あにぃ@掌編小説家もどき

小説家を目指して言葉を紡ぐ。 2024.1 毎日18時に1000文字程度の掌編純文学…

あにぃ@掌編小説家もどき

小説家を目指して言葉を紡ぐ。 2024.1 毎日18時に1000文字程度の掌編純文学更新。「18時からの純文学」 過去作品...... ★『365日の記念日小説』(2020.10~2021.9) ★短編少々... 一人で何人もの毎日を生きていきたい。

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超掌編小説始めます@あにぃ

はじめまして、もしくはお久しぶりです。 「あにぃ」と申します。 イイ歳をした小説家志望です。 ★2024年1月1日より、超掌編小説の毎日18時投稿を開始致します。 どうぞ…

0508_全力の無駄

「お腹すいた?」 「うん、少し」 「パン、分けてあげるよ」 「ありがとう」 「······あ」  ころころころと、小さなロールパンが転がっていく。私はそれを見続けて…

0507_読んで生きる

 気づけば時間はどんどん進むのだった。  カチカチともコチコチとも、秒針の音さえ鳴らず、ただなにもなかったようにして時は進む。いいことがあった時も、悪いことが重…

0506_これさえあれば(仮)

 これさえあれば、私は生きていける。  この一冊があれば、私の生きる指針になるだろう。  この一冊があれば、私が涙するときにはその涙を乾かしてくれることだろう。 …

0505_葉の間

 見上げると光が差し込んでいた。  色などついていないだろうが、白や黄色、時々薄い青や赤が見えた。多色が偏光しキラキラと光って見える。  いや、違う。光が差し込…

0504_内外

 その頃の私は日々に絶望していたように思う。朝起きることに絶望し、洗顔するにも呼吸の仕方を忘れたように苦しみ、朝食をとっても味がせず、トイレに入れば下着を脱ぐこ…

0503_初夏に泣く

 私は、男の人がこんな風に綺麗に涙を流しているのを見たことがなかった。  彼のその体躯の割に小さく幼い顔立ちのせいなのか、それともこの春を終えたばかりの季節柄、…

0502_暑い春

「ああ、なるほど」  女が言った。  なるほどと言っているのに、言葉に反してどうにも納得などしていないようだ。目を凝らせば、下唇を噛んだりもしている。悔しいのだ…

0501_晴れた曇り空

 どんよりとした曇り空だった。今にも雨が降りそうな湿っぽい空気とその色に、亀岡もどんよりした。  ホームで電車を待つ間に空を見ながら考えている。ポケットの中から…

0430_それではさよおなら

「さよおなら」  私は、今、何度目かの『さよおなら』をしている。目の前には目を丸くした男が一人。  この半年一緒にいた彼は電車で見かけた大学生だった。満員で身動…

0429_石とパン

 男は佇んでいた。  昼下がりの商店街のメイン通りから少し外れた細道にある、古びたベンチに座っている。5階建ての小さな建物が並ぶその間の通りは細く、人が2人並んで…

0428_振り向けば

 後ろを振り向くと、誰もいなかった。  例えばそれは『後ろの正面だあれ』なのかもしれないし、『だるまさんがころんだ』なのかもしれない。  振り向けば、誰かはいるは…

0427_あの人の血赤珊瑚

 小さな赤いビーズがいくつも連なっている。  ところどころにハートやリボンのビーズやモチーフが飾られているが、そのどれも赤い。赤く、艶やかで、光が当たるとキラキ…

0426_不意な愛

 私の胸の中に、小さな赤子がいる。母親に聞けば生後3ヶ月らしい。 「ぃぎゃあぃぎゃあぃぎゃあ」  生後3ヶ月の彼は力強く、顔を真っ赤にして泣き叫んでいる。何を、そ…

0425_骨を折る

 ポキリ、と小気味良い音を立てたのは私の右足だった。  なんということはない、細い、けれどそれなりに固い木の枝を踏んだだけである。骨ではない。それだけ、ただそれ…

0424_私の五月

 雨だった。  桜の木も、すでに花びらよりも緑の葉の方が多い。昨日今日のこの長雨で花びらは散り、緑の葉はより濃く艷やかになるのだろう。 「五月になったらね」  …

超掌編小説始めます@あにぃ

超掌編小説始めます@あにぃ

はじめまして、もしくはお久しぶりです。
「あにぃ」と申します。

イイ歳をした小説家志望です。

★2024年1月1日より、超掌編小説の毎日18時投稿を開始致します。
どうぞ末永くよろしくお願い致します。

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以下、私の略歴と自己紹介です。

中学生で小説家に憧れ

高校生でが

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0508_全力の無駄

0508_全力の無駄

「お腹すいた?」
「うん、少し」
「パン、分けてあげるよ」
「ありがとう」
「······あ」

 ころころころと、小さなロールパンが転がっていく。私はそれを見続けているが、ソウくんは追いかけ始めた。待って、待ってと言いながら、坂でもないのに、転がり続けるロールパンを追う。
 私もそれに付いていくことにした。
 私は、トコトコとのんびりついていく。ソウくんはドタドタと足がもつれそうになりながらパン

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0507_読んで生きる

0507_読んで生きる

 気づけば時間はどんどん進むのだった。
 カチカチともコチコチとも、秒針の音さえ鳴らず、ただなにもなかったようにして時は進む。いいことがあった時も、悪いことが重なるときも、同じ早さで同じ強さで時が進み、私が進む。

「私はまだこんなところにいるのか」

 愕然と呟いてみるが、私が今いるのは本屋である。町の小さな駅前本屋。そして、私は今日、50歳になった。なんの感慨もなく、むしろこんな風に絶望さえ感

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0506_これさえあれば(仮)

0506_これさえあれば(仮)

 これさえあれば、私は生きていける。

 この一冊があれば、私の生きる指針になるだろう。
 この一冊があれば、私が涙するときにはその涙を乾かしてくれることだろう。
 この一冊があれば、私が怒りに我を忘れそうなその時に、怒りを沈める術を示してくれるだろう。
 この一冊さえあれば、私は生きていける。

 この一つがあれば、私の生きるよすがとなるだろう。
 この一つがあれば、例え雨の日も風の強い日も、私

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0505_葉の間

0505_葉の間

 見上げると光が差し込んでいた。
 色などついていないだろうが、白や黄色、時々薄い青や赤が見えた。多色が偏光しキラキラと光って見える。

 いや、違う。光が差し込んでいたのではなく、光はただそこにあり、葉や枝の隙間もまたそこにあるだけで、それらが重なっていることで光がこちら側に飛び出て見える。それを『差し込んで』見えたと思っただけである。ただ、それだけである。
 私が見上げたことで、まるで私に光が

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0504_内外

0504_内外

 その頃の私は日々に絶望していたように思う。朝起きることに絶望し、洗顔するにも呼吸の仕方を忘れたように苦しみ、朝食をとっても味がせず、トイレに入れば下着を脱ぐことを忘れていたのだった。朝のひとときでさえこの有り様なので、会社に出勤しても、その一分一秒が苦しみの連続である。今、この場でいなくなってしまいたいと、何分にか一度思うばかりであった。
 別に何かがあったわけでもないのに、私の防御は完璧だった

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0503_初夏に泣く

0503_初夏に泣く

 私は、男の人がこんな風に綺麗に涙を流しているのを見たことがなかった。

 彼のその体躯の割に小さく幼い顔立ちのせいなのか、それともこの春を終えたばかりの季節柄、暖かさと暑さの中間の風が私の頬を撫でるからなのか、晴れた日の美しい夕日が彼を照らしているからなのか。その人は、とても清潔で綺麗に見えた。

 あまり流行らない町の通り、カフェのテラス席で一人、彼は姿勢正しく座ったままで泣いていた。

 そ

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0502_暑い春

0502_暑い春

「ああ、なるほど」

 女が言った。
 なるほどと言っているのに、言葉に反してどうにも納得などしていないようだ。目を凝らせば、下唇を噛んだりもしている。悔しいのだろうか。

「すまん、別れてくれ」

 そう言って頭を下げたのも、これもまた女だった。なるほどと言った女とは別。両の手のひらをパチンと鳴らして合掌をしている。その隣には小ぶりの女がぽつんと立っている。左手の指で、頭を下げた女のシャツの裾を

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0501_晴れた曇り空

0501_晴れた曇り空

 どんよりとした曇り空だった。今にも雨が降りそうな湿っぽい空気とその色に、亀岡もどんよりした。
 ホームで電車を待つ間に空を見ながら考えている。ポケットの中から好物の黒飴を取り出し、口に放り込んで、もごもごと時々歯に当てながら舐め、考えている。

 私はこれで正しかったのだろうか。

 亀岡はアパートに妻と子の3人で暮らしている。世間一般の四十半ばの収入には相当するとは思えないが、妻のパート収入も

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0430_それではさよおなら

0430_それではさよおなら

「さよおなら」

 私は、今、何度目かの『さよおなら』をしている。目の前には目を丸くした男が一人。

 この半年一緒にいた彼は電車で見かけた大学生だった。満員で身動きがとれない電車の中、彼の手がそわそわと動いていたのだ。その手をどこに持っていけば痴漢に間違われずにすむだろうかと思案していたのだと思う。私の肩に度々、彼の手の甲が触れるのだった。私はぐいっと彼の正面に向き直り、目線を合わせた。彼は大層

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0429_石とパン

0429_石とパン

 男は佇んでいた。
 昼下がりの商店街のメイン通りから少し外れた細道にある、古びたベンチに座っている。5階建ての小さな建物が並ぶその間の通りは細く、人が2人並んでは通れない程。片方の壁に向けてベンチが置かれていた。そこに、男は座っている。
 ぼーっと前を見て、ただの建物の、これもまた古びた壁を見る。その後で、首を90度上に傾け、真上の空を見た。

 男は、自分が孤独であることを知る。

 男の側に

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0428_振り向けば

0428_振り向けば

 後ろを振り向くと、誰もいなかった。
 例えばそれは『後ろの正面だあれ』なのかもしれないし、『だるまさんがころんだ』なのかもしれない。
 振り向けば、誰かはいるはずなのだ。それが一人なのか大勢なのかは分からないけれど、少なくとも誰かはいるはずだった。

 でも、そこに誰もいなかった。

 私は降り向いたまま、硬直し、けれど涙が落ちた。
 私の歩んだ道に、誰もいないのか。そう思うと、もうどこにも歩け

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0427_あの人の血赤珊瑚

0427_あの人の血赤珊瑚

 小さな赤いビーズがいくつも連なっている。
 ところどころにハートやリボンのビーズやモチーフが飾られているが、そのどれも赤い。赤く、艶やかで、光が当たるとキラキラと輝くのだった。近所にできた手芸屋さんのワークショップで、今、その粒を手にのせている。小さくて可愛いそれらは一粒ずつが意思を持っているように見えて、私は思い出していた。

 あの人のメガネに、それはつけられていた。
 はじめてあの人を見た

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0426_不意な愛

0426_不意な愛

 私の胸の中に、小さな赤子がいる。母親に聞けば生後3ヶ月らしい。

「ぃぎゃあぃぎゃあぃぎゃあ」

 生後3ヶ月の彼は力強く、顔を真っ赤にして泣き叫んでいる。何を、そんなに、怒っているのだろうか。私は思わず頬が緩む。

「本当にすみません」

 母親はこっちを見ては手元の書類を見て、ペンを持つ手を動かしたり止めたりしている。

「気にしないでください。ゆっくりどうぞ」

 私は言い、それは本心であ

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0425_骨を折る

0425_骨を折る

 ポキリ、と小気味良い音を立てたのは私の右足だった。

 なんということはない、細い、けれどそれなりに固い木の枝を踏んだだけである。骨ではない。それだけ、ただそれだけなのに、私の目が覚めた。

 私、本当は何がしたかったんだっけ。

 視線の行き先は変えず、私はまっすぐにそう思う。ああ、そうだ。小学校の先生になりたかったのだ。子供が好きで、例えば保育園や幼稚園でも良い。時には厳しいことも言うけれど

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0424_私の五月

0424_私の五月

 雨だった。
 桜の木も、すでに花びらよりも緑の葉の方が多い。昨日今日のこの長雨で花びらは散り、緑の葉はより濃く艷やかになるのだろう。

「五月になったらね」

 彼はうっすらと笑う。それは確かに春の暖かな微笑みではなく、どこか時々の冷たさがある。私は彼に詰め寄った。

「そんなの、全然待てないよ」

 大きな声を密やかに、彼に言う。彼は私の耳元にそのキレイな唇を寄せて答える。

「今、こうして君

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