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「大好きな書店」と「英訳版」がくれたもの

時間が経つのは早いですね。↑を書いてから、もう2か月弱が過ぎたとは。

「文教堂書店・赤坂店」は来週6月17日(金)で閉店となります。最後のお別れをするべく、先日足を運びました。

フェア台に置かれたビジネス書の平積みが薄くなり、売り場の隅には本が詰め込まれた段ボールの山。在庫を減らすため、おそらく全体的にパターン配本のランクを落としているはず(自動補充システムを活用していたのであれば、それも止めているでしょう)。かつて職場の閉店を何度か経験しているので、柄にもなく感傷的な気分に襲われました。

↑にも書きましたが、以前こちらで村上春樹「風の歌を聴け」の英訳版を衝動買いしています。ゆえに今回は「1973年のピンボール」のそれを買おうと決めていました。しかしすでに配本が止まっているであろう洋書コーナーは寂しい風景。春樹さんのものは2点しかありませんでした。

ひとつは「騎士団長殺し」。もうひとつが↓です。

タイトルがやけに長いですね。2年前に出た短編集「一人称単数」の英訳版です。ちょうど日本語版を再読しようと考えていたので、こちらを買うことにしました。

あと「文具全品半額セール」を実施していたので3色ボールペンも併せて購入しました。意味のわからない単語に青の、印象に残ったフレーズに赤のラインを引くために。

小説を英語で読む際、私は辞書をあまり使いません。いちいち止まって調べると(サッカーにおけるゴール後のVARみたいに)流れが途切れて興も削がれるから。ゆえに線だけ引いておき、気が向いた時にまとめてチェックすることにしています。

知らない語彙が出てきても前後の文脈から「こういうことかな」と推測できるし、ましてや日本語で読了済み。「どうにか、なる」(太宰治「葉」)と己に言い聞かせ、強気で進めています。

ちなみに作品の並びがオリジナルとは違いました。元々は5番目、こちらでは7番目に収録されている「ヤクルト・スワローズ詩集」は英語だと父親及び生い立ちへの複雑な感情と当時のヤクルトに対する諦念がより鮮烈に匂います。最初の「クリーム」も禅に似た掴めそうで掴めぬ何かが言葉に変換されぬまま、しかし日本語で理解するよりもダイレクトに脳へ伝わる。

語学力が乏しいゆえ、文体とリズム、選び抜かれた比喩、そして細かい語彙などの妙味を楽しむゆとりはありません。ひたすら文章を追い、意味を推し測り、必死についていく読書です。まるで漱石の「坊っちゃん」や芥川の「地獄変」に初めて触れた子どもの頃のように。でもおかげで作品の奥に潜むエッセンスに初読時よりも近付けた気がします。

原点回帰。素直な初心を忘れまいと胸に刻んだ次第です。

国内小説の英訳版にチャレンジする効用をまたひとつ見つけました。これもすべて文教堂書店・赤坂店さんが存在してくれたからこそ。本当に大好きなお店です。数々の名著と出会わせていただきました。おつかれさまです。そしてありがとうございました。

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