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超掌編小説始めます@あにぃ
はじめまして、もしくはお久しぶりです。
「あにぃ」と申します。
イイ歳をした小説家志望です。
★2024年1月1日より、超掌編小説の毎日18時投稿を開始致します。
どうぞ末永くよろしくお願い致します。
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以下、私の略歴と自己紹介です。
中学生で小説家に憧れ
高校生でが
0508_全力の無駄
「お腹すいた?」
「うん、少し」
「パン、分けてあげるよ」
「ありがとう」
「······あ」
ころころころと、小さなロールパンが転がっていく。私はそれを見続けているが、ソウくんは追いかけ始めた。待って、待ってと言いながら、坂でもないのに、転がり続けるロールパンを追う。
私もそれに付いていくことにした。
私は、トコトコとのんびりついていく。ソウくんはドタドタと足がもつれそうになりながらパン
0507_読んで生きる
気づけば時間はどんどん進むのだった。
カチカチともコチコチとも、秒針の音さえ鳴らず、ただなにもなかったようにして時は進む。いいことがあった時も、悪いことが重なるときも、同じ早さで同じ強さで時が進み、私が進む。
「私はまだこんなところにいるのか」
愕然と呟いてみるが、私が今いるのは本屋である。町の小さな駅前本屋。そして、私は今日、50歳になった。なんの感慨もなく、むしろこんな風に絶望さえ感
0506_これさえあれば(仮)
これさえあれば、私は生きていける。
この一冊があれば、私の生きる指針になるだろう。
この一冊があれば、私が涙するときにはその涙を乾かしてくれることだろう。
この一冊があれば、私が怒りに我を忘れそうなその時に、怒りを沈める術を示してくれるだろう。
この一冊さえあれば、私は生きていける。
この一つがあれば、私の生きるよすがとなるだろう。
この一つがあれば、例え雨の日も風の強い日も、私
0503_初夏に泣く
私は、男の人がこんな風に綺麗に涙を流しているのを見たことがなかった。
彼のその体躯の割に小さく幼い顔立ちのせいなのか、それともこの春を終えたばかりの季節柄、暖かさと暑さの中間の風が私の頬を撫でるからなのか、晴れた日の美しい夕日が彼を照らしているからなのか。その人は、とても清潔で綺麗に見えた。
あまり流行らない町の通り、カフェのテラス席で一人、彼は姿勢正しく座ったままで泣いていた。
そ
0501_晴れた曇り空
どんよりとした曇り空だった。今にも雨が降りそうな湿っぽい空気とその色に、亀岡もどんよりした。
ホームで電車を待つ間に空を見ながら考えている。ポケットの中から好物の黒飴を取り出し、口に放り込んで、もごもごと時々歯に当てながら舐め、考えている。
私はこれで正しかったのだろうか。
亀岡はアパートに妻と子の3人で暮らしている。世間一般の四十半ばの収入には相当するとは思えないが、妻のパート収入も
0430_それではさよおなら
「さよおなら」
私は、今、何度目かの『さよおなら』をしている。目の前には目を丸くした男が一人。
この半年一緒にいた彼は電車で見かけた大学生だった。満員で身動きがとれない電車の中、彼の手がそわそわと動いていたのだ。その手をどこに持っていけば痴漢に間違われずにすむだろうかと思案していたのだと思う。私の肩に度々、彼の手の甲が触れるのだった。私はぐいっと彼の正面に向き直り、目線を合わせた。彼は大層
0428_振り向けば
後ろを振り向くと、誰もいなかった。
例えばそれは『後ろの正面だあれ』なのかもしれないし、『だるまさんがころんだ』なのかもしれない。
振り向けば、誰かはいるはずなのだ。それが一人なのか大勢なのかは分からないけれど、少なくとも誰かはいるはずだった。
でも、そこに誰もいなかった。
私は降り向いたまま、硬直し、けれど涙が落ちた。
私の歩んだ道に、誰もいないのか。そう思うと、もうどこにも歩け
0427_あの人の血赤珊瑚
小さな赤いビーズがいくつも連なっている。
ところどころにハートやリボンのビーズやモチーフが飾られているが、そのどれも赤い。赤く、艶やかで、光が当たるとキラキラと輝くのだった。近所にできた手芸屋さんのワークショップで、今、その粒を手にのせている。小さくて可愛いそれらは一粒ずつが意思を持っているように見えて、私は思い出していた。
あの人のメガネに、それはつけられていた。
はじめてあの人を見た