図書館で借りた本の返却期限が差し迫っていたので、焦って読んでいた夕方。友人から電話がかかってきた。
出てみればその声は少し涙声で、どうした、どうしたと、ちょっと慌てる。

テレビをつけていなかったので知らなかったのだけど、交通網が大変なことになっているらしい。
そういえば、電話をかけてきた友人は確か本日、大好きな俳優さんの舞台を見に行くと言ってなかったか？

話を聞いてみれば、電車が止まったことを知って急いで家を出てタクシーの列に並ぶこと3時間強。あと10分ほどで開演時間となっていたけれど、第二幕に間に合えばと、順番がきて乗り込んだタクシーの運転手さんに行先を告げてみれば、電車が止まっている関係で、いつもの倍以上時間を要するということ。

そうなれば舞台は既に終わってしまうと、悩んだ挙げ句に泣く泣く断念したらしい。
そして、その勢いのまま私に電話をしてきたようだ。

どうすることもできないけれど、「行きたかったよぉ、白いワンピースも新しく買っておめかししたのにぃ」と、電話の向こう側で静かに涙を流す友人の言葉を聞いていた。

誰も悪くないし、不可抗力なことだから、ただただ話を聞くことしかできなかったけど、きっと彼女の好きな俳優さんは、空席を作ってしまうことに怒ったりするような人じゃないんじゃないかな？

そして、好きな人のために洋服を新調して、おめかしして、どうにか駆けつけようとするいじらしい彼女がとても愛らしく思えた。
恋をしている女性は綺麗だと言うけれど、そういうことなのかもしれない。

次は無事舞台が観れることを私も願っているよ。

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