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見事だと

鑑定料は五千円だった。
有名どころとしては破格に安い。

"誰でも払える金額で鑑てあげなさい"

師である辛島宣夫の教えを、彼は守っていた。

急で、大掛かりな不動産契約について鑑定を要求され、
ジョージ土門が用いた道具は、タロット・カードだった。

ホロスコープも確認していたが、それで判断はしなかった。

少し、精神統一するような仕草を見せ、カードを混ぜ始めた。
カードを並べ、一枚めくっては間を置き、全てをめくり終えた。

「これは詐欺ですね」

と、彼は言った。

「海外の業者による巨大不動産詐欺です」

ジョージ土門は断言した。

友人の母が、近々取引きの件で渡航する予定がある事を告げると、
ジョージ土門は暦を確認して満月の日を指定し、断定的に言った。

「必ずこの日に相手と会ってください」

彼は真剣な眼差しで告げ、更に言った。

「発覚します」

友人の母は指示された日に海外で取引先と接触した。

途中で別業者が介入し、詰問するというハプニングが起きた。
そのやりとりの中で、この契約が巨大な詐欺である事が発覚した。

詐欺被害を免れたのである。

この展開と結果は、ジョージ土門が説明した通りのものだった。
後日 私はジョージ土門に会い、この件の経緯と結果を報告した。

彼は "そうですか" と言って嬉しそうに笑い、

「よかった」

と、静かに言った。

「すいません、わざわざ報せていただいて・・ありがとうございます」

と、ジョージ土門は言った。

礼を言いたいのは こちらの方だった。
それだけではない。

だが、その思いを上手く伝える事ができなかった。

見事だと、伝えたかった。

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