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本の話

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2018年5月の記事一覧

『樽とタタン』中島京子著

とある理由がきっかけで
喫茶店に居座る小学生のタタンちゃん。
樽のすきまから見聞きする大人の話とは…

子どもの頃のことって覚えてますか。
何枚か残ってる写真やエピソードを
つぎはぎしてできあがった話は
もうわたしたちのオリジナルの物語だ。

樽の隙間という絶妙なスタンスから
”見えすぎていない”
”くわしくはわからない”ところを
タタンちゃんが物語る。

タタンちゃんの味つけが加わることで
ただ

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『アウシュビッツの歯科医』

『アウシュビッツの歯科医』

『アウシュビッツの歯科医』ベンジャミン・ジェイコブス 

上田祥士 監訳 向井和美 訳 紀伊国屋書店

1941年ポーランドの小さな村の21歳ユダヤ青年はナチスドイツの強制収容所に送られる。歯科医の勉強を始めたばかりの彼に、母親は歯の治療用具をもっていくよう強く勧めた。これが彼と彼の家族を救った。

ユダヤ人迫害についての自伝的小説や映画はたくさんある。
この本ではタイトルにもなっているように、技

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『わたしがいなかった街で』柴崎友香

『わたしがいなかった街で』柴崎友香

離婚し、ひとり新しい町にすみはじめる主人公。

彼女の祖父にまつわる思い出、
彼女が好きで読んでいる昔の小説、
世界各国でおきている紛争ドキュメント番組。

点々があちこちで点滅するように
彼女の脳内で記憶や記録がしみを作る。

あたまの中でのひとりごとが多くて、
まるで主人公の脳内会議。

SNSサイトを見ながら
『なぜみんな、こんなふうに気軽に、
 素早く、なにかを伝えることができるんだろう、

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『オレンジだけが果物じゃない』

『オレンジだけが果物じゃない』

さまよい続ける「わたし」は現実とお伽話をたゆたう…
どころではなく特急コーヒーカップのようにぐるぐると回りながら進む。

狂信的な親と宗教とともに進む話を皮肉的に物語り、熱心になればなるほど笑えてくる。
かなり好き。

この著者の灯台守の話も好みだったし、あと数冊出版されているので、続けて読みたい。
白水社もやっぱり好みだな
#ジャネットウィンターソン #岸本佐知子 #読書感想 #海外文学

『ペンギンの憂鬱』

『ペンギンの憂鬱』

憂鬱症のペンギン・ミーシャと暮らす売れない小説家ヴィクトル。
新聞の死亡記事を書く仕事をきっかけに次々起こる不可解な変死。
不条理な世界を描く新ロシア文学。

寒い季節の長いウクライナが舞台なので鬱々とした小説かと思いきや、暗くはあるものの、憂鬱症のペンギンが出てきたり読みやすいリズムで物語が進んでいきました。翻訳もの独特のまわりくどさや堅苦しさが無い。

変にドラマチックな話にするでもなく、淡々

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わたしの遅すぎた出会い、スタージョン

わたしの遅すぎた出会い、スタージョン

物事を始めるのに遅いなんてない。
とは言うものの、スタージョンの
作品にはもっと早くに出会いたかった。

早川書房
異色短編作家集3 
『一角獣・多角獣』
シオドア・スタージョン
小笠原豊樹/訳

ロックなのかR&Bなのか
パンクなのかジャズなのか
ジャンルなんてレコードショップが
どう陳列したいかを決めるためにあるもの。

スタージョンの作品が推理小説なのか
SFなのかファンタジーなのか
それぞ

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お初に読みます『おばちゃんたちのいるところ』

お初に読みます『おばちゃんたちのいるところ』

図書館で本を借りるときは
読んだことのある作家×和書 & 翻訳物
読んだことのない作家×和書 & 翻訳物
で選ぶようにしている。

今回の出会いは
おばちゃんたちのいるところ - Where the Wild Ladies Are / 松田 青子

読み始めはとても軽い。
ちょっと軽すぎたかな?とためらうくらい。
失恋後の女性が脱毛サロンで
わたしはもっとしあわせになる、と
自己暗示をかける話か

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