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読書記録:僕らは『読み』を間違える2 (角川スニーカー文庫) 著 水鏡月聖

【物語の解釈は人それぞれ、故に深まる理解とすれ違い】


【あらすじ】

「ねえ、たけぴーはどう思う?」

栞さんから丸投げされたのは、この高校にいるという『美人現役女子高生作家』の捜索依頼。

著書であるライトノベルを探しに訪れた書店で更紗と遭遇する事で。

「その作者って、三年の福間さんなんでしょ」

あっさり解決かと思いきや、真相はもう少し、複雑な恋愛事情が絡んでいた。

一方で近づく秋の学園祭。
作家捜しで妙な名声を得た僕は舞台の脚本を書く事となる。

とある事件からエースと部員が抜けてしまった演劇部。
部に残された依頼者・戸部先輩に思い出作りだなんて皮肉らせない為に、瀬奈たちも巻き込んで準備は進む。

しかし迎えた本番、何者かが脚本を書き換えていた事が判明する。
恋に謎めく学園ミステリー。

あらすじ要約
登場人物紹介

文豪の物語の解釈を巡り、ラノベ新人賞の作家を捜索。優馬が秋の学園祭の脚本を執筆する物語。


小説の物語を読み解く中で、文字から想像して連想するのは、読者の今までの経験であったり、価値観による。
それ故に、それぞれの理解の解釈は、共感する所やすれ違う事が必然的に発生する。
数多の文豪の中にはゴーストライターが居た事になぞらえ、身元不明な作家を探す中で色めく恋愛事情。
それを解決した事で。
名声を得た優馬による脚本の執筆。

若さ故の青さを抱えて、時には、間違えて遠回り。そんな青春の醍醐味を辿る優真達。
彼らは時に『読み』を間違えて、時に正解しながら一度きりの青春を綴っていくが。
恋に絡まる謎とは、そう簡単には紐解けない物であり。
仮面の奥に隠れた心は、いくら探偵を気取っても、簡単には解き明かせない物である。

拗れてしまった大我と更紗の関係。
それを気にする優真へ、漫画研究部の先輩である栞から押し付けられたのは、彼女の知己の相手である戸部先輩からの依頼。
それは、この学校をモデルにしたと思われる学校が登場するラノベの作者を知りたいと言う物で。
さて、誰が書いたのか、この物語?
ひとまず、小説を買いにいく為に向かった本屋で更紗と遭遇して。
拍子抜けするように、その作者が駅前の喫茶店の娘であり、先輩である香織だと明かされる。
驚愕しながらもサインを貰いに行く中で、香織本人から作者ではないと否定されてしまう。

では、本物の作家とは誰なのであろうか?
その謎を解き明かした中で、意外な答えを知った優真。
しかし、真実に辿り着いた彼は、答えを明かす事を拒んだ。
そんな彼を周囲はあろう事か、彼を作家だと誤認する。
それを、本物の作者の事を慮り、自分が「現役美人覆面女子高生作家」だと言い張るようにする。

そんな優真の虚偽の仮面に惹かれて、彼の元に持ち込まれた新たな依頼。
それは、とある事故により分裂してしまった演劇部の、現三年生の最後の舞台を成功させると言う物で。
脚本家として関わる事になり、己にとっての武器である濫読家としての知識を活かして、古典文学を組み合わせた脚本を生み出していく。

シェイクスピアの四大悲劇がモチーフを物語に独自の解釈を盛り込む。

「ヴェニスの商人」「リア王」「ハムレット」「マクベス」「ロミオとジュリエット」「オセロー」。

かつての文豪が生み出した作品に、現代の自分達の悩みを昇華して、文化祭で成功するヒントが隠されている。
諦められない恋と、どうしてもやり遂げたい演劇。
その思想に賛同した瀬奈や更紗も協力してくれる。
順調に舞台の足掛かりをきっかけに、栞への黒崎の想いを伝えれるように画策するも、何者かの思惑の元で脚本が改変される。
それは、仲たがいした部員のリーダーである城井による物で。
既に幕が上がっていた舞台は、望まない形に書き換えられてしまう。

その改変を望むのか?
そんな結末で満足か?
それが望んだ結末か?

それは認められない。
ならば、どうすればいい?
答えは単純。
真打ち登場と言わんばかりに奪い返せ。
そんな世界は壊してしまえ。
たとえ未熟に映って、見苦しくても。
優真は舞台を仮初めの舞台をぶっ壊して、物語を力強くその手で変えていく。
愚かに映るかもしれないが、伊達と酔狂は自分の専売特許だから。

いくつかの勘違いの元に成り立つ関係において、想い人への気持ちを抑えようとする更紗。
瀬奈への想いを自覚しつつある優馬。
何かに気付きつつある瀬奈。
そして、関係がゆっくりと動き出す学園祭で、近づく者と離れていく者が現れる。
各々の紆余曲折した想いが交わって、一歩前進する人もいれば後退する人もいる。
更紗や瀬奈や栞は次の選択を下す事が出来た。
しかし、優真と大我は以前停滞したまま。

有名なシェイクスピアの戯曲「ハムレット」のセリフである、『To be or not to be, that is the question』。
『生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ』というセリフがまざまざと少年達に答えを差し迫ってくる。

自分の感情が自分自身でも面倒くさいと自覚はある。
もう少し、素直になれたら。
ここで勇気を振り絞れたら。
頭で考えるばかりでなく、言葉に出せば望むようになるのでは。

そう思う場面が度々、訪れる。
それでも、周りからよく見られようと虚勢を張って、見栄を張ってしまう優馬。
行方をくらます等身大の気持ち。

上手く想いを言葉に出来ない思春期特有のもどかしさが邪魔をする。
曖昧な気持ちを抱えながらも、この恋心に白黒はっきりつけたい自分もいる。

他人の気持ちを勝手に推測して、でもそれがてんで的外れで、ことごとく『読み』を間違えている事を当人は気付いていない。
自分勝手に解釈して行動して、自分で自分の首を締めている。
それでも、これは子供だとか大人だとかあまり関係がない。
いくつになっても、他人の心という物は理解出来ない。
誰しも理解しているように思い込んでいるだけ。
本当に他人の気持ちを知ろうと思ったら、直接本人に真意を尋ねる他ない。
その答えが、自分の予想した物と違って、傷付いてしまう事もあるだろう。

それでも、他人と心を通わせようと本気で思ったら、傷付く事を恐れてはならない。
自分の思い通りに他人を動かす事は出来ない。
しかし、その気持ちを変に深読みして間違えるよりも、等身大の気持ちを知って共感する事の方が大切で。

いくつになっても、人間関係という物に答えはなく、正解も存在しない。
ぶつかり合って間違って、その教訓から何かを学ぶしかない。

人間関係とは一筋縄では行かない。
皆、それぞれに感情があり、利己的に行動をするが、それを表面上には出さないから、どんどんと複雑にややこしく絡まっていく。
起こりゆくリスクを想定して行動するのも大切ではあるが、どこかで勇気を出して切り込まなければ、チャンスを逃してしまうのが、恋愛と青春という物。
その恋愛に翻弄されて、混迷を極める文化祭の劇。

生きるべきか、死ぬべきか、それが問題であり、君達はどうするのかというシェイクスピアの質問。
その先人の問いに対して、返すのは己だけの導き出した答え。
笑いたければ笑うが良い。
たとえ、無惨な結果に終わろうとも、この皆で劇をやり遂げたいから。
全てを懸けたこの積み重ねに、ちゃんと報いたいから。

それは、どれだけ逃げ続けて先延ばしにしても、いつかは向き合わねばならない、心に抱えた命題。
提示された物語に、自分なりの理解を施して、解釈する。
他人との解釈の違いにすれ違いながらも。
伊達と酔狂と開き直って、読み間違えて深まる謎と対峙しながら。

優真はその謎とどうやって向き合い、複雑に絡まり合った人間関係を収束させていくのか?
そして、この青春はどんな方向に繋がっていくのか?

悪戦苦闘しながらも、やり遂げた脚本の執筆は優馬にどのような影響を及ぼしていくのだろうか?



















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