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【書評】『友がみな我よりえらく見える日は』上原隆

「人は自分のつちかってきたやり方によってのみ、困難なときの自分を支えることができる」―― 冒頭の章の最後の句。結論としてはこれなのかも。

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人は劣等感にさいなまれ深く傷ついたとき、
どのように自尊心をとりもどすのか。
読むとなぜか心が軽くあたたかになる、
ルポタージュ・コラム。
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「人は自分のつちかってきたやり方によってのみ、
困難なときの自分を支えることができる」――

冒頭の章の最後の句。結論としてはこれなのかも。

自分が挫折や失敗や、とにかくうまくいってないとき、
無性にこういう本を読みたくなる(過去転載ものなので今ではないです;)。

他の人はどうやって傷ついた自尊心を回復してるのか、
それを知って、自分も立ち直るきっかけがほしいのだ。
それは著者も同じで、だから彼はあらゆる種類の
人間の挫折や闇に立会い、彼らの現状のたたずまいを
独特の距離感(8ミリ映画みたいな身近で懐かしい感じ)で
活写してゆく。

ホームレス同然の生活を続け妻子からも捨てられた芥川賞作家、アパートの五階から墜落し両目を失明した市役所職員、その容貌ゆえに四十五年間、一度も男性とつきあったことのない独身OL……

いろいろな人がそれぞれの壁にぶつかって生きている。
僕も30歳を超える歳になってから、やっと少しだけ
自立とはなにかということがわかりかけてきた。

「うつ病」という章には上田という青年が出てくる。
28歳の頃に看護学校に通って看護師を目指していたが、
女性の中に一人だけの男性生徒で、妙な目でみられ、
苦痛になってうつ病を発症した。
最後の方に出てくる彼の考え方は、
僕のつかんだものと似ていて、
やっぱりそうだよなとまた確信を深めた。

「挫折や失敗も、それが自分の経験なら
自分というものを形成する大切なものなのだ」

僕も「闇は財産」だと思う。
それは自分をさらに豊かに、
さらに奥行きを持った人間にしていくものだと思う。

と、わかっていても、やはり実際目の前に
挫折がきたらつらい…。

そんな時こう思う。こう言い聞かせる。

自分のこれまでの人生のすべての苦しみを知っている
人間が、この宇宙にたった一人だけいる。
それは、自分だ。

誰がなんと言おうと、自分だけは自分の味方に
なってなろう!

両親の会社(旅館)が倒産して貧乏でいじめらたつらさ、
芝居の道を断念せねばならなかったせつなさ、
リストラされたときの悔しさ、
父親が死んだときの空虚感、
自分はなんのために生まれてきたのかわからずに
ずっと悩んできたあの日々……
それら全部を知ってくれているのは、
一緒にその闇の中を歩いてくれていた、
この自分だけだ。

その自分だけは、僕を信じてそばにいてくれる。

挫折してる自分さえ温かく見守り、
その可能性を信じ続けてくれる自分さえいれば
人は何度でも立ち上がれる。
そして、立ち上がるたびに人は強く優しく豊かになれる。
そんな気がする。
だから闇は財産なのだ。

上田のうつ病は完治したわけじゃない。
時々しんどくなる。そこがいい。

「病を乗り越え、社会復帰!」というような報道に
ちょっと待った! と誰かが言ってた。
乗り越えてなんかない! 戦い続けてるんです!
今もそれも抱えながら、背負いながら生きてるんです!

戦いは生きてる限り続く。
でも僕は僕自身とつらさを分かち合って
これからも生きていこうと決めている。
それが揺らぎそうなときは、この本を読んで
また決意をあらたにしたい。

※まだ30代だったころの俺よ。わしはじっとおまえさんを見守ってきた。
そして間違ってなかったと、今でも確信しとる。
そのまま我が道を行きなされ。


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水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。