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■ちょっと変わった耳鼻科の先輩医師


その耳鼻科の先輩医師は医局の医師とはつるむことなく、外来看護師とよく話す先生でした。小児科と耳鼻科は外来患者のことで繋がりもあるので、小児科医の私は耳鼻科看護師から噂として、その先輩医師の話もよく聞いていました。

先輩は大学医学部を卒業するのに、◯◯年かかっています。◯◯と言うのがミソで、二桁なのです。留年して進級して、を繰り返したので、オセロだなと医学部学生時代言われていたと笑って話していました。
そして先輩の鉄板の決め台詞は、
「幸せは長続きしないものさ」
です。

先輩が進級すれば家族総出で先輩を祝うのですが、その次の年は留年をするので、お祝いはできません。そういうことを繰り返しているうちに、先輩は幸せは長続きしないという真理を学んだのです。

■コミュニケーション能力があまりない先輩


そんな先輩は自分からは話しますが、人の話を聞きません。だから、周りも離れていきます。こんなこと言うのは何ですが、先輩のコミュニケーション能力では正直、医師でなければ、誰にも相手してもらえないでしょう。ただでさえ、留年をすると、周りはどう接したらいいのかが分からなくなるものなのに、それを何度もしているのですから。

私は地方の私立医科大学出身でしたので、周りには留年している人がそこそこいました。 医学部では15%の人がストレートで卒業できないと言われていますが、医師国家試験の合格率が高い学校ほど、ストレートで卒業するので、大学受験偏差値が高い学校では95%を超える学生がストレートだと医師になってから知り、驚きました。

小児科医としては耳鼻科医師に嫌われてはどうしようもないので、私は積極的にコミュニケーションをとるようにしていました。しかし、先輩は話しかけても、こちらを見ません。そればかりか、話を聞いてくれないのです。
先輩がアイドルを好きと聞けば、私は自分の大好きなアイドル話を持っていきますが、先輩は「僕は△△が好きだなぁ」と答えてくれますが、そこで話は終わりです。私が先輩の応えたアイドルの名前を知らなかったからです。

調べて見ると地下アイドルでした。そこで次に「この前先輩が言っていたアイドルって地下アイドルなんですね」と答えると、とたんに笑顔になり、これまで会話をしてくれなかったのが嘘のように饒舌になりました。その話の中で驚いたのは、なんと先輩は地下アイドルに、月に■■万円を注ぎ込んでいるということ。そして、延々と地下アイドルの話をし続けるので、教授公認の人の話を聞くのが特技と言われていた私でさえ、辛いところがありました。

■地下アイドルに大金を注ぎ込んだ結果


そんな先輩が大学から他の病院に派遣され、また私の勤務する病院に戻ってきたのは5年後のこと。なんとその先輩のコミュニケーション能力は驚くほどに向上していました。

先輩と言っても、これだけ留年を繰り返していた先輩です。こちらの聞きたいことを教えてくれないのですから、実際のところ先輩が何歳で、どういった経歴で、今のようになったのかも知りません。それなのに、たった5年で先輩は変わっていました。今の先輩は、こちらが聞いた言葉に対して、ちゃんと答えてくれるようになっています。私はそれが嬉しくて、突っ込んだ話もたくさんしました。

先輩は医学生の頃に秋葉原のメイドカフェでメイドをしていた地下アイドルに優しくされて恋をし、医師になってからは地下アイドルや地底アイドルの追っかけを始めたそうです。小学校で日直を一緒にした女の子以来の恋だったそうです。

先輩は他にもたくさん話してくれました。
「先生、自分の話ばっかりじゃ嫌われてしまうんだぜ! 好きなアイドルのことばかり考えて、他のことには無関心でいたら、嫌われるよって、そのアイドルの子に言われたんた」
「知ってた? 好きなアイドルと仲良くなりたかったら、周りの子にも優しくしなきゃいけないんだぜ?」

そういったことも先輩は恋をしているアイドルに教わり、自分改革をしたそうです。

先輩は、地下アイドルに⚫️⚫️百万円というお金を注ぎ込み、コミュニケーションを教わってきました。ただ、それだけで終わらないのが先輩の凄いところです。何と先輩は、最終的にその地下アイドルと結婚をしました。アイドルというのは追いかけるものという認識だった私にとっては衝撃です。

ただ、大好きな人に言われたからと言って、周りに対して本当に興味がないのであれば、こんなにも変わることはなかったかもしれません。先輩も実は、人と関りを持ちたかったのではないのかな、と私は思いました。

しかし……先輩を受け止めてくれる美人の奥さん。
正直、羨ましすぎます。

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