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イチ書店員の考察「なぜ『フィルムパック』が必要なのか」

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、講談社文庫の新刊がフィルムパックされる仕様になりました。あれは書店ではなく、出版社サイドがおこなっていることです(つまりパックされた状態で店に入荷している)。

同じ講談社のコミックのパックは、両手で裏表紙の中央部を持って左右に開くようにするとミシン目に沿って簡単にはがせます。文庫の方も同じ作りですが、モノによってはかなり頑丈です。

出版社からしたら、返品を含めた流通の過程で本が傷むことを少しでも防ぐための手段なのかな? その点は理解できます。コロナ対策もまあわかる。問題は「総額表示への対策」です。

書籍に関しては「3月31日までに出版されたものは従来通り。4月1日以降に発売されたものは総額表示」という形に落ち着いたはず(少なくとも私の働く某書店はそうなりました)。ただ実際に4月1日以降に出た新刊(小学館新書)を確かめたところ、カバーの裏表紙の印字は従来通りで帯に総額表示がされていました。

講談社文庫の新刊も買いました。フィルムパックの裏表紙に総額の表示されたシールが貼られていますが、カバーの裏表紙自体はやはり「本体○○円(税別)」と印刷されています。

以上のケースから導き出される結論はひとつ。カバーの仕様を変えるよりも帯への記載、もしくはフィルムパック+シールで対処する方が手間とコストの面でベター。実際そうなのでしょう。

ちなみに私の職場では「中を見たいというお客様には中を見てもらってかまわない。ご購入されなかった場合は店でパックし直さず、そのまま棚に戻していい。返品も可」という話になっています。いまのところ「総額表示」に関するクレームは無いので、当面はこれでいいのかなと思っています。

ただ山下店長の言わんとすることにも一理あります。「環境対策」でレジ袋が有料化されたのに大手出版社がこういうことを始めたら意味がないし、お客様の理解も得られないのでは、と。ゴミが増えるのは事実ですから。

講談社さんには、ぜひ小学館新書のような「帯」での総額表示をいま一度ご検討いただければ。「環境対策」と「総額表示」どちらが地球の未来にとってより重要かを考えてみませんか? 

そもそも「なぜコミックや児童書をフィルムパックするのか?」という問題があります。理由は簡単。全て立ち読みで済ませて買わない人や本を汚す人がいるから。お子さんがうっかり破いてしまうのは仕方ないにせよ、親御さんが知らん顔するのは違いますよね(ちゃんとレジへ申告に来てくれる方ももちろんいらっしゃいます)。店員の目が行き届かない大きな書店になるほどパックが必須なのです。

とはいえ、一冊ずつフィルム袋に詰めて機械に通してシュリンクする作業はかなりの時間を要します(サイズが合わないとキレイにならないから、袋をハサミで切って整える)。お金もかかるしゴミも増える。やらないに越したことはありません。

立ち読みは私もします。パラパラッと数ページを見る程度。中を確かめるならそれで十分のはず。座り込んで読み耽ったり、スマホで撮影したりするのはマナー違反。無断でパックを破るのも同じです。

本当に環境のことを考えるなら、まずここでしょう。法律やルールの整備ではなく、他人への優しさ及び想像力の喚起。いますぐに改善が可能ですし、私も含めた全ての人間が当事者です。

難しいテーマですけど、問題提起の声を上げてくれた青山ブックセンター、そして山下店長にはイチ書店員として感謝しかありません。ありがとうございます。また買いに行きます。



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