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INTERVIEW - Taku Tabuchi

「7年間、それなりにやりきった部分もあったので、ここでちょっと新しいことをやりたいなと思って」

そんなふうに、いとも軽やかに。S’ACCAPAU(サッカパウ)のエグゼクティブシェフを務めた田淵拓(たぶちたく)が、2023年7月15日(土)の営業を最後に、日本を離れることとなった。
 
とうてい言い尽くせないほどの慰労と敬意、そして感謝を込め、ここで改めて。田淵のこと、そしてS’ACCAPAUが生まれるまでのことを、あなたに知って欲しいと思った。



イタリアをめぐり感じた「クリエイティブ」とは?

田淵の出身は大阪。学生時代にイタリア料理店でアルバイトし、卒業後もいくつかのお店を経て、23歳の時にイタリアへ。
 
「単純に本場を見てみたかったですし、行ったほうが話が早いなと思って」

最初はそこまで長くいるつもりじゃなかった。ただこの国は思いのほか田淵にフィットし、あまたの縁にも恵まれ、イタリアじゅうのさまざまなレストランを渡り歩いた。ローマからナポリ、シチリアと南下し、冬になるとピエモンテまで北上……と、結果ほとんどの州をまわった。

「魚介類が多いとか、馬肉を使うところとか、地方ごとに色があって。それをぜんぶ見てみたいなと。さらにトラットリアからはじまって、リストランテまで行くと、どんどんクリエイティブな料理になるんです。だからこそ、クオリティも意識も高い。素材を活かすだけじゃなくて、仕事もちゃんとなされている」
 
ただ働いて気づいたのは、どれも地方の料理、お母さんが作った料理がベースになっていること。
 
「それらを学んだ上でのクリエイティブだと。考え方は、それで変わりました」


多様性を感じて、素材を活かす。

これがS’ACCAPAUのコンセプトである「クリエイティブ・イタリアン」につながっていく。
 
「帰国してサッカパウをはじめた時、まず伝えたかったのは、イタリアの地方料理の面白さ。同じトマトでも、どうアレンジするかは南と北じゃ、ぜんぜん違う。多様性を感じて、素材を活かす。東京も間違いなくそうなってきてますよね」
 
ただ日本とイタリアでは、食材の成り立ちもありようも全く違う。
 
「なので、和の食材を使うのは必然。こんなにもいろんな食材が手に入る東京だからこそ、それをどう扱うか」

これぞクリエイティブの発揮しどころ!と、田渕はこの7年、できるだけ多くの食材を知り、扱う機会を得た。グローバルでの経験をもとに、分け隔てなくいろいろな素材を試し、組み合わせることにこよくなく心を砕いた。
 
多様性を感じて、素材を活かす。
 
「改めて思ったのは、日本は世界と比べてもすごく食材のレベルが高い。その辺はやりやすい環境ではありました」


「消えてなくなるアート」としての料理。

忘れてはならないもうひとつの“クリエイティブ”であり、まさにサッカパウの真骨頂とも言えるのが、皿の上での表現。独創的かつチャーミングな盛り付けの妙だろう。

「世界の最前線でされているシェフの方々は、本当にオリジナリティを大事にしている。お客さんを惹き付けるために、世の中にないものを作っている。それはアーティストと一緒だと思います」

田渕もまたひとりのアーティストとして、自分なりのオリジナリティとは何かを、愚直に取り組んだ。

「既成概念を外して、まずいろんな最新の料理技術を試したいというのはありました。そこに自分なりのアイデアを加える。料理だけではなく、食べる環境もそう。料理だけでなく、アートやデザインの世界を勉強してきたことも、発揮されたんじゃないかと」
 
そう、料理は消えてなくなるアートでもある。

「本当に手間も時間もかかりますし、ひと口食べるためにそこまでやる必要もないとも思うんですけど、それによって世の中にない料理が生まれ、新しい文化ができていく。僕もそのほうが楽しいし、お客さんも楽しんでくれるんじゃないかと思ってやってきました」


田淵は今夏、日本に帰国する前まで住んでいたドイツ・ハンブルグに再び移住。現地では料理人としてだけでなく、経営にも携わることになるという。
 
「ここよりはカジュアルでキャパシティの大きいお店なんで、向き合い方もいろいろ違うと思います」
 
ただS’ACCAPAUとも、これから監修という立場で関係性は続いていく。
 
田淵が築き上げたスタイルを継承しながら、どうステップさせていくのか。
 
新しいシェフを迎え、どのような新しいケミストリーが生まれるのか。
 
S’ACCAPAUの第二章が始まる。



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