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雑文

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主に読書感想文を載せています。ネタバレしない内容を心がけてますが、気にする人は避けてください。批評ではなく、感想文です。
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#クレストブックス

クレメンス・マイヤー 『夜と灯りと』

★★★★☆

 旧東ドイツ出身の作家による短篇集。12篇収録。2010年にクレストブックスから出ています。

 社会的に見棄てられた人々が次々と出てきます。市井の人々ではなく、失業者、囚人、過疎化した村の独居老人など、窮乏した生活をおくる下層に位置した人たちしか出てきません。
 そして、物語にも救いはありません。
 心がホッコリするようなよい話とは無縁です。陰鬱でみすぼらしく、希望など欠片もありま

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アリス・マンロー 『ジュリエット』

★★★★★

 2004年、アリス・マンローが73歳のときに刊行された短篇集。翻訳版は2016年。原題は『Runaway(家出)』ですが、映画化された連作短篇に倣って『ジュリエット』にしたそうです(映画のタイトルは『ジュリエッタ』)。

 アリス・マンローの小説がいまひとつ好きではないという友人が、その理由として、なんとなく話がぼんやりしているから、と言っていました。
 なるほど。そう言う気持ちも

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クセニヤ・メルニク 『五月の雪』

★★★★☆

 ロシアに生まれ、15歳でアメリカに移住した作家クセニヤ・メルニクの処女短篇集。9篇収録。

 ロシアの極東の町マガダンを中心にした物語です。ソビエト連邦とその崩壊、シベリア強制収容所、共産主義下での生活といった歴史的背景を下地として、市井の人々の人生や人生の一コマが丁寧に描かれています。
 ふつうの短篇集と思って読んでいたら、途中から前の話の登場人物が出ていることに気がつきました。

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アリス・マンロー 『善き女の愛』

★★☆☆☆

 2014年に刊行されたアリス・マンローの9冊目の短篇集。オリジナルは1998年に発表されたそうで、マンローは当時60代だったそうです。

 いつも褒めてばかりいるので、今回は気になったところを挙げたいと思います。マンローの小説には、個人的に気になるところがあるんです。それは登場人物の把握しづらさです。

 マンローの短篇にはしばしばたくさんの人物が登場します。それも5、6人が一気に

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アリス・マンロー 『ディア・ライフ』

★★★☆☆

 現在のところ、アリス・マンローの最新・最後の短篇集となっている本作。2013年刊行(その後に出版されたのは過去の作品のようです)。
『林檎の木の下で』の帯に「これがわたしの最後の本」と書かれてましたが、その後にも『小説のように』と本作が出たので、これで最後かはまだわかりません。最後であってほしくないですね。

 執筆した年齢もあって、遠い過去のことを振り返っているものが多い気がしま

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アリス・マンロー 『林檎の木の下で』

★★★☆☆

 アリス・マンローばっかりですやん、という内なる関西弁のツッコミが聞こえます。仕方ないんです。そういう時期なんです。
 原題は『The View from Castle Rock』なので、『キャッスル・ロックからの眺め』といった感じでしょうか。林檎、関係あらへん、とついエセ関西弁になってしまいます。
 小説の邦題っていまだに意訳がありますよね。音楽のアルバムだと、英語のままがほとんど

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