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イタリアの話

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イタリアの都市で見たもの食べたもの感じたことなどをまとめています。
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わからない言語で繰り広げられる朗読。意味を見出さなくてもいい、その音を聞くと、わかることがあるから。

わからない言語で繰り広げられる朗読。意味を見出さなくてもいい、その音を聞くと、わかることがあるから。

静かな感動が全身にわきあがり、魂がふるえる。

その瞬間に聞こえてくるのは、都市部で交わされる忙しいコミュニケーションのための言語ではなく、昔からひっそりと続いていた伝統儀式のあいさつのようでありながら、真実の断片がぽつりぽつりと蛍のような光りを放つ、おだやかで暖かくてやさしい言の葉。ずっとずっと前から憧れていた景色はここにあった、そう確信せずにはいられないほどイタリア語が圧倒的だと感じたのは、コ

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悲しみで世界が覆い尽くされないように

悲しみで世界が覆い尽くされないように

朝、目が覚めるといつも、ここはいったいどこだろうと考える。長期滞在していたフランスでもスペインでもなく、イタリアへの旅行中でもない。視界の前にある天井を見てクローゼットを見ると、実家のある大阪でもなく、東京都心のちいさなわたしの部屋だ。その次に考える。いまはどの時間軸にいるだろう。曜日、時間、月、年。すこしずつ範囲を広げて記憶を取り戻していく。抱えていたタスクはなんだっただろう、やり残していた仕事

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しなやかな強さを求めて生きたひと。須賀敦子の面影を探して

しなやかな強さを求めて生きたひと。須賀敦子の面影を探して

イタリアのミラノにあるサン・カルロ書店(旧・コルシア・ディ・セルヴィ書店)に訪れたときのことはいまでもはっきりと、覚えている。

作家・エッセイスト須賀敦子の著書に登場するコルシア・ディ・セルヴィ書店。『ミラノ 霧の風景』『コルシア書店の仲間たち』など作品のなかで何度も舞台となったこの場所は、イタリアのミラノの中心部、ドゥオーモから歩いて10分程度のサン・カルロ教会の建物の右隣にひっそりとたたずん

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