最凶種族の屠(ほふ)り方

姫のために食事をつくるとなれば、皆が喜んで岩の下にもぐる。それを、叩き潰してすり潰して美味しい玉をつくる。

姫は、喜んでそれを食べる。

わぁ、好物なの、だいすきなの! みんないっしょに食べましょう。

タイやヒラメが集まって姫とともに団子をつつく。明日はわがみ、今日は出遅れてコレになれなかったけれど、明日はこうして姫の笑顔のためのオヤツになれているかも。

みんな、みんなが姫を大好きだから。人魚姫は海にいるなら最強の種族であり、同時に最悪の最凶種であった。

愛を操り、好きを集めて、すべてを支配してすべてを鏖殺する。人魚姫に悪意はなく。周りがかってにそうする。それが、海における人魚というモノたちであり、怪異ばけものモノノ怪であり、海にいるなら何も止めうるすべも生き物もない。

最強、最凶のお姫様、それが人魚たち。だからお姫様であって海の災厄であって癌である。

だから、神さまは、彼女たちに、バグを混ぜたのかも知れない。
惚れっぽくて人間のオスに惹かれやすい。だから、わざわざ、上半身だけは人間にあつらえてある。
しかし求愛も恋も叶うことはない。

だから、下半身は、交尾のための器具が無い。

人魚姫とは、最強の禍々しくも愛らしくも可愛らしいお姫様、そして、哀れなメスたちである。

現在、現代では、恋をして地上に出ていき、そのまま野垂れ死にしたものだから、海には1ぴきの人魚姫も残っていない。

下半身が魚であるばかりに。
上半身が人間であるばかりに。

ただ、知らずともよい。
海はこうして最凶種を葬った。

ドラゴンが空から消えたみたいに。


END.

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