若林明良

わかばやしあきら と読みます。

若林明良

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  • 140字小説

    140字の小説を3編づつ掲載しています。

  • NHK俳句・短歌・文芸選評、💢没った💢エッセイ

    NHK俳句・短歌・文芸選評投稿作や、没になった300字のエッセイです。 自分の記事の中ではそこそこ人気です。

  • 創作短編・短歌・俳句・川柳・詩

    恋愛あり、ナンヤコレ?っていうのもあり。短めです。

  • エッセイの数々

    日々思うことのつれづれ。短歌・俳句もたまに入ってます。

  • 音楽に寄せる愛シリーズ

    音楽に寄せる愛を、短歌・俳句・エッセイなどで綴りました。

記事一覧

固定された記事

余白の神様 #短編小説

 夏。僕は「豚の警察」という本をお母さんに買ってもらった。読んでいて、僕はだんだん腹が立ってきた。話のすじ自体は面白いのだが、余白があまりにも多すぎるのだ。上下…

若林明良
7か月前
91

140字小説/深

保育所の送迎は深緑色のホンダZだった。祖母の車。昭和五十年代。地元では運転する年配の女性が珍しかったし、深緑色なのも珍しかった。なんで深緑なん?深緑が好きやから…

若林明良
2日前
15

140字小説/遠

遠い昔、人類は箱であった。ときおり展開し光合成した。箱に戻る際、誤ってたびたび蝶を閉じ込めた。殆どは酸欠で息絶えたが、猛者は苦しみながら箱にぶつかり箱を凹ませた…

若林明良
3日前
17

言葉の舟 140字小説

ほしおさなえさんの「言葉の舟 心に響く140字小説の作り方」読了。後半のコンテスト入賞作品も含め、きらめく宝石みたいな、あるいは肌触りのよい布のような物語たちにう…

若林明良
4日前
22

NHK短歌への投稿作・5月号

選者:川野里子先生 題詠「ひとり」 不参加?の返事は明るく簡潔に「孤独を愛する人間なので」 班決めで一人あぶれた者同士一緒にされてカレーを作る 殺人の動機さまざま…

若林明良
5日前
16

添削の魅力

NHKテキストを読んでいて、おや?と思うことがあります。 NHK短歌2月号、誌上添削教室より。 死神と半分づつの新豆腐マンションの孤独なる死の現場 兵庫県 藤田晋一さん…

若林明良
6日前
16

米泥棒 #ショートショート

 夜通しで米泥棒の見張りをせよと両親から命じられた拓斗は倉庫内でこごえていた。十月半ば。横殴りの雨がシャッターを打ちつける音が響く。記録的な冷夏で極度の米不足…

若林明良
7日前
19

句会ライブ in 寝屋川市立市民会館

昨日、夏井組長の句会ライブに初めて行ってきました。組長がすごいのは、お客さんと会話しながら面白くなる方向へ話をひっぱっていってくれるところ。鬼のように当意即妙で…

若林明良
10日前
22

NHK文芸選評への投稿作・4月

4/6 短歌 選者:穂村弘先生 兼題:猫 ねこ餅は猫のおもちにあらずして年末母と作るねこ餅 食べためし元に戻すは猫に戸を閉める術学ばせるに等し 台所、お風呂、トイレの…

若林明良
12日前
19

NHK俳句への投稿作・4月号

選者:夏井いつき先生 兼題「入学試験」 弁当の具は鳥の肝入学試験 スケートの試合聴いてる明日受験 落丁の説明長し入学試験 平行に鉛筆並ぶ受験場 鹿二頭受験帰りの社道 …

若林明良
13日前
22

NHK短歌への投稿作・4月号

選者:川野里子先生 題詠「顔」 半世紀仕込みのわれの観相学四角い顔は嘘がつけない 目の前のラーメンライス 猫のえさ一回分は顔の大きさ 年越しの朝顔たしかに生きてゐ…

若林明良
2週間前
17

NHK短歌への投稿作・3月号

いつも同じ、毎回必ずこれをすると決めてしまうと自分が飽きてしまってしんどくなるので、選者の作品に限定せず、その方の選された作品やお言葉などからも引用したいと思い…

若林明良
2週間前
13

NHK俳句への投稿作・3月号

選者:夏井いつきさん 兼題「氷」 厚氷どけよ最初は俺が割る 旧ツイッター旧ジャニーズや川氷る 第七戦氷る刺身を飯に乗せ 氷の海老ら夢見るやうに死んでゐる まつしろな…

若林明良
1か月前
44

NHK文芸選評への投稿作・3月

3/2 俳句 選者:高野ムツオさん テーマ:東日本大震災 この回は締め切りが一週間早くて、出すのを忘れましたー笑 永劫の酸性雨なり兎の眼  高野ムツオ 兎の眼の赤は…

若林明良
1か月前
33

観音菩薩 #SS

 恵実はため息をついた。十二月、平日の午前。観光シーズンは終わった。案内所に入ってくる客はまばらで、ガイドを頼む客もいない。ガイド休憩所のテーブルで仰木が一人…

若林明良
2か月前
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先生 #SS

 年末。ANAホテルにて短歌結社「青桐」の忘年会が開催されていた。晴れやかな場が苦手な奥本誠一であったが、憧れの歌人、新見稔とどうしても話したくて、残り少ない貯…

若林明良
2か月前
35
固定された記事

余白の神様 #短編小説

 夏。僕は「豚の警察」という本をお母さんに買ってもらった。読んでいて、僕はだんだん腹が立ってきた。話のすじ自体は面白いのだが、余白があまりにも多すぎるのだ。上下、左右、そして段落の間の余白が。 「なんだよ、これ。1760円もするけど、ぼったくりじゃん。余白をぎゅっと縮めたら、半分になるよ。そしたら880円で買えるのに」  僕は本の最後に印刷されている出版社の電話番号に電話した。 「はい、夏耳社でございます」 「こんにちは。中学一年の近藤貴志といいます。あの。『豚の警察

140字小説/深

保育所の送迎は深緑色のホンダZだった。祖母の車。昭和五十年代。地元では運転する年配の女性が珍しかったし、深緑色なのも珍しかった。なんで深緑なん?深緑が好きやからや。…人気が無くて安うする言われたからや。ふうん。でも他が赤や白ばっかりやから一番目立ってるで。というかおばあちゃんが。 深海に横たわる一枚の鋼鉄。ぼこぼこに変形したその下にサメの子が潜んでいる。毎夜彼は夢をみる。ここをうんとうすくした青。火の球のぎらぎら。熱い、熱い。羽の生えたやつ飛んでった。四角い街遠ざかり。緑が

140字小説/遠

遠い昔、人類は箱であった。ときおり展開し光合成した。箱に戻る際、誤ってたびたび蝶を閉じ込めた。殆どは酸欠で息絶えたが、猛者は苦しみながら箱にぶつかり箱を凹ませた。脱出に成功した勇蝶もいた。これが盲腸と脱腸の名残である。勢い余り箱ごと移動する蝶。これは進化の道を逸れ、駝鳥となった。 この世界は私から遠ざかっている。ミントの浮かんだグラスも、グラスに反射する光も。翠のピアスとシャツの裾をゆらす風も。はるかかなたの星雲も、星雲を飲み込む黒い穴も。少しづつ、急速に。あなたが永遠に私

言葉の舟 140字小説

ほしおさなえさんの「言葉の舟 心に響く140字小説の作り方」読了。後半のコンテスト入賞作品も含め、きらめく宝石みたいな、あるいは肌触りのよい布のような物語たちにうっとり。私は切手が好きなのですが(写真より手書きの絵のやつが好きです)、140字小説は切手に通じる魅力があります。小さな面積に精密描写をする点が同じに思えるからでしょうか。 第2章の140字小説実作講座では、言葉を省いて、移動して、省いた言葉を復活させて小説が締まってゆく様子はたいへん参考になります。講座の生徒さん

NHK短歌への投稿作・5月号

選者:川野里子先生 題詠「ひとり」 不参加?の返事は明るく簡潔に「孤独を愛する人間なので」 班決めで一人あぶれた者同士一緒にされてカレーを作る 殺人の動機さまざまその一つぼっちと言われ言わせておけよ パソコンのファンがざあざあ音たてて私やっぱりひとりになりたい 愛知県 水谷文音さん(5月号) 一読、この人、自分じゃないかと驚きました。誰かと直接、あるいはネットで会話するのも楽しいけど、ふっと思う。私やっぱり、ひとりになりたい。ファンのざあざあ音は自分と外界を遮断してくれて

添削の魅力

NHKテキストを読んでいて、おや?と思うことがあります。 NHK短歌2月号、誌上添削教室より。 死神と半分づつの新豆腐マンションの孤独なる死の現場 兵庫県 藤田晋一さん 藤田さんは短歌、俳句の色んなところで作品とお名前をお見かけする巧い方です。NHKテキストの読者のお便りエッセイや、最近ではよみうり時事川柳でもお見かけしました。 ええと、掲出歌。添削の必要、ないですよね? あえて言わせていただけるとすると、上の575だけで良句になっています。季語「新豆腐」を入れてくるあ

米泥棒 #ショートショート

 夜通しで米泥棒の見張りをせよと両親から命じられた拓斗は倉庫内でこごえていた。十月半ば。横殴りの雨がシャッターを打ちつける音が響く。記録的な冷夏で極度の米不足に陥り、全国の農家で米泥棒が出没していた。しかも夏からの雨がいっこうに止まない。  米が傷むので倉庫の暖房使用は厳禁だ。寒い。寝袋から頭を出し、コンビニで買ったパンをかじりながらスマホを見ている。明日一時限目は出席必須の講義なのに。  ……ったく。米がなけりゃパンを食えばいいではないか。って、どこかのお姫様が言ってたっ

句会ライブ in 寝屋川市立市民会館

昨日、夏井組長の句会ライブに初めて行ってきました。組長がすごいのは、お客さんと会話しながら面白くなる方向へ話をひっぱっていってくれるところ。鬼のように当意即妙です。もう、むちゃくちゃ笑わせていただきました! 上沼恵美子の代わりにクギズケ!の司会よゆうで出来はると思います。 「いつき組の中にかたまって俳句を研究してるややこしいグループがいて、独特な空気をかもしだしている。だまっていても誰がグループの人間か私にはわかる。そのオーラがむんむん出ている」 という意味のことを仰って

NHK文芸選評への投稿作・4月

4/6 短歌 選者:穂村弘先生 兼題:猫 ねこ餅は猫のおもちにあらずして年末母と作るねこ餅 食べためし元に戻すは猫に戸を閉める術学ばせるに等し 台所、お風呂、トイレの手洗い場あらゆる蛇口を記録する猫 われのあごねこのあたまにこすりつけずっといっしょにだい好きだよと 青森県 山口秀子さん 愛猫への想いを超ド直球で詠まれています。「好」だけが漢字で、あとはぜんぶひらがな。いかにも猫のあの、どのようにも曲がるやわらかい姿態が表現されているではありませんか。猫同士があごをこすりつ

NHK俳句への投稿作・4月号

選者:夏井いつき先生 兼題「入学試験」 弁当の具は鳥の肝入学試験 スケートの試合聴いてる明日受験 落丁の説明長し入学試験 平行に鉛筆並ぶ受験場 鹿二頭受験帰りの社道 若草の火の遠にあり受験終る 以前に自選しますと言っときながらつい、こんなにたくさん出してしまいました。すみません。一首目は佳作に採っていただきました。組長ありがとうございます! 私、夏井さんの「組長」って呼び方がかっこよくてすごい好きなんです。 Xで4月19日にポストされた組長のお言葉です。 こうピシッと言

NHK短歌への投稿作・4月号

選者:川野里子先生 題詠「顔」 半世紀仕込みのわれの観相学四角い顔は嘘がつけない 目の前のラーメンライス 猫のえさ一回分は顔の大きさ 年越しの朝顔たしかに生きてゐるだんだん薄く小さくなりても ひとり手を挙げる反逆、教室に無言の「えーっ」の地響きがする 東京都 稲山博司さん(5月号) 作者はたぶん真面目な生徒で、絶対に反抗的なことはしないと思われていたのでしょう。無言の「えーっ」の地響き巧い。微妙な空気がひろがる景色がみえます。何に対して反逆されたのか。そこが気になります。

NHK短歌への投稿作・3月号

いつも同じ、毎回必ずこれをすると決めてしまうと自分が飽きてしまってしんどくなるので、選者の作品に限定せず、その方の選された作品やお言葉などからも引用したいと思います。自由に、ランダムに。この取り組みもいつまで続くかわかりませんが、なにか始めてもすぐやめてしまうのが私のあかんところであり、よいところでもあります。 選者:川野里子先生 題詠「光」 雲間より延びる光線あのなかを過ぐ鳥たちに光は見えず 朝は美人に見える鏡が夕方はそれなりとなる光の魔法 いちにちの境界線に野良猫ら朝陽

NHK俳句への投稿作・3月号

選者:夏井いつきさん 兼題「氷」 厚氷どけよ最初は俺が割る 旧ツイッター旧ジャニーズや川氷る 第七戦氷る刺身を飯に乗せ 氷の海老ら夢見るやうに死んでゐる まつしろな秋蝶轢いたかもしれぬ  夏井いつき 秋に真っ白な蝶っている? 調べると、コスモスの蜜を吸うモンシロチョウの画像を見つけました。日付が十月。とはいえ、ほぼ見かけないような。「まつしろな秋蝶」といわれてグニッとした感覚がわき起こるのは「明るい闇」と同じく形容矛盾だから。秋なら暖色系だよね!って固定観念を蹴とばしてく

NHK文芸選評への投稿作・3月

3/2 俳句 選者:高野ムツオさん テーマ:東日本大震災 この回は締め切りが一週間早くて、出すのを忘れましたー笑 永劫の酸性雨なり兎の眼  高野ムツオ 兎の眼の赤は血管の色がそのまま見えているのですが、こう詠まれると酸性雨で充血しているとも思えてくる。原因には工場や車のガス以外にも火山ガスなど自然由来もありますけれども、酸性雨は大気を汚す人間に「答え」を返しつづけるのでしょう。酸性雨は私が小学生の頃に仲間うちで騒ぎはじめて、雨に濡れたら皮膚が溶けると怖れられていました。雨

観音菩薩 #SS

 恵実はため息をついた。十二月、平日の午前。観光シーズンは終わった。案内所に入ってくる客はまばらで、ガイドを頼む客もいない。ガイド休憩所のテーブルで仰木が一人、はがきを書いている。もう三時間もそうしている。  仰木に茶を出しがてら、声をかけた。 「今日は、何枚書かれたのですか?」  仰木が人懐っこい笑顔をあげた。 「山本さん、ありがとう。今日は二枚だけやから、ちょっと仏さんも描いてみたんや」  みると、仰木の肉厚の字の隅にかわいらしい薬師如来像が色筆ペンでしたためられてい

先生 #SS

 年末。ANAホテルにて短歌結社「青桐」の忘年会が開催されていた。晴れやかな場が苦手な奥本誠一であったが、憧れの歌人、新見稔とどうしても話したくて、残り少ない貯金を崩して出席したのであった。  スピーチが延々と続く。大広間の最後列にいた誠一はそっと会場を出た。と、ロビーで新見稔と花城こんぱすが談笑していた。  一年前、毎読新聞で読んだ新見の短歌に感動した。短歌にさほど関心のなかった誠一だったが、魂を救われたと思った。歌壇欄で選者を務める新見に短歌を送ってみたところ、ほどなく佳