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【ショートストーリー】 好きなことを「好きだから」という理由だけでする

何でもそろっていて,
退屈な日々を送っていた16の頃,
特に何がしたいってわけではなく,
ファースト・フード店でバイトを始めた。
私にはそれだけで
エキサイティングな生活が到来した。

「何でバイト始めたの?」
仲よくなったバイト仲間に聞かれて困った。
「俺はギター買うため。キミは?」
更に突っ込まれて言葉を失った。
「バイトをしてみたかったから」
という理由じゃダメなのかな…?

バイトとサークル活動に明け暮れた
大学時代も終わり,大企業に就職し,
簡単で退屈な事務の仕事と,
オジサンたちの相手にうんざりし,
憧れていたフランスに,逃げるように留学した。

留学先で友達になった日本人仲間に,
「何でフランスに来たの?」
また理由を聞かれて困った。
「俺はデザイナーになりたいから。キミは?」
みんな目的を達成するためにここに来ている。
私の留学は,またもや手段ではなく目的だった。

「現実逃避して来た」と
ためらいもなく答える友人もいた。
うらやましかった。
私はもっともらしい理由をつけて,
その場を切り抜けた。

でもそれから何日もの間,
その質問が頭の中をまわり続けた。
なぜ「フランス留学に憧れていたから」と
堂々と言わなかったのだろう。
「人生の休暇」でもよかった。
表面を取り繕っている,
自信のない自分が情けなかった。

やりたいのに何もしないよりは,
遥かにいいと思っていたのに。
きっかけなんて何だっていいってことは,
もうとっくに知っていたのに。

少なくてもその時点で,
なんらかの一歩は踏み出しているわけだし,
理由が何であれ,
その場所に来ていることは皆同じ。
そこから新たな目的は必ず生まれる。

好きなことを
「好きだから」という理由だけでする。
そんな打算のない想いから
すべてがはじまるって,
その頃の私はもう気づいていたはずなのに。

©2023 alice hanasaki

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