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雑文

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主に読書感想文を載せています。ネタバレしない内容を心がけてますが、気にする人は避けてください。批評ではなく、感想文です。
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#クレスト

クレメンス・マイヤー 『夜と灯りと』

★★★★☆

 旧東ドイツ出身の作家による短篇集。12篇収録。2010年にクレストブックスから出ています。

 社会的に見棄てられた人々が次々と出てきます。市井の人々ではなく、失業者、囚人、過疎化した村の独居老人など、窮乏した生活をおくる下層に位置した人たちしか出てきません。
 そして、物語にも救いはありません。
 心がホッコリするようなよい話とは無縁です。陰鬱でみすぼらしく、希望など欠片もありま

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アリス・マンロー 『善き女の愛』

★★☆☆☆

 2014年に刊行されたアリス・マンローの9冊目の短篇集。オリジナルは1998年に発表されたそうで、マンローは当時60代だったそうです。

 いつも褒めてばかりいるので、今回は気になったところを挙げたいと思います。マンローの小説には、個人的に気になるところがあるんです。それは登場人物の把握しづらさです。

 マンローの短篇にはしばしばたくさんの人物が登場します。それも5、6人が一気に

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アリス・マンロー 『ディア・ライフ』

★★★☆☆

 現在のところ、アリス・マンローの最新・最後の短篇集となっている本作。2013年刊行(その後に出版されたのは過去の作品のようです)。
『林檎の木の下で』の帯に「これがわたしの最後の本」と書かれてましたが、その後にも『小説のように』と本作が出たので、これで最後かはまだわかりません。最後であってほしくないですね。

 執筆した年齢もあって、遠い過去のことを振り返っているものが多い気がしま

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アリス・マンロー 『林檎の木の下で』

★★★☆☆

 アリス・マンローばっかりですやん、という内なる関西弁のツッコミが聞こえます。仕方ないんです。そういう時期なんです。
 原題は『The View from Castle Rock』なので、『キャッスル・ロックからの眺め』といった感じでしょうか。林檎、関係あらへん、とついエセ関西弁になってしまいます。
 小説の邦題っていまだに意訳がありますよね。音楽のアルバムだと、英語のままがほとんど

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アリス・マンロー 『小説のように』

★★★★☆

「短篇の女王」と誉れ高いアリス・マンローの短篇集。10篇収録。2009年にカナダと英国で刊行されたものなので、ノーベル賞受賞前のものになります(ノーベル賞は2013年に受賞)。

「現代のチェーホフ」と評されるとおり、雰囲気と読後感に似たものを感じます。短篇というフォーマットの中でどこまでも深い広がりを見せる力量は他に類をみません。

 短篇となると、少ないエピソードや短い時間をさっ

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ブライアン・エヴンソン 『ウインドアイ』

★★★☆☆

 薄気味の悪さや不穏な雰囲気に満ちた25篇を集めた短篇集。ホラーやゴシック感に満ちていますが、ただの恐怖小説というわけではないです。人間の認識と世界の実相とのギャップ、感覚のずれ、狂気といったところに踏み込んでいるので、一口に「怖い」とは片づけられない奇妙な据わりの悪さがあります。

 恐ろしいけれど、なにが恐ろしいのかわからない、そのせいで余計に恐ろしい、という複雑な味があります。

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ベン・ファウンテン 『ビリー・リンの永遠の一日』

★★★☆☆

 イラク戦争における戦闘で一躍英雄となった一時帰還兵たちが、スーパーボウルのゲストとして駆り出され、戦意高揚に利用される様子を描いた小説。

 個人的な読みどころはなんといってもアメリカ的なものの描かれた方です。読んでいて、「ああ、アメリカってこうなんだろうな」とか、「まさにアメリカ人って感じだな」と、しみじみと感じ入りました。

 私は映画やドラマというものをほとんど観ないので(昔

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