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ようく学び、力を自分のものにするんだよ。


魔法使いはある奴隷の女の元に生まれた赤ん坊を
わが娘として育てるため迎えにいく。
娘はチンギスといい、学び魔法使いとして成長する。

国を治める冷酷な皇帝ガイドンは
自らの子を生まれてすぐに
塔の上の小さな部屋に閉じ込める。
サファと名づけられた皇子は
塔の中で孤独に育っていく。

優秀な魔法使いとして育ったチンギスは
ある時何者かの叫び声に気づく。

魔法の太鼓の声に耳をすませ
宮殿を訪れたチンギスはサファの元へ。


『ゴーストドラム』
  著者  :スーザン・プライス
  訳者  :金原瑞人
出版社:サウザンブックス
  ISBN :9784909125033


元々別の出版社から出ていたものを
訳者の金原瑞人さんが三部作の
残り二作も翻訳したいということで
クラウドファンディンクで本を出版する
サウザンブックスから出版されたもの。
残りの二作もクラウドファンデインクが
無事成立したので出版されている。



若き魔法使いが囚われの皇子を救いに
皇子の元へ向かうというと
そこにどんな苦難が待っていて
ワクワクするような展開がと思ってしまうが
読むとそんなことは一切なく
その部分はとてもとてもあっさりしている。

悪の魔法使いとの戦いがというと
愛と勇気で爽快な勝利がみたいなことも
待ってはいない淡々と残酷なファンタジー。


皇帝ガイドンも妹のマーガレッタも
その地位につき守るために身内含め
命を奪うことに躊躇いはない。

ガイドンはマーガレッタ以外の身内を
全て殺してその地位につき
気にくわないものを処刑していくし
マーガレッタもガイドン亡き後の地位を画策し
サファを邪魔に思い殺害しようといる。


人々は頂点に立つものに怯えて暮らす。

大切なことは上を刺激せず失敗をせず
目をつけられずに無事生きること。



チンギスは魔法使いとして優秀に育つが
噂をきき自分より優れたものとなることを恐れた
北の魔法使いクズマに狙われることとなる。


優しきものたちも強大な力は持たないし
すべてを覆すような奇跡は起こらない。

他のファンタジーで魅力的描かれるようなことは
この物語においてはとてもあっさりと描かれる。


どんな登場人物もみんな残酷な目にあい
その生の中で幸せを迎えることはない。


だからといってこの物語が
魅力的でないわけではない。


淡々と残酷だけどひきこまれる。



チンギスに言葉の魔法について教えるとき
師である年老いた魔法使いはこう言う。


「たとえば、皇帝や女帝が国民に戦うよう命令したとしよう。それも、戦ってはならないようなおろかな戦いをね。くだらない理由のために何千もの人が死に、残された家族は悲しみにくれる。たくさんのお金が大砲や剣を作るのについやされ、ほかのものに、もっといいことのために使うお金がなくなってしまう。そう、人々を養う麦になる種麦を買ったりするお金がなくなってしまう。何千もの人々が寒い思いをし、ひもじい思いをする。戦争のためにね。皇帝は恐れる。国民が、この戦争がいかにおろかで、いかにむだなものか気づいたら、怒って刃向かってくるかもしれない。そこで皇帝は言葉の魔法を使う。国民にこんなことをいう。『この戦いは決しておろかしいものではなかった。それどころか、この戦いのおかげで、わが国民は世界で最も勇敢ですぐれていることが証明された。(略)おまえたちは母国のためであれば、自らを犠牲にしてもよいとさえ考えている。わしは、おまえたちのことを誇りに思うぞ!』皇帝はこういい、それを何度もくりかえし、召し使いたちに、会う人ごとにこれをくりかえすようにと命令する。こうして言葉の魔法が動き始める。人々は怒りを忘れ、息子や兄弟が殺されるのを喜び、自分たちが寒くひもじい思いをするのを誇らしく感じるようになる。これは最も単純な言葉の魔法だが、とても強力だ。いいかチンギス、本当にすごい力を持っているんだよ。言葉は、目を、耳を、鼻を、舌を、肌をあざむくことができる。だから、その魔法をみがけば逆に、言葉はわれわれの五感をとぎすまし、われわれを下等な魔法から守ってくれる。チンギス、おまえはこういったことをすべて学ばなくてはならない。とはいえ、たとえ三百年生きていても、言葉の魔法をひとつ残らずおぼえることはできない」

本文41ページより


現実の世界で魔法は使えないけれど
言葉の魔法はそこかしこにある気がする。

文字の魔法についての部分も好きだ。
読むことが好きなものならきっと気に入る。


残り二作を読むのも楽しみだ。

最後はこれで締めくくろう。



さあ、窓を開けて、この嘘っぽい話を外に出してやってくれ!
もしこの物語がおもしろいと思うなら、ほかの人に話してみるがいい(と猫はいう)。
もしこの物語が酸っぱいと思うなら、甘くしてやるがいい。
だが気にいろうと、気にいるまいと、この物語は持っていってほしい。やがてほかの舌にのって、わたしのところにもどってくるだろうから。

本文176ページより

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