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【創作】玉座にて【スナップショット】

そなたは魔女か?
 
もしそうだとしたらどうする?
おつきの者を呼ぶか?
 
いや、その必要はない
この城の厳重な警備を破って
そなたはここまできたのだろう
今呼んでも何にもなるまい
私一人で十分だ
何の用だ
私の命か?
 
そうかもしれない
お前は特に怯えてもいないようだ
 
恐怖など感じない
私は奇術や魔術に驚くには
あまりにも多くのことを見過ぎた
あまりにも長いこと
権力の座にいたのだから
 
なるほど、確かに王のお前の権力は
魔術の類に違いない
法令によって人々を縛り
大軍を指先一つで左右する
どこぞの魔女も形無しの呪術使いだ
 
少しは話せる魔女のようだ
 
権力を失うのは惜しいか
 
惜しいと言えば惜しい
私が死ねばある部分は
失われ変化する
惜しくないと言えば惜しくない
この国の本当に重要な部分は
この歳月で揺るぎなく
築き上げた自信はある
幸い民は私の若い頃より豊かで
貧しい者、苦しむ者は減った
 
それは確かに幸いだな
自分の手腕によるものと思っているか
 
違う、これだ
 
高価そうな宝石細工だ
 
巨大なエメラルドの原石を
この国の最も優れた職人が磨き上げ
蔓草の美しい金銀細工を纏わせた
この世で最も美しい輝きだ
 
そのような石ころが何になる
 
魔女なのにそんなことも分からないのか
この宝玉はこの国の民の心の象徴だ
万物は壊れる
だが、輝きは決して破壊できない
その輝きこそが人々を魅了し
よりよい未来へと駆り立てるのだ
私はその輝きを幸運にもまとい
人々の生を向上させるために
知恵を振り絞ったに過ぎない
 
随分謙虚なことだ
私はお前が自分を神と勘違いしていると
思っていた
 
馬鹿馬鹿しい
多くの者が王様は裸だの
王様も貧しい者と同じ人間だの言う
私がただの人間に過ぎないことは
私が一番わかっている
私が普通の者と異なるのは
この宝玉を父から引き継いだこと
そして宝玉の輝きを
どのように使いこなせるかを
知っていることだ
それが私のある種の魔力だ
 
それは何だ
 
水だ
というのも、まつりごととは
水を治めることだからだ
太古の昔から
人間の源である水を治める者が
全ての力を掴んだ
水を、つまり生命の力を
どのように配分するか
これがまつりごとの全てだ
 
それは同意しよう
 
この宝玉の素晴らしさは
ある瞬間森に見え
ある瞬間海に見えるその輝きだ
私はこの輝きを見ては
生の水の美しさを思い出し
人々に水を分けていくことを
家臣たちと考える
人々はこの青と緑の輝きに憧れ
輝きが導く水の力を得て
この都市を築き上げていく
私たちの生とは輝きなのだ
その象徴がこの国では
この緑の宝玉なのだ
 
なるほどな
しかしいくら熱弁されても
私にはハンマーで叩けば砕ける
石ころにしか見えない
 
人間も崖から落ちれば砕ける
だからといって誰も
人間の美しさを否定しまい
だが、そなたは本当は
石の輝きの意味を
分かっているのだろう
そなたのその杖の先にある
赤い宝玉
何と驚くべき輝きであることか
炎のように燃え盛り、揺らめいている
私はそのようなルビーを
今まで見たことがない
 
これはただの赤いガラス玉だ
だが、もし私が魔女だとしたら
お前にこう言うだろう
人のまつりごとが
命の源である水であるなら
魔女の力は火であると
火は全てを焼き尽くし
土に還らせる
お前たちが水を差配し
築き上げた都市や建物を
一瞬にして燃やし尽くす
それが魔女の力であると
 
ああ、それこそが
私が最も恐れていたことだ
だが、魔女よ
何ゆえにそなたたちは
火を弄ぶのか
 
お前の魔力が
全てを築き上げる水の魔法なら
魔女の魔力は
全てを破壊する火の魔法
魚と犬が違うように
二つは違うだけだ
お前が水を振り分け
人々の笑顔を見るのが
心地よいのと同じく
人間を超越して破壊する火の美しさを
快く感じる者もまたいるのだ
 
きっとそうなのだろう
だが、火もまた輝きの一つだ
人間は火を使い
食物やものの素材を変化させた
それもまた生の力だ
なぜなら、変化しないことは
死を意味することだからだ
火とは変化を促す力だ
我々権力を持つ者とは
相容れないものであっても
 
お前たち人間が使いこなす火など
私には全く興味はない
お前たち権力のために存在している
火など欲しくない
魔女が望むのは
完璧な混乱、破壊、破滅だ
 
そのようなものは存在しない
そなたと話して今確信した
火の魔法もまた生の一部なのだ
我らの生は完璧な破滅など
求めていない
 
恐れは消えたようだな
 
そのようだ
それで、そなたは一体何をしに来たのだ
 
勿論、お前の命を取り立てに来たのだ
そこに理由などない
生と違って
死に理由などいらないだろう
 
ああ、その通りだ
そして魔女よ
そなたもまた、知っているだろう
我らの如く魔力を持つ者であっても
等しく生を終え
死が訪れることを
 
ああ、知っている
生の裏側で
私たちはまた会うだろう











(終)


※【スナップショット】では
ワンシチュエーションでの
短いダイアローグや詩を
不定期に載せていきます。


今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイや作品で
またお会いしましょう。


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