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小説(1~2分)

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小説
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1分30秒小説『零瘤駱駝が転生したらマルクスだった件』

 或る砂漠に一匹の零瘤駱駝と一匹の三瘤駱駝がいました。当然ですが一瘤駱駝も二瘤駱駝もいましたそれらはたくさんいました。
 零瘤駱駝は、瘤の無い平たい背中を見る仲間たちの視線が気になって気になって木になってしまいたいと思うほどでした。病んでました。
 或る日 、毛を刈られたばかりの羊と雑談をしていると「じつは三瘤駱駝さんも同じことで悩んでいるみたい」と聞かされ。
「そうかっ!なら良いアイデアがある」

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1分40秒小説『電話予約』

1分40秒小説『電話予約』

「”肩甲骨剥がしコース”っていうのをお願いしたいんですけど」
「かしこまりました。ご希望の何枚は何枚でしょうか?」
「え?」
「剥がしたい肩甲骨の枚数を教えて頂けますでしょうか?」
「えっと、左右両方だと2枚ってことですか?」
「そうですね。ちなみに料金の方は1枚1000円となっております」
「あ、はい。じゃあ2枚で」
「只今キャンペーンを行ってりまして、2枚以上ご希望の方は、1枚分無料となってお

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1分30小説『余計』

「普通盛りで」
「あのー、当店ボリュームがウリのお店でして、普通盛りだとかなり麺の量多いのですが」
「そう?じゃあ初めてだし小盛りにしとこうか」
「小盛りだとですねぇ。『こんなに美味しいのなら普通盛りにしとけばよかった』と殆どの方が後悔されます」
「……なるほどね。ちょっと考えていい?」
「はい、お決まりになりましたらお呼び下さい」

「すいませーん。ちょっといいかな?」
「はい、お決まりになりま

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1分30秒小説『無難』

ワニ「すいません」
店員「はい、いらっしゃいませ」
ワニ「この財布、何革?」
店員「そちらはピッグスキンですねぇ。豚の革で出来てます。柔らかな手触りで人気があります」
ワニ「これは?」
店員「そちらは牛革です。カーフスキンと呼ばれる生後6ヶ月以内の仔牛の革で、牛革のなかでも最高級品と言われています。きめ細かく、軽くて丈夫なのが特徴です」
ワニ「へー、いいねぇ。あとこれも気になるんだけど」
店員「そ

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1分20秒小説『Nemophila』

1分20秒小説『Nemophila』

 秋、引き出しの奥から種が出てきた。花の種。ああ――あん時のか。袋を振る。微かに音がする。ゴミ箱に投げる。スマホで動画を見て、ソファーに沈んで、天井を見て、ゴミ箱から種を拾い上げ「蒔いてみるか」

 洗濯の時しか用事が無いベランダ。隅にほったらかした丸い大きなプランター、その下に土の入った袋「まったく――」
 袋の裏を読む。季節的にも丁度いい、でも三年も昔の種、果たして芽吹くのだろうか?ま、どうで

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1分30秒小説『シュレシュティンガーの光』

1分30秒小説『シュレシュティンガーの光』

 学校に行きたくない、と母にゴネる。見かねた父がため息を吐く。そして両の手のひらをクの字に曲げて張り合わせ、中に空洞を作る。

「この中に何を閉じ込めたと思う?」
「何って?何も入ってないじゃない」
「きらきらとそこら中を飛び回ってた朝の光、そいつを閉じ込めたんだ」
「嘘よ!光なんて閉じ込められないわ」
「そうかな?」
「手のひらで覆っちゃたから中は真っ暗だよ」
「父さんはね。この手のひらの中で、

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1分小説『ぎんがにかける』

1分小説『ぎんがにかける』

海面が遥か下に見える。
「どうして……」
 いつものように水中から飛び出しただけなのにどうして?いつものように海に戻れない。延々と空を飛び昇っていく。飛び魚は考えた――きっと、僕は死んだのだ。
 海神が僕の魂を呼び戻しているんだきっと――いや、待てよ。ならば何故空を飛んでいる?海底神殿は海の底にあるのに……考えても仕方なかった。成す術はない。ただひたむきに真っすぐに空を貫き飛び魚が飛んでいく。撃ち

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1分小説『おとしもの』

「落としましたよ」
 女に声を掛けられた。
「貴方の絶望でしょ?」
「確かに、でも要らないよ」
「え?」
「そのままにしておいてくれ」
「駄目よそんなの!」
「は?」
「街を汚さないで!」
「いいだろ別に、絶望なんてそこら中に落ちてるし」
「駄目です。ちゃんと拾ってください」
 正義感が強いのか?ズレてるのか?
「じゃあ聞くけどアンタさぁ、道に絶望落とした時拾うの?」
「そ、それは……」
「拾わな

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1分小説『小麦粉と青年』

「すまない」
 黒い髭の隙間から、漏れた。
 青年、コック帽を脱ぎ、調理台に置く。その傍らに焼きたてのパン。
 青年は嘆いた。懺悔をしたいが、その宛先が分からない。パン、可視的な香気を窓越しの朝陽に浮かべている。

「失敗だ」
 感情が飽和し、爆ぜた。パンが震え。
「ボ・・・ボクは失敗作なの?」
「ああ、そうだ」
「そんな!酷いよ!」
「だから、すまないと言っている」
「お詫びはいいから、ねぇ、ボ

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1分小説『哲学する調味料』

1分小説『哲学する調味料』

「ところでさぁ――」
 調味料ラック、醤油が口火を切る。
「お前らって、”柚子”なの”胡椒”なの?」
「え?」
「え?」
「だからさぁ、お前らって柚子胡椒なわけじゃん?結局、柚子なの?胡椒なの?」
「そ…それは――」
 言いよどむ柚子、いきり立つ胡椒。
「決まってるだろ!”柚子胡椒”だぞ!つまり柚子入りの胡椒、そういうことだろ?違うか?」
「なるほど」
 頷く醤油。柚子が反論する。
「待って!納得

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1分小説『宇宙から口づけを撮影した場合』もしくは『カッパが流れる時速』

1分小説『宇宙から口づけを撮影した場合』もしくは『カッパが流れる時速』

 人の懐事情に一切斟酌することなく、「回らない寿司を食わせろ」などと抜け抜けとほざく君へ、一つ確認したい。「君は、この惑星が自転、公転という運動を常に行っているという事実を認識しているだろうか?」

 学生時代に習ったはずだが、敢えて説明をしておく。
 この地球という惑星、地軸という軸を中心に、駒のようにクルクルと回っている。これがいわゆる自転。その速度、時速17000km。
 更に地球は、太陽の

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1分小説『いろんななきごえ』

1分小説『いろんななきごえ』

「はい、トド」
「ウァーウァー」

「アザラシ」
「アーアー」

「オットセイ」
「オウオウ」

「セイウチ」
「グアーグアー」

「はい、山田さんっ!」
「……」
「山田さんっ!
「……」
「山田っさんっ!ちゃんと鳴いて!」
「……」
「どうして鳴かないの?」
「……」
「鳴き方を忘れちゃったかなぁ」
「……」
「ほらっ、お客さんも待ってるよ。見て、あんなに沢山のこども達、皆、山田さんの鳴き声が

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1分小説『忙しい現代人のための日本省略昔話』

1分小説『忙しい現代人のための日本省略昔話』

【わらしべ長者】
 昔或る処に、貧乏な若者が住んでいました。ある日若者は夢でお告げを受けてわらしべを持って道を歩いていました。
 若者はわらしべを大きなお屋敷と交換して裕福になりました。

【桃太郎】
 大きな桃が鬼が島に流れ着きました。中から桃太郎と犬(以下割愛)が出てきて、見事鬼を退治して平和を取り戻しました。
 めでたし めでたし

【竹取物語】
 竹取の翁が竹を割ると、中から何かが飛び出し

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1分小説『大鋸』

1分小説『大鋸』

 注文を伝え手持無沙汰、張り紙のメニューを冷やかす――キツネ蕎麦、タヌキ蕎麦、大ザル蕎麦、アナタの蕎麦。ん?アナタの蕎麦?

 老夫婦二人で営んでいる様子。奥でおじいさんが蕎麦を茹で、お婆さんが配膳、音も立てずにスーと、なんだかスターウォーズのロボットに似てる。
 「お待ちどうさまです」
 来た。いただきます。箸を付ける。ん?お揚げさんが見当たらない。キツネ蕎麦を頼んだはずなのに、肉が浮いているだ

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