集「滑走路」を読んだ。

短歌という表現の武器を手にした、若者の歌集。

この武器を手にしていない他の若者もきっと同じような思いを心に抱えているだろう。

大人たちは新聞を読むのもいいけれど、この歌集も読んでみて欲しい。

抑圧されたままでいるなよ ぼくたちは三十一文字で鳥になるのだ  
きみのため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい  
クロールのように未来へ手を伸ばせ闇が僕らを追い越す前に  
 「小説の時代だけれど俺たちでなんとかしようぜ。絶対にな」

「ぼくたち」であり、「きみ」であり、「僕ら」であり、「俺たち」である。

他者への視点があり、他者との共感があり、他者への優しさがある。

仕事が重くて、胸がいたい。

無意識のままに歩いて気がつけばいつものように会社の前に  
ぼくも非正規きみも非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる  
眠るしか選択肢なき真夜中だ 朝になったら下っ端だけど  

上記以上に、感性がきらめく短歌らしい歌が好きだ。

スパゲッティミートソースを混ぜに混ぜじんわり舌に感じるイタリア
うしろ手に携帯電話抜くときにガンマンになった気がする僕は
太陽のような光に出逢いたく林檎をぱーんとふたつに割りぬ
なぜだろう天使がタバコを吸っている オセロの駒にある黒と白
太陽は沈み少年期は終わる されども月が夜空に浮かぶ

萩原さんはもういない。

短歌という武器を受け継ぐべきは、「別の若者」であるあなただと思う。


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