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幻の銘茶のこと(二)煎茶


秘境にあるちいさな茶園

永源寺を超えてどんどん山奥を進みます。
美しい川や山の景色にうっとりしているうちに到着したのは茅葺屋根の集落でした。

笑顔で迎えてくださった川上さん。ピカピカのお肌が眩しく思いました。
早速茶畑を案内してくださいます。
山の中まで来たと思えば、更に足元の険しい崖をのぼります。

ここなんですよ。

目の前に見えている風景は想像していたそれとは違いました。
燦々と降り注ぐ太陽の光
整然とこんもり整えられたどこまでも広がる茶樹並木
...ではなかったのです。
政所と呼ばれる集落を見渡せば山間の形状は一定ではありませんので、
そういった畑もあります。

でも案内された川上家の畑は
薄暗く険しい崖肌に不規則に枝の伸びた茶樹。
鉄柵に囲まれた畑は大きいとは言えず、いろいろと個性的だな・・と思いました。
想像する『茶畑』と真逆の景色です。
すぐそばには、綺麗な湧き水が流れていました。

急傾斜で鉄柵に囲われた茶園


初めて口にする日本茶
あのな、お茶はこう淹れるんやで」
お茶のセットを持ってきて見本を見せてくださいます。
川上さんの淹れてくださったお茶を口に含みました。

・・・・・。
戸惑いました。いわゆる煎茶はこれまでも様々いただいてきています。
脳内で過去いただいた煎茶の一番おいしい味を勝手にイメージして口に入れたからかもしれません。
例えがおかしいかもしれませんが、おうどんのつもりで口に入れたらお蕎麦だったみたいな・・違いますね。表現が難しいです。

どや??って顔で川上さんの視線がささります。
慌てて脳内で『これは初めていただく飲み物』とリセットして
味わいました。

美味しい・・心底 ホ~ッ とするような、でも茶葉の香り(また表現が雑ですね・・)、何と表現すればよいのでしょう。
色味が薄く見えても、驚くほどしっかりと味がします。
一番お伝えしたい部分なのですが、語彙力が低く申し訳ありません。

一緒に出されたお茶請けは、川上さんお手製の干し柿と熟成柿、
山芋でつくった軽い口触りのお菓子。
押しの効くお茶です。
心地よい静かな山の中、2煎目・3煎目と心から贅沢な時間をいただきました。

「ほんでな、こうして飲んでみて」
出されたのは、ラップに包まれたガラス製の急須とショットグラス。
水出し煎茶です。

茶葉の香りは繊細で、匂い移りがするので
水出しをしている間、ラップで包んで冷蔵庫でじっくり待ちます。
ショットグラスに注がれた冷たいお煎茶、
もう、これ、絶対です。絶対試していただきたい。

温かいお茶をゆっくりいただくのも勿論ですが、
旅で疲れて入った宿で、「お茶をどうぞ」と
この一杯を出されたら、あぁ・・至福の時間にかわるでしょう。

自家製草餅と


「ワシら、子どもの頃からこれを飲んでいますやろ。
他所言ってお茶を出されると、おもてなしいうんかな、
えぇお茶つこうてはるな、と思ったらそれだけもてなされているな、って思うんですわ」
ご主人のお言葉にハッとさせられます。
お客様に出すお茶の一杯がどの様であるか、というところにも
気持ちが表現されて伝わるのだな、と。

その後、東京に戻ってもしばらくは喉の奥に川上さんのお茶の甘味が残り続けていました。



お力添えいただけますと幸いです。