春菊のサラダと、マムの味
「ねぇ、なんで夏なのに、春菊があるの?」
なじみの居酒屋のメニューに、「春菊のサラダ」を見つけた私は、店主に尋ねた。春菊といえば、お鍋の季節、つまり冬が旬のはずだ。
「ん?春菊は年中、手に入るんだよ。たしかに、冬が旬で、茎や葉っぱがやわらかいんだけど、夏の春菊もなかなかうまいよ」
そう言われては、食べないわけにはいかない。私は「春菊のサラダ」を注文して、日本酒を飲みながら待つことにした。
「春菊」という名前は、一般的な菊が秋に咲くのとは違って、春に花を咲かせるからだそうだ。
「…ということは、英語ならスプリングなんとかっていうのかな?」私はスマホを取り出して、早速ググった。
春菊=ガーランド クライサンセマム(garland chrysanthemum)
「な、なんだこれ?初めて見た単語!っていうか、覚えられない…」
ガーランドというのは、もともとは花の冠や花輪という意味で、それから転じて、つる植物や花を編んで作った飾りのこと。フラッグ・ガーランドというと、パーティーなどの時に天井などに吊るす、旗がたくさんつながった飾りのことをいうらしい。
で、問題は「クライサンセマム」である。
この単語は「菊」という意味があるらしく(そりゃ、春菊なんだからそうだよね)、あまりにも長い単語なので「マム(mum)」と略されることもあるらしい。そういえば、お花屋さんで鉢植えの菊に「ポットマム(pot mum)」と書いてあるのを見たことがある。
「マムか~。ってことは、春菊のサラダは…
ガーランド マム サラダ(garland mum salad)って感じかな」
「さっきから、なにをブツブツ言ってんの?はい、お待たせ」
その時、カウンター越しに店主が、出来上がった「春菊のサラダ」を手渡してくれた。濃い緑色の春菊がたっぷりと、その上に細かく切ったネギとゴマ、醤油ベースのドレッシングがかかった、シンプルなサラダである。早速、ドレッシングと春菊を軽く和え、箸で少しつまんで、口へ運ぶ。
「いい香り~!あと、このほろ苦さがいいんだよねぇ」
「な、夏の春菊も、うまいだろ?」
「うん。お鍋の季節じゃなくても、春菊はうまい!」
菊のことを「マム(mum)」と略すということは、母なる花なのか?そう思うと、このほろ苦さは、ちょっと実家の母の味を思い出すかも…。なんて勝手に考えていたけれど、後で調べたら、母という意味のマムは「Mom」であった。とんだ綴り違いである。
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