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輪舞曲 ~ジロンド⑮完結~
「ルカのことを覚えているかい?」
「もちろんだよ。あの変わった人形のこともね。」
「久しぶりに連絡が来て少し話したのだけれど、叔父さんから譲り受けた屋敷を手放すことにしたらしい。彼の給金では、あの屋敷は維持できないからだと言っていた。早速だが、買い手もつきそうだと言っていたよ。ただ、あの叔父さん・・・彼が言うにはかなりのやり手らしいが、ただで手放すなんて考えられないからと心配していたよ。」
「そう
輪舞曲 ~ジロンド⑭~
夏も終わりかけのある日、ユーグが紅茶を飲みながら新聞に目を通していると、ピエールがメイドと共に現れた。いつもは昼過ぎから夕方にやってくるのに、珍しいこともあるものだと思った。
「やあ、久しぶり。」
そう言って笑った彼の顔は、連日夜遅くまで続く付き合いで疲れている様子は感じられない。彼は、飲み物を用意しようとするメイドに「すぐに帰るから」と言って話始めた。
「朝早くにすまないね。会えてよかったよ
輪舞曲 ~ジロンド⑬~
「ーー以上が、こちらのマドモアゼルが話してくれたことだよ。」
ユーグはワインで喉を潤すと、長い脚をゆっくりとを組み替えた。人形は相変わらず表情を変えず、ただこちらを見ているだけだ。こんなにも波乱万丈な人生を歩んでいたなんて、普通の人なら信じられないだろう。
「・・・随分と長い話だね。まるで小説みたいじゃないか。」
ピエールは感心したように言ってワインを飲んだ。
「そうだね、ましてやフランス革命
輪舞曲 ~ロンドン⑥~
まだ若かったわたくしには納得のいかない思いが強かったのですが、ヘンリー様との関係はそれぞれの家の意向もあったのでしょう。必ずしも彼女たちが好きでやっていたのではなかったのだろうと、今ならよく分かります。そして、そのことはキャサリン様も受け入れていらっしゃったのかもしれません。
少しずつ仕事に慣れてきたと感じる頃、わたくしはキャサリン様とお別れすることとなりました。それは甚だ不本意なことではござ
輪舞曲 ~ロンドン⑤~
彼女は戸惑うことなく、すっとチャペルのある扉を進んで行く。私も黙って彼女について行った。
「ヘンリー8世のことをよく御存じなのでしょうか。」
「ええ。でも、それ以上にお妃さまのこと、キャサリン様のことは存じ上げておりますわ。・・・アン様のことも。」
「そうですか。お会いしたことが無いので羨ましいことです。」
「そう。よく羨ましがられたけれど、わたくしは良かったと思ったことなどあまりないのよ。」
輪舞曲 ~ロンドン④~
やがて、沢山の並んでいるドアのなかから一つのドアが開けられた。天井は大広間のように高く、奥に天蓋のついたベッドが見えた。
私が吸い寄せられるように進もうとすると、靴の先が部屋の中に入るか入らないかの瞬間に「そこまでです」と案内の女性に止められた。私が、はったとして申し訳なさそうにすると、女性は無表情で小さく頷いた。
部屋の壁紙は2メートル以上あるだろうか、深い緑色に金色で植物を模した紋章のよ
輪舞曲 ~ロンドン③~
ハンプトンズ・コート宮殿を案内してくれたのは、きびきびと動く感じの良い女性だった。彼女は手際よく宮殿の中を案内してくれた。こういったことに慣れているのか、私が気になったことを聞いても即座に返事をしてくれた。もっとも、親戚の親子は終始硬い表情で、聞いているのか聞いていないのか分からなかったのだが。
薄暗い食堂を通り抜け、いくつかの部屋を見て回っている時だった。私が壁にかかっている肖像画を眺めてい