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女性43%・男性16%が自分の身体に不満、ノルウェーの「美の独裁国家」議論

「美の独裁国家」(skjønnhetstyranniet)。

連日、ノルウェーのメディアやブログなどで、頻繁に見聞きする言葉だ。

美容業界やメディアが若者や女性に押し付けてくる、「理想の美しさ」。

ノルウェーでは、「美の独裁国家」に反旗を翻そうという動きが、今や政治レベルで強まってきている。

女性はこうあってほしい、女性はこうあるべきだ。

その風潮は今始まったことではない。

台所にいる専業主婦が、どれだけ素晴らしい存在か。昔のノルウェーの雑誌を読むと、今ではありえないような広告や描写で溢れていて、驚く。

日本と比べると、ノルウェーには、広告や「特定の人に憧れる」という現象は、まだまだ少ないと筆者は感じる。

それでも、美の独裁国家が問題視される背景には、SNSがある。

子どもの時から、インスタグラムやスナップチャットと育ち、自分と他人を比較してしまう今の若者。現代の大人は体験してこなった、SNSとの暮らし。

「つらい。けれど、スマホを見ることをやめられない、気になってしまう」と声に出す若者は、ノルウェーでは注目を浴びる。

若者から支持を集めるインフルエンサーは、ポジティブには報道されない。むしろ、外見重視の若者が増えている理由だと批判されている。

「今よりも、かわいくなりたい」という若者心理は、ノルウェーではマイナスにみられやすい。

「今の外見や自分に満足できない。変わりたい」、「痩せたい」という現象を増長させる広告やインフルエンサーなどは、批判されがちだ。

ノルウェー赤十字社の青年部となる若者団体「プレス」(Press)は、ノルウェーの10代の若者1898人が参加した調査結果を発表した(14の学校が参加し、1025人が女性、844人が男性)。

Text&Photo: Asaki Abumi

冒頭写真は、ノルウェーを代表するインフルエンサーたち

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調査結果:

●身体はよりよく見えたほうがいい

そう思うと答えた女性77%、男性72%

●自分の外見を変えたい

そう思うと答えた女性68%、男性52%

●手術・薬・ダイエットピルなどを使って、外見を変えてもいいと思っている

そう思うと答えた女性17%、男性6%

●自分の外見が理由でいじめられたことがある

そうだと答えた女性27%、男性22%

●私は自分の身体に満足できない

満足できないと答えた女性43%、男性16%

●SNSを使い始めてから、自分のことをネガティブに考えるようになった

そうだと答えた女性28%、男性6%

●ダイエットをするために、食事の量を減らすことがある

あると答えた女性21%、男性7%

●毎日の生活で、自分の身体への社会的圧力を感じる

感じると答えた女性59%、男性23%

●若者に「もっと違う外見になりたい」と思わせるSNSチャンネル

インスタグラム 30%

フェイスブック 17%

スナップチャット 12%

※ツイッターは調査でスルーされている。ノルウェーの若者の間で、ツイッターが重要な居場所ではないことが伝わってくる。

国会でも過熱する、SNSや広告が若者に与える、社会的な押し付け

若者や女性に外見圧力を与える現代社会。

昔に作られた政策の効力の「外側」にあるネットの世界。

ノルウェーの左派野党「左派社会党」SVは、政策でより規制するべきだと、強く主張を続けている。対して、その主張を鼻で笑うのが、右翼ポピュリスト政党・与党の「進歩党」(FrP)だ。

左派社会党には、国会で最も若い男性議員がいる。

フレディ・ウヴステゴール議員と同党は、「美の独裁国家」に終止符を打つための対策を、国会に提出予定。

整形手術やダイエット商品の広告の禁止、写真が加工されている場合は表示義務などを提案している。

一方で、与党の保守派政党らは、「クラスで最も人気のある女の子、ダイエットしようとしている母親を、禁止しようとしているのですか」と提案に懐疑的だ。

対応策は違えど、右派・左派に限らず、コントロールが効かないSNSの世界が若者に与える悪影響を、政治家は心配している。

美の独裁国家で戦う、ノルウェーのジャンヌ・ダルク

とはいえ、「金の生る木」であるこの業界。SNSと今さら決別できない若者が多い現状で、「美の独製国家」に立ち向かうには、大きなエネルギーと並外れた勇気がいる。

「美の独製国家」を崩そうとしている若者の代表といえば、人気インフルエンサー、ウルリッケ・ファルク(Ulrikke Falch)さん(21)だ。

ドラマ『SKAM』で登場人物を演じたファルクさんは、誰もが知る有名人。

今は、SKAMの女優という以上に、「美の独製国家」で戦うインスタグラマーとして知られている。

企業やメディア、インフルエンサーたちにも、社会的責任があると批判する彼女。

一方で、自分たちの活動が全否定されていると感じ、眉をひそませるインフルエンサー、「私は、あなたが言うほど、SNSに振り回されていない」と言い返す若者もいる。

議論が過熱しすぎた結果、ファルクさんは、3月末にインスタグラムのアカウントを削除した。


突然の戦士の休戦。

世間は驚いたが、先日、ファルクさんのアカウントは復活。

今後は、ポッドキャストを開設して、このテーマについて、自身の体験を交えながら、考えていきたいと発表した。

「ウルリッケの宇宙」という音声番組は、5日から毎週木曜日にエピソードが更新され、10週間続く予定。

彼女の本音が詰まったであろうポッドキャスト。

ノルウェーの「美の独製国家」議論に、新たな波を引き起こしそうだ。


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