puzzzle

作文とロックンロール。

puzzzle

作文とロックンロール。

マガジン

  • 文芸ヌー参加作文

    生活に負担の少ないブンガクを。

最近の記事

無期限活動停止中

 週末は別の顔。会社員と掛け持ちでアルバイトをはじめた。結婚して三年、子供はめでたいが出産ってそんなに金がかかるのかよ。自治体から補助金が出るらしいが、産んでから後払いなんて意味がないだろう。本気で少子化を憂うなら出産で稼ぐな。  隣駅にうどんチェーンの求人を見つけた。パッとしないショッピングセンターのフードコート。店舗は地味だが日用品が揃うため思いのほか集客がある。久々のアルバイト、うどんを茹でてカウンターに出すだけの単純作業と高をくくっていた。なんだよこの重労働。二日目に

    • 2024年2月 ~鯨肉と判決2.0

       どうせまた30秒で判決が下されて終わるのだろう。分かっていながらも、この傍聴席を一つ埋めることが俺にとって適度な市民運動であり、毎年大半を使いきらずに終わってしまう有給休暇の消化手段なのだった。 「言っていることではなくやっていることがその人の正体」  多分 Xwitter かなんかだよ。このごろ説教じみた書を貼り出しては写真でアップする寺が流行っているじゃない。坊さんのやることだがら説教じみないと雰囲気でないのだろうけど。でも、それは一歩を踏み出せない俺には痛い言葉で、原

      • 未だ曾て有らず

        「管制塔から小比叡船長へ。気分はどうだ?」 「まあ、ボチボチです」 「おまえはいつだってボチボチだな」  最近ではこれと言って話すこともなく、俺と社長は同じ話題を繰り返すばかり。入社初日に寝坊してきたこと。焼肉ランチの野菜は焼き加減が分からないこと。学問とは近視眼的に目の前のものを実現しようということとは縁の違う世界に存ること。親父は逆上がりができないくせに息子の鉄棒に厳しいこと。  今日は何を繰り返そうか。 「あれは入社初日じゃなくって、入社前のオリエンテーションでしたよ」

        • 俺には土地がない

          嗚呼また通勤。松葉杖の少年がケンケンで階段を上っていった。先発、次発、次々発、背中がお行儀よく静かに並んでいるホーム。ランドセルを背負った制服の少女が鈍行の車内に立つ。母親にずっと手を振っている。ドアが閉まるまでずっとだよ。確かあれはオーストラリア人だった。前職のプロマネが日本にやって来た時「ニホンのデンシャはミンナシズカでイイね」と言った。俺の耳は殆んど英語なんて受け付けない。だけど訛りのきつい英語でそんなことを聞かされた記憶がある。俺はへらへら頷いた。戸袋が好きだ。このポ

        無期限活動停止中

        マガジン

        • 文芸ヌー参加作文
          41本

        記事

          やましたの戦争

           ニンゲンの顔を成しているかどうかは鼻の形で決まる。  その油彩にはたくさんの顔がある。私の思いつきが正しければ、キャンバスに描かれた顔はすべてニンゲンである。中には角を生やした顔もある。ウシではないのかと問われても、角を生やしたニンゲンに違いない。何より鼻がウシでない。ニンゲンの鼻を生やしたウシである可能性はどうか。でも、顔が扁平じゃない。いや、肌色だし。ニンゲンの顔を成しているかどうかの定義が揺らぎはじめる。気の利いた閃きのように思えたのだよ。未だ誰も気づいていない発見な

          やましたの戦争

          死ねるおまえら

           羨ましい。もうすぐ死ねるおまえらのことが本当に羨ましい。これから起こるニンゲン対シゼンの戦争のことなんて何も気にする必要などないのだから。おまえらは宣戦布告したまま死んでいく。俺たちにツケを残して、甘い汁だけチューチュー吸って死んでく。俺たちが何をした。おまえたちの人生にしてみれば、五分の一程度しか存在していない俺たちだ。なんの力もない俺たちだ。おまえたちの年金を支えることもしていない俺に、文句を言う資格はないか。おまえたちに育ててもらった覚えもない。声を大にして言いたいけ

          死ねるおまえら

          ファシリティ

           便所に籠って肛門に力を込める。  ふう。  一息ついて携帯端末を手に取る。タイムラインを遡り世界を切り取る。閲覧注意の虫画像に手が止まる。オオキンケイギクの花弁にとまるツユムシ、どちらに注意すべきか。鮮やかな花を旺盛に咲かせる特定外来生物。栽培しただけで三年以下の懲役もしくは三〇〇万円以下の罰金。世間は妙なところに気を配る。著名人の死が報道されればお気軽にRIP。#国葬反対 のハッシュタグは消え、県民葬まで無事に執り行われた。  足下には脱ぎ捨てられた白のつなぎ。ここでは一

          ファシリティ

          2023年3月末 ふくしま

           人生ではじめて鴨南蛮蕎麦を食ったのは東京駅の立ち食い蕎麦だった。入社して間もない頃。今から20年も前のことだ。高速バスに乗り込む前だった。鴨南蛮って美味いよな。鴨肉の歯ごたえ最高。鴨が葱を背負ってやってきたら間違いなく喰らいつく。  東京駅から高速バスを乗るのは久しぶりだ。20年ぶりの今回はプライベートだよ。入社から20年も経つとリフレッシュ休暇なるものが与えられるのだ。 「どこか行くんですか?」  そんなことは聞いてくれるな。何の予定もないまま二週間の休みに突入した。見た

          2023年3月末 ふくしま

          割とキリギリス

          「みんな買うって言ってるよ」 「郁子のみんなって三人くらいでしょう」  四人だもん。私を入れれば。 「スマホは早めに持ったほうがいいんだよ。どうせいつか持つんだから早めに覚えたほうがいいって、先生が言ってたよ」 「先生がお金出してくれるわけじゃないでしょう」  お金の話を出されると手に負えない。高校に入ったら絶対にバイトしてやる。諭吉一枚でも家計に入れれば文句ないでしょう。私は湯気の立つ皿を受け取ってテーブルに着く。 「俺、ジャワカレーのほうがいいんだけど」 「文句言うやつは

          割とキリギリス

          2023年1月 ~鯨肉と判決

           その日は有給休暇だというのに朝から顧客面談だ。30分のWeb面談。コロナのお陰様で普及した大変便利な営業スタイルである。現場対応が求められる職種だが、一発の面談ごときでわざわざ足を運ぶ必要はなくなった。緊急事態宣言の頃は、むしろ訪問しないほうがマナーだとされ、その考え方は未だ根強い。きっと感染を気にしているだけではないのだ。訪問するほうもされるほうも本音では面倒臭い。こっちは30分の面談で1時間のかけて現場へ向かうのだ。あっちは会議室を予約してお茶を準備するのだ。しかし、W

          2023年1月 ~鯨肉と判決

          不都合な忍術

           隣国の発射した九発のミサイルのうち、その五発が我が国の排他的経済水域に着弾したと思われた。  カメラの前に立ったの背広組の男は、指を舐めながら使い古されたノートをめくって定型文を口にする。 「これは国連安保理決議違反であり、決して許されるものではなく、厳しく非難し、抗議する」  制服組の女が駆け寄り耳打ちをした。男は慌ててノートを捲る。 「さきほど不適切な発言がございました。訂正してお詫び申し上げます」  記者倶楽部に動揺が走る。シナリオが変わると誰も質問を読み上げることが

          不都合な忍術

          支流

           一級河川。暮らしや産業の発展にとって欠かせない川。国土交通省や都道府県が管理する川。美しく立派な川である必要はない。鯉や亀などの外来生物ばかりを馬鹿デカく育む川であろうとここ早渕川は一級品だ。  俺は紀之と二人、そんな一級河川に沿って自転車を走らせている。 「あとどのくらいだろうな」 「知らんぺったんゴリラの餅つきや」  川幅は狭く、晴れた日の水量は少ない。川底に溜まったヘドロのお陰で輝きはない。それでも水の流れは緩やかで、臭いの割に透き通っている。川辺に蔓延る雑草以外にも

          名前を付けて保存

           肛門に違和感を覚え、風呂で尻を洗っていると指先に真珠のような滑らかな触感とともに僅かな痛みが走った。いぼ痔という言葉が浮かんだ。その翌日には北のミサイルが発射された。俺が肛門に真珠を見つけた時、首相はその動向を見守るべく官邸に泊まっていたかもしれない。  これが本当にいぼ痔であるのかは知らない。今のところ真珠と呼ぶことにする。なによりはじめてのことなのだ。肛門の指の届くエリアに滑らかな異物が存在する。いぼ、おでき、ふきでもの、しこり、腫瘍。それが俺の組織からなる隆起物である

          名前を付けて保存

          母は少年のように爺さんと遊ぶ

           2016年03月某日、 「次私、また私、はい私、UNOっ!」  リビングルームに顔を出せば、母は必死の形相。何が楽しいのか爺さんと一対一のカードゲーム。スキップ、リバース、スキップで、ワイルドドロー4。 「リバースはまた私なのか?」俺は母に問う。 「じゃないと役札の意味ないじゃない」 「ママは強いなぁ」  爺さんは柔和な笑みで呟く。そして、億劫そうに腕を伸ばし、震える指先で山札から四枚のカードを引いた。 「親父ぃ、私、あんたのママになった覚えはないよ」  何度聞いても母の

          母は少年のように爺さんと遊ぶ

          チリコンカーン

           戦後、飢える列島に再来した黒船は、脱脂粉乳と小麦、そして給食を置き土産にして帰っていった。  教科書にはそう書かれていたはずだが、海の玄関口であるこの都市には、いまだに中学校給食が存在しない。子供たちにスティグマを与えないということが完全給食の原則であるならば、ハマ弁という名の冷や飯はそれに値しない。  そして、献立表が届くとはじまる論争。 「頼むから週二はハマ弁で堪えてくれ」  親は眉を垂らして俺を拝む。 「カレーは絶対外してくれ」  俺は毅然とそれに対峙する。 「カレー

          チリコンカーン

          コラージュ・ルポルタージュ

           東京駅近くの小さな画廊、割といい頻度で山下菊二の作品展が開催されている。時折思い出したように「山下菊二」とSNSを検索すれば、その画廊の情報にぶつかる。そんな時は比較的仕事に余裕のある時期で、有給休暇をとってはふらふら足を運ぶ。 「へーさん、へをひれ、ぷっとひれ」  仕事で出向く機会などない千代田区、先ずは農林水産省の食堂で鯨肉を食らう。汗して働く役人でも見物してやろうと企むが、意外とそれらしき人間よりカジュアルな男女が多い。腹が動き出したら便所へ向かう。人間は陶器から食べ

          コラージュ・ルポルタージュ