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「柴田&野崎」≒「奥井&林原」論

少し前に↓が発売されました。

毛色の異なる9つの短編を収めたサリンジャーの名作。訳は文芸誌(正確には書籍扱い)「MONKEY」で責任編集を務める柴田元幸さんです。

2012年にヴィレッジブックスから出た柴田訳の「ナイン・ストーリーズ」文庫版を持っています。野崎孝訳の新潮文庫版も。ただ、柴田さんは訳に手を入れているみたいなので変化を確かめたい気持ちもあります。

なんとなくの印象ですが、柴田さんは可能な限り原文をそのまま活かし、己の解釈をなるべく持ち込まない点に重きを置いています。必然的に題の付け方も変わってくる。たとえば野崎訳では「コネティカットのひょこひょこおじさん」なのが、柴田訳では「コネチカットのアンクル・ウィギリー」となっています(原題はUncle Wiggily in Connecticut)。

この違いには既視感がある。答えを見つけました。よろしければ↓を聴き比べてみてください。

同じ曲です。上は歌手・奥井雅美さんのヴォーカルで、下は声優・林原めぐみさん。専門的なことはわかりませんが、アレンジもほとんど一緒。

どちらも素晴らしい。のびやかな声が耳に心地良く、元気が沸き上がってきます。興味深いのは曲のラスト(4分16秒ぐらい)。奥井さんは「そして二人は永遠に…」をそれまでと同じく真っ直ぐな声で2度歌い上げ、林原さんは「に」の着地にかすかな変化を加える。特に2度目の「にぃー!」が力強く、前向きな余韻を残しています。

あくまでも素人の推測ですが、奥井さんは譜面に忠実に歌い、林原さんは出演した作品への思い入れを込めたのではないでしょうか? 決してどちらがいいという話ではなく。

ドストエフスキーやカフカを原文で読めない。そのモヤモヤがずっとありました。でもだからこそ翻訳の違いを楽しめる、と考えたらこれはこれで悪くないのかもしれません。

「ナイン・ストーリーズ」ぜひ。

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