見出し画像

途上国をずっと楽しむ方法、飽きないためにどうするか?

途上国とかかわって30年以上、途上国に特化したメディア「ganas」を運営して11年。ganas編集長として、強く思うことがひとつあります。

それは学生時代(またはある時期)にアフリカ/アジア/ラテンアメリカが大好きと語っていた人の多くが、数年後には、あれっという感じで途上国とかけ離れた日々を送っていること。

熱がガクッと冷めてしまったのか、もとからそこまで好きでなかったのか、仕事が忙しくなったのか(なんだか恋愛みたいですね)、結婚・出産でそれどころでなくなったのか、途上国好きをPRするメリットがなくなったのか‥‥理由を知る由はありません。

といいつつ、その感覚、実はよくわかります。僕も一時期そうなりかけましたから。そもそも、途上国をずっと好きでいる、飽きずに関心をもち続ける、というのは案外難しいこと。「途上国離れ」は普通に起きることです。

思い出してみてください。途上国に通い始めたときの興奮を。

見るものすべてが新鮮。足取りは軽やか。サルエラパンツをはいて、街を歩くだけで心が弾む。屋台で焼き飯を食べただけで、その国に溶け込んだ気に浸れる。ビーチ沿いの飲み屋で地元の人とわいわい盛り上がれば「日本なんてさあ」と舞い上がる。ゲストハウスで出会ったいろんな国の人たちとの触れ合いは「やっぱ、日本に閉じこもっていちゃだめでしょ」と妙な自信を自分にもたせてくれる。

強烈な体験。ただこの興奮した気持ちは数年経つと薄れ、やがて興味を失っていきます。人間はしょせん、飽きっぽい生き物。同じことをやり続けても同じ刺激は得られません。

かといって、行き先(国や地域)を変えたらどうなのか。多少の違いこそあれ、またすぐにマンネリ化してしまいます。そもそも同じ地球の上、同じ人間の営み。視覚が拾う景色も、聴覚がキャッチする街の雑踏も、味覚が反応する食べ物や飲み物も、また人間の考えることや行動も、途上国は基本的に似たり寄ったり。たまに「おっ!」とくることがあっても、その刺激は、ゲストハウスや屋台飯の初体験とは比べ物になりません。

早い話、観光地を回るだけ、おいしいものを食べるだけ、きれいな海や山で遊ぶだけ、といった途上国とのかかわり方では気持ちが冷めていくのは自然の摂理。強烈な刺激を求め続けること自体がそもそも無理なのです。

ではどうすればいいのか。ここからようやく本題です。

途上国に興味をもち続ける「手ごろな方法」は2つあります。

1つは「途上国のニュースを深読みする」こと。なんだ、こんなことか、と拍子抜けした皆さん、いやいや、まずは聞いてください。

僕はかねてから、途上国(世界)のニュースは「筋書きのない大河ドラマのようなもの」だと思っています。国と国、民族と民族、宗教と宗教、民主主義と権威主義、左派と右派などがドロドロに絡み合い、損得勘定で動き、強い者(国、民族、人)が弱い者を支配するという構図。そこには、知られざるドラマが広がっています。世界はある意味、戦国時代。

ニュースは普通に読んでも、大河ドラマのようなおもしろみは感じられません。けれども読み方ひとつで「こういうことか!」と納得感をもてるようになり、それが「飽きないおもしろさ」につながるのです。

たとえば、こんなことを考えたことはありますか。下は、途上国ニュース(ヒマラヤを越え、中国からネパールに鉄道が通るという内容)の深読みの一例です。

中国とインドという2つの大国に挟まれるアジアの最貧国ネパール。ネパールにとって輸出入の大半を占める相手がインドだが、経済状況は一向に良くならない。貧しさゆえに、海外に仕事を求めて国を出る人は後を絶たない。出稼ぎ労働者からの送金額はGDPの20%以上に達する。

貧困から抜け出すにはどうすればいいのか。頭を抱えるネパール政府。そこに、中国の援助を受け、ヒマラヤを越えて中国からネパールに鉄道を敷設する計画が持ち上がる。何か変わるかも、とネパールの人たちが期待するのは無理もない。ただ旅人にとってはロマンがあふれても、現実として何を運ぶのだろう。ヒマラヤを越えるだけに建設費用は膨大。巨大な借金を背負うことになる。

この鉄道計画に対して、「中国は軍事的に利用するのでは」と警戒し出したのがインドだ。インド政府はここにきて、ネパール(現在は親中政権)へすり寄り始めた。インドにとっては、かつてのように中国から領土を奪われたくない。緩衝国のネパールが中国の手に落ちれば、インドは黙っていられない(ちなみに中国、インドは世界3位、4位の軍事大国)。この構図は、ウクライナをめぐるロシアとNATOのよう。

中国にとっては、中国(チベット)から逃れた2万~4万人のチベット人が暮らすネパールを取り込むことで、チベット独立運動を抑え込みたいという思惑がある。1989年の天安門事件ではないが、民主化・独立の芽は摘んでおかないと、旧ソ連のように中国は分断するおそれも。中国政府はそれをなんとしても避けたいところ。

中国とインドの駆け引きに巻き込まれてきた内陸国のネパールは今後、どの方向に舵をとればいいのか。経済的にどう自立していけばいいのか。水力発電? 言うのは簡単だが、地形を変える工事を伴うため建設コストは膨大だし(借金がまた増える)、そもそも電気の需要地は遠い。観光? 観光資源は欧米や日本ほどあるのか(ちなみにネパールには昔からカジノはあるが‥‥)。

悩みが尽きないネパール。ユニークなのは、ネパールでは10年ほど前に王制が廃止されたこと。近年では王制の復活を求めるデモが起きることもある(タイと反対ですね)。

など。

いかがでしたか。これがニュースの深読み。ノンストップで動き続ける世界はまさに現在進行中の大河ドラマ。これを楽しまない手は絶対にありません。しかも世界は広い(ネタは尽きない)から永遠に楽しめます!

【早割6/19】メディアのプロと一緒に学ぶ!「途上国ニュースの深読みゼミ」(7月、8月)受講者募集

■  ■  ■  ■  ■  

もうひとつの方法は「エッセーを書く」こと。なんだ、こんなことか、とまたまた拍子抜けした皆さん、すみません、聞いてください。

僕は常々、エッセーを書くことは「見えないこと」をあぶり出すプロセスだと思っています。視覚が拾う物事は誰でも気づきます。ですが、大事なことの多くは目では見えませんよね。

見えなかったらどうするか。書くのです。書くことは考えること。もっといえば「これってこういうことかも!」と想像(妄想)を膨らましてみるのです。

僕は学生時代、スキューバダイビングのサークルに入っていました。海に潜って感じたのが「海底にはこんな素晴らしい世界があったのか。知らなかった! 地上から見える世界なんてほんの一部。知るって得するんだな」ということ。

エッセーを書く行為は、スキューバダイビングと似ています。途上国(途上国に限らず、どの国にも)には、表面的には見えないユニークな世界がたくさんありますよね。これは現地に住めばわかるといった単純なものではありません。

途上国にせっかくかかわるのなら、「見えない世界」に足を踏み入れてみませんか。絶対に楽しいです。見える世界だけしか知らないで、それに飽きて、途上国から離れていくのはもったいなさすぎ。人生を損していると思いませんか。

【早割6/21】見えないことを書く!「エッセーの書き方講座(初級編)」5期生を募集、協力隊から途上国好きまで

■   ■  ■  ■  ■

【途上国+αを学ぶ夏のプログラム一覧】好奇心を知識とスキルに! コロナ禍で失われた3年半をアップデート

 

 

この記事が参加している募集

世界史がすき