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本の話

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#海外文学

『地下鉄道』コルソン・ホワイトヘッド

『地下鉄道』コルソン・ホワイトヘッド

農園の奴隷コーラの逃亡譚。
アフリカから連れてこられた史実と、逃亡を助ける「地下鉄道」というフィクションが強い魅力をもって惹きつける。

映画で観たい!と思っていたら『ムーンライト』を撮った監督が映像化するそう。
たのしみ。

この小説にあるのは、大きな悲しみと恐怖と少しの希望。
アメリカは誰の看守なのか。
支配するものは黒人労働者たちから報復されることを恐れ、その恐怖が暴力を生む。
恐怖

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『マンゴー通り、ときどきさよなら』

『マンゴー通り、ときどきさよなら』

この本には
わたし好みの条件が3つも揃っている。

移民文学
子どもの頃の話
詩のような文体

例えばこんな一文。
『いびきと、雨と、ママの、パンみたいな匂いの髪の毛。』

アメリカンドリームを求める中米からの移民が集まる街に引っ越してきた少女エスペランサ。

夢と貧困と女たち。
ひっぱたかれる女たち。
薄汚れているけれどビビッド。
一章ごとがとつとつと語られるような短さで、
この

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『アウシュビッツの歯科医』

『アウシュビッツの歯科医』

『アウシュビッツの歯科医』ベンジャミン・ジェイコブス 

上田祥士 監訳 向井和美 訳 紀伊国屋書店

1941年ポーランドの小さな村の21歳ユダヤ青年はナチスドイツの強制収容所に送られる。歯科医の勉強を始めたばかりの彼に、母親は歯の治療用具をもっていくよう強く勧めた。これが彼と彼の家族を救った。

ユダヤ人迫害についての自伝的小説や映画はたくさんある。
この本ではタイトルにもなっているように、技

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『オレンジだけが果物じゃない』

『オレンジだけが果物じゃない』

さまよい続ける「わたし」は現実とお伽話をたゆたう…
どころではなく特急コーヒーカップのようにぐるぐると回りながら進む。

狂信的な親と宗教とともに進む話を皮肉的に物語り、熱心になればなるほど笑えてくる。
かなり好き。

この著者の灯台守の話も好みだったし、あと数冊出版されているので、続けて読みたい。
白水社もやっぱり好みだな
#ジャネットウィンターソン #岸本佐知子 #読書感想 #海外文学

『ペンギンの憂鬱』

『ペンギンの憂鬱』

憂鬱症のペンギン・ミーシャと暮らす売れない小説家ヴィクトル。
新聞の死亡記事を書く仕事をきっかけに次々起こる不可解な変死。
不条理な世界を描く新ロシア文学。

寒い季節の長いウクライナが舞台なので鬱々とした小説かと思いきや、暗くはあるものの、憂鬱症のペンギンが出てきたり読みやすいリズムで物語が進んでいきました。翻訳もの独特のまわりくどさや堅苦しさが無い。

変にドラマチックな話にするでもなく、淡々

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