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読書記録:悪いコのススメ (MF文庫J) 著 鳴海 雪華

【良い子じゃこの世界は生きにくいから、悪に染まろう】


【あらすじ】
この世界は間違っている。
だから、僕たちは復讐をするんだ。

「先輩、私と一緒にこの学校に復讐しませんか?」

暴言。人格否定。学力差別。
価値観が歪んだこの進学校で、その後輩は突然僕に手を差し伸べた。

黒髪に隠したインナーカラーをなびかせ、悪戯っぽく微笑む彼女の名前は星宮胡桃。

「私、退学するんです。でも、逃げただけになるのは絶対に嫌――だから先輩、一緒に学校を壊しましょう」

有無を言わさず手を握らされ、巻き込まれる。二人ぼっちの反逆の日々。

放課後、二人きりの部室で、僕らはテロを企てる。そして、不純異性交遊に勤しむ。罪を重ね、唇を重ね、背徳的に堕ちていく。

「ねえ、先輩。キスも立派な反抗になると思いませんか?」

これは常識を捨て、優等生をやめ、大人への反逆を誓う――そんな僕らの、悪いコのススメ。

Amazon引用
 

歪んだ進学校に復讐を果たす物語。


皆が前ならえして、秩序正しく維持しようとする世界。
そこには個人の意志は存在せず、大人が作り出した常識で縛れた哀れな子羊達がいる。
唯々諾々と従えば、それなりの安寧と幸福を手に入れる事が出来る。
歪んだ価値観が蔓延る進学校で、退学させられる前に復讐を果たそうと目論む胡桃。
選ばれた蓮は、二人で叛逆の日々を過ごす。
ルールもモラルも知った事か。
罪を重ね、悪に堕ちてく中で己を見出す。

県内でも名高い進学校である私立西豪高校。
しかし、それはあくまでも表向きの偽りの姿。
その実態は「県内最上位レベルのすべり止め高校」とでも呼ぶべき物で。
最難関の門をくぐれなかった敗北者または、コンプレックスの塊達の流れ着く流刑地。

そんな世界に馴染めずに、下手に教師に歯向かった事で周りから奇特な眼を向けられる蓮。
完全下校時間を無視して、屋上で父親からくすねた煙草を吹かす彼と共犯関係の契約を交わす、後先がない胡桃。
まずは手始めに、成績上位のクラスに罵倒のハンコの罠を仕掛ける。
唐突な事態に少しだけ学校の空気に波紋が揺れて。
突然話しかけるようになってきた級友、由美と親交を深める。

周りが満ち足りた青春を送る中で、その裏側で悪の道を粛々と進行する、どこか特別で甘美な背徳の時間。
実質廃部となった天体観測部の部室で、二人で計画を練り上げる。
復讐する為の計画を立案している時が一番充実して、楽しくて。

人格形成期の彼らだからこそ、この復讐という名の自己主張が暗い青春として輝きを放つ。
歪んだ学校に対して不満や鬱憤は膨れ上がって、そして限界を迎えて爆発する。
最初は小さな悪戯が、少しずつエスカレートして、善悪の基準が曖昧になり、大それた悪事に身を染める。
胡桃は蓮に煙草の代わりにディープなキスをして。
恋愛感情のない、これも立派な叛逆だと嘯いて。
少しずつ背徳の深みに堕ちていく。

人生を楽しめないのは己の努力が足りてないから。
その絶望的な妄言に慣れてしまえば、強者に媚びて弱者を挫く、冷酷な世界に染まってしまう。

大人が敷いた安牌なレールの逆を行く、後ろ向きな青春。
成績だけに至上をおく、治安最悪な学校。
受験戦争で加熱した学歴社会の羨望は、高慢と偏見を生む。
勉強が出来れば持て囃され、落ちこぼれは貶される。
次第に陥っていく、人として大切な物が欠けた視野狭窄。
学校内に異常なまでに蔓延るヒエラルキー。
次第にその思考が人格を洗脳していく。
暴言や人格否定が当然のようにまかり通る理不尽なこの学校に対して反旗を翻す。

飼い慣らされた良い子達が学校を牛耳る世界。
狭い閉鎖された箱庭の中で、各々が自分に相応しい役割を自主的に演じて、その悪辣な空気を当たり前のように受け入れている。

皆が仕方がないと諦念して、同調圧力に押さえつけられた級友達の暗黙の了解をぶち壊す。
大人に飼い慣らされる事をよしとはしない。
不条理を仕方がないで終わらせはしない。
一度は意見の対立で袂を分かった胡桃と合流して。
最悪な復讐の引き金に手をかける。

皆の青春の代名詞といえる文化祭を台無しにする。
成績下位の者達が出席を禁じられた文化祭をどうして快く楽しむ事が出来る?
沸々と湧く罪悪感さえも、この歪んだ学校でなら、迷う事なく、正当化出来る。

法の境界線も越えた者には、手痛い制裁が待っているが、この悪夢を終わらせられるなら、どこまでも二人で逃げ延びよう。
今いる世界は狡賢いから、自分達にとって寛容な居場所を探しに行こう。
普通を強要してくるこの世界には自分達は必要ないから。

たとえ、その先に明るい未来が待っていないとしても。
間違っていたとしても、自分達の中では多分これが正解。
このくすんだ仄暗い空のような青春こそが自分達にとっての救済。
世間で無駄とされる愚かな行為にこそ、価値を見出す。
人として産まれた以上、自由と平等、独立の思想は許されるべきだから。
自分達の復讐の傷跡も、この世界の本質を変えるには、まだ力が及ばないだろう。

自分達の力がちっぽけで微々たる物である事も理解している。
しかし、だからこそ、欠落を抱えたはみ出し者の自達にとって。

このエゴを貫いた先で、少しは生きやすい世界が待っている事を信じ抜くのだ。



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