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直帰する夫と、直帰しない父

私の夫は、毎日直帰するタイプだ。
例えば365日出かけたとして、364日直帰する。
残りの1日は忘年会だから、仕方ない。
飲みに行ったり、出かけたりするのが嫌いなのではなく、
むしろ年に一度の忘年会の時なんか、陽気な感じで帰宅するから、
誘われたら飲みに行くのは好きなのだと思う。
でもそれ以上に、お家でのんびり、しっぽり、ビールを飲むのが好きなようで、
帰宅したら、キッチンに立って、小粋なおつまみとか、蕎麦とかを自分のためだけに作って、
夕飯とは別に晩酌を楽しむ。
そんな様子を見るのが、私は結構好きだ。
楽しそう。美味しそう。私も飲みたい。私も食べたい。

それに、
仕事が終わったら真っ直ぐ帰ってきてくれることは、私にとってとても嬉しいことだ。
わーい!と思う。
家事や育児における助っ人になってくれるからってのはもちろんのこと、
普通に嬉しいのだ。  

これは多分、自分の父親が、直帰しないタイプの人間だったからだと思っている。


私の父は、自由人。自由人と書くといい感じだけど、身内に自由人がいるとちょっと困る。
それでも小さい頃は父のことが大好きで、
「あやかはお父さんに似てるね」
と言われることがとても嬉しかったし、誇らしかった。
私は小さいながらに、父のことを同志みたいに思っていて、
父の食べたいものは私も食べたいし、
父が今考えてることは、私も似たように考えてる
私たちは通じ合ってる親子だ!
と思っていた。

大好きだったんだ。

父との思い出は、いくつかあって、
そのうちの一つが、家の近所のお寺の駐車場で、買ってもらったばかりのローラーブレードの練習をしたこと。
肘に、膝に、プロテクターをつけてもらって、
ローラーブレードの中に足を入れる感触を、いまだにリアルに覚えている。
硬くて狭い靴の中に、足を入れると、足全体がキュッと引き締まる。
足の甲、足首、スネの下にあるベルトを
ガガガっとしめて、完成だ。

私と父は日が暮れるまで一緒にローラーブレードの練習をした。
運動神経がイマイチだった私は、
スイーっと滑られるようになるまで何日もかかった。
寒くなってきた秋の夕暮れどき。舗装された、一台も車が停まっていない駐車場で、練習した日々。どこからか漂う夕飯の匂い、父のケタケタ笑う顔。
どれもこれも肌で覚えてるくらいに、やっぱり好きだったんだよなあ。

ローラーブレードは、そんなに上達しなかったけど、
可愛い小学校2年生の私は、週末のその時間を楽しみにしていた。上手くなると思っていたし、めっちゃすごい技とかできるようになるかもって密かにワクワクしてたりした。
そんな思い出だ。


大人になってから、
父は、私とのその時間をどう思っていたのかな?と、考えたことがある。

自分が親になって、子供の相手をする愛しさを実感するとともに、大変さを痛感する瞬間もあるからだ。

私は手放しに…まぁ子供だから当然なんだけど、お父さんと遊びたい8歳の少女だったけど、
お父さんは平日は仕事で忙しくて、
週末は、1人の時間も少しは欲しいと考えてる、普通の37歳の男の人だったんじゃないだろうか。


父は、日に日に、仕事から帰ってくるのが遅くなり、
休日にも、床屋に行ってくると言って、夜まで帰ってこない日もあった。

夜になって家に帰ってくると、
へっへっへっ
と、悪びれもなく、ニヤニヤしながら過ごすのだけど、
あれはどこに行ってたんだろう。
ローラーブレードの練習に付き合わずに過ごす日曜日に、ほっとしていたのかもしれないな。

いつの間にか、ローラーブレードはサイズアウトして、
次のサイズを買ってもらうほどに上達したわけでもなく、忘れ去られて、父との共通の話題がなくなった。

その頃、父の転勤が決まって、
恵庭に戻ることになり、私は小学校4年生になって、
そこから先の父との記憶が曖昧だ。

父は、とにかく、毎日帰りが遅くて、
早く帰ってくる日なんて、365日中、1日あればいいくらい、直帰しない人だった。
いや、言い過ぎてるだけかもしれないけど。

まぁでも、寂しかったんだ。

共通の話題もなくなっちゃったし、
せめて早く帰ってきてくれたら、
色々話せたじゃん。と、当時の私も、今の私も思ってる。
伝えたことはないし、
これから先も伝えることはないのだろうけど。

その後の私は順調に、
思春期が来て、反抗期が来て、高校生になって、自由を手に入れ、外の世界が楽しくなったから、
父とあまり関わらないまんま、大人になっちゃった!
まぁ、厳密にいうと、関わる、関わらないの話は色々あるから、それはまた別の機会に。

さて。そんなことがあったので、
夫が直帰するのは、ウェルカムです。
真っ直ぐ帰ってくる人最高。
家の中に家族が揃ってるっていうのは、
賑やかだし、すごく良い。

夫は、今この時間も、せっせと何かを作って食べている。部屋にニンニクの香りが漂っている。

プシュッという、ビールを開ける音がした。
よし。
私も、飲みたいから、居間に戻るとするか。

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