記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

朝井リョウさんの『桐島、部活やめるってよ』を読んだ感想

こんにちは
映画や海外ドラマのブログを書いているアラ還主婦のミルクです。

今日は映画ではなく

朝井リョウさんの小説
『桐島、部活やめるってよ』の感想を書いてみます。



田舎の進学校の県立高校の高校生たちの物語

彼らは高校2年生

そんな彼らの一人である、男子バレー部のキャプテンで
花形選手である桐島が、誰にも理由も告げずに突然部活を辞めた。

そこから広がっていく同じ高校の5人の生徒たちの心の移り変わりを
一人ずつピックアップして描かれた作品。



キャプテンで名プレイヤーの桐島が、突然退部したことに
動揺を隠しながらもどこかで喜んでいる部活のメンバーの一人である風助

好きな人に想いを伝えられないブラスバンドの部長の亜矢

ある事故をきっかけに精神を病んでしまった義母との複雑な親子関係に
悩みながら、それを誰にも相談できずに隠している実果


読み進めていくうちに
桐島の周りの同じ高校の生徒たちの心の中で起こっている
心のざわめきを知っていくことになる。

高校生の時

運動部は活発で華やかで目立つ存在の子のグループでできていて

文化部は地味で目立たない子たちのグループみたいな印象がなかっただろうか?

運動部の華やかな子たちは上の階級に属し
文化部の子たちは上ではない、つまり下の階級だとなんとなく暗黙の了解のような空気感を・・・

いわゆる上の階級の1軍の子たちはイケメンや可愛い子で形成されていて
制服の着こなしや髪型もカッコ良くて(可愛くて️)
イケてる上の子たちは、イケてる上の子同士でしか交わらなくて

そして、そんなイケてる上の子たちに憧れを持ちながらも
イケてない下の2軍の子たちは
目立たないながらも自分の存在を確かめたいと心の中で葛藤している・・・


最初に読み始めた導入部分では
私は単なる「高校生のスクールカースト的な小説なのか」と、感情移入できない自分に気づいて

『あぁ、やっぱり高校生を描いた小説はアラ還の私には無理があるな〜』と読むのをやめようかなと思ったりした。

ところが朝井リョウさんのこの作品は、読み進めていくほどに 
どんどん高校生の彼ら5人の世界に引き込まれていく。


高校生

まだ大人ではなく、かと言って子供でもない年齢の
日々揺れ動く若者たち

学校や部活の人間関係が彼らの世界の全てだと思ってしまう年頃

その彼らにとって、世界の中心のような学校で
自分の立ち位置や居場所を守ろうと必死な子たち

それは決してイケてない生徒だけの話ではないんだと
この小説を読みながら感じていく。

自分がどうなりたいのかよりも

自分が誰と一緒にいるのか
どんなグループに属しているのかが最優先される。

意識してないふりをしながら、表には出さないが、自分を必死に周りに合わせようと もがいている高校生たち。

「ありのままで」なんていられない

自分の行動によって、立ち位置や価値につながる世界に生きる高校生たちの心の内を垣間見ると心が痛い。


上の階級の子だっていつもキラキラしているわけではなく
当たり前に悩みもあれば心の葛藤もある。


最後に書き加えられた中学生の頃の”かすみ”という少女の話を別にすると
この小説では5人の高校生たちが登場する

その中で野球部の宏樹と映画部の涼也の対比が私は特に心に残った。

宏樹は運動神経抜群で成績優秀、何をやっても様になるし
可愛い彼女もいる。
周りから見ると最上級の目立つ1軍のグループの高校生だ。

けれど彼の中では何か割り切れない苛立ちのような感情が渦巻いている。
なんとなく部活にも力が入らないし、大学もMARCHくらいでいいや、
と最初から進路にもどこか冷めていて・・・
彼は自分でも説明できない充実感がない毎日にイライラしていた。

それに対して映画オタクの涼也は運動音痴で目立たない男子で
目立つ時はかっこ悪さの悪目立ち
女の子にもモテない。

いわゆる2軍のような高校生だ。

だけど涼也は心の底から映画が好きで、映画好きな友達と映画のことを語ったり、情熱を傾けて映画部の仲間と映画制作をしているときは
文句なしでキラキラしている。

1軍の宏樹は、そんな2軍の涼也のことを自分に無いものを持っていることにふと気づいて、涼也をひかりを放つ眩しい存在だと思う。

そして、そんなひかりを放っている涼也を見て
宏樹は自分が容姿やポテンシャルに恵まれているのに、本気で何かをやろうとしないのは、もしできなかったらという不安からだったと悟るのだ。

宏樹は『一番怖かった。本気でやって、何もできない自分を知ることが』と心の中で言う。

そして一生懸命に夢中になって頑張ることをダサいと思っていた宏樹は
涼也のひかりに照らされて自分から変わろうと一歩踏み出す。


スクールカーストから云えば

ひかりは宏樹で影が涼也なのかもしれない

けれども宏樹は涼也をひかりだと思う。

誰の中にもひかりがあって影もあるのだ

ひかりが輝いて眩しいのは影の存在があるから

とかく、明るいもの(人)やキラキラするもの(人)を肯定しがちだけれども

影の存在だって決して否定できなくて、どちらも大切なもの(人)なのだ。

学校という閉塞感のある環境は社会の中でも存在する
学校を卒業して社会に出てもやっぱり上や下という事実は無くなることはないだろう

けれども本当に輝くひかりを放つキラキラしている人は
外見ではなくて意識しなくても内面から自然と溢れてくるもので

カッコ悪くてもダサくても
その人が好きなことをひたむきに頑張っている姿にひかりを感じるものなのだろう。


きっと宏樹は涼也のそんな姿に胸を打たれたのだ。


そこには上も下もない世界

この小説は朝井リョウさんが19歳の時に書いたそうです。

様々な悩みや境遇を持った5人の高校生が日々の学生生活の中で感じたり
悩んだり、友達から影響を受けて自分の中で気付いたりする過程が
みずみずしいタッチで描かれていて
60歳の私に若かりし日の新鮮な気持ちや、かつて悩んだり凹んだりしていた記憶を呼び起こしてくれた作品でした。


何度も何度も考えたり悩んだりすること

それは大人になっていく作業なのだろう

それは省略してはいけない儀式のようなものかもしれない

そしてその作業を自分の中で繰り返しながら答えを見つけていくのだろう

誰かに答えを求めても簡単に答えは見つからない

たくさん悩んで考えた者の方がより深みのある人間へと成長していける

悩んだり落ち込んだり焦ったりすることは
恥ずかしいことでも悪いことでもなく誰にでもある感情だから

その感情を隠したり誤魔化す必要はない


答えは探し続ければきっと自分の中にあるのだから
勇気と自信を持って進めばいい

と作者は読者に伝えたかったのかな?


悩みは若者だけが持つものではなくて、大人になった今でも私に悩みは尽きない(笑)

たとえ60歳になっても自分で考えてこの先も悩みながら生きていくしかない。


長くなりましたが、ここまで読んでくださりありがとうございました。

読書感想文って難しいですね。
ただこの小説の感想はどうしても今の気持ちを書き残しておきたくて
投稿させていただきます。

推し活なので😝


『桐島、部活やめるってよ』のタイトルを見た時に
若者向けの本だとずっと思っていて手に取りませんでしたが
今回読んで良かったです。

その私の気持ちが少しでもあなたに届くと嬉しいです

スキやコメントをいただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。

いつもありがとうございます。

この記事が参加している募集

スキしてみて

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?