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人事部門の問題は、本当に人事部門が原因なのか

■人事部門改革の重要性が増す今日

近年、人事部門の進化の必要性が至る所で叫ばれている。従来的な各種制度の運用だけをやっていればよかった時代は終わり、より経営やビジネスの問題解決に資する人事部門のあり方が求められている。この状況を背景に巷で「戦略人事」や「人事部門改革」といったワードを見聞きすることもこの10年くらいで増えた。
自分は元々は大手メーカーの人事部門の一員として働き、その後現在はとあるコンサルティングファームにおいて組織・人事改革支援を行う立場にある。その双方の経験からも自分自身その重要性を強く認識しているのは間違いない。自分が人事部門に在籍していた頃から同じコーポレート内の他部門と比べても人事部門の改革は遅れていたし、コンサルタントになった今ではそうした改革に関する相談を受けることも多い。

■「戦略人事への変革」の言説に関する違和感

ただ、同業の会社や同じ社内でも同僚のコンサルタントたちが言う人事部門の問題点やその改革方法には正直違和感を持つことが多い
例えば以下である(以下は所謂大手コンサルティングファームではないが、大手も似たようなことを言っているケースが多い)。

人事部門の業務分析を実施すると、戦略や専門的な業務が約20%のみであり、約80%は運用(オペレーション)業務に従事しているという傾向にある。戦略的・専門的な業務に取り組まなくてはならないことは理解しているものの、日々のオペレーション業務に忙殺されているというのが実態ではなかろうか。
(中略)
人材が働く意欲を高め会社に留まる仕組み、生産性が高い状態で働くことができる環境こそが必要である。その前提として最新テクノロジーも積極的に活用した生産性の高い業務基盤(ローコスト&ベストプラクティスモデル)の構築が不可欠である。人事業務改革が一丁目一番地である所以である。

人事業務改革|レイヤーズ・コンサルティングhttps://www.layers.co.jp/service/%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E5%8B%99%E6%94%B9%E9%9D%A9/

戦略人事を実現するためには経営戦略・事業戦略を把握することが必要条件だ。人事部体制も整えなくてはならない。まだそれだけでは足りず、従業員のエンゲージメントを意識しつつ推進することが欠かせない。一元化された人材情報は戦略人事実現のためのインフラだ。ぜひ、戦略人事実現度が高い企業の4つのポイント
①人事部・人事責任者の位置づけ ②人事部メンバーの専門性と事業経験 ③アウトソースの活用と人材配置 ④人材情報の一元管理と活用
を押さえた自社なりの人事部の姿を探っていただきたい。

戦略人事実現の4つのポイント|パーソル経営研究所
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/column/202206270001.html

 

上のレイヤーズ・コンサルティングの記事では、まず人事部門業務の効率化・生産性向上が必要であると述べられている。つまり、人事部門が価値発揮するためには、より戦略的な業務を行うための時間をはじめとしたリソースの確保が課題であるという立場である。
一方で下のパーソル経営研究所の記事では、人事部門業務の高度化が必要であると述べられており、そのために①位置づけの明確化(会社内での人事部門、人事責任者の権威向上)、②人事メンバーの開発、③人材配置の見直し、④人事情報の一元化等の高度化のための組織の目的・ビジョンを起点とした組織改革が課題であるという立場をとっている。

一見すると両社とも言っていることは間違いでもないように思える。しかし実際に人事部門を経験した方は、何となく違和感あるいは片手落ち感を持たないだろうか。
そしてそれは恐らく、「これらをやったとて、具体的に自社で戦略的な業務を提供しているイメージが思い浮かばない」といった思いではないか


そして、そのイメージが浮かばない理由とは、そこに高度化されたサービスの提供を受ける顧客となる経営層や事業部門の姿がイメージしにくいからではないかと思う。つまり、自社の経営層や事業部門が人事からそうした高度な支援を受けて、それが有機的に行動の改善につながっていくようなプロセスを作ることの困難さを直感として感じ取っているのではないだろうか。

結局、上記2社の「①人事業務の効率化、②人事組織・人材・業務の高度化という2つのアプローチで人事部門を改革できる」という言説には、人事部門内部の観点しかなく、「顧客/共創」側の観点が完全に抜け落ちている

■顧客ニーズのないところに提供はできない

当然ながらサービスは顧客があって初めて成立する。人事部門の場合の顧客は経営層や事業部門であり、彼らは人材マネジメントの実行主体という意味で「共創」主体でもある。恐らく苦しんでいる多くの人事部門にとっての最大の壁(イシュー)は、「そもそも経営や事業部門から人事部門に対してそうした高度・戦略的な具体的なサービスが求められていないこと」ではいかと考えている。
そうした状況の中で、仮に業務を効率化し、人事部門に優秀な人材を引き入れ、配置や業務を見直したところで、恐らく提供価値は何も変わらない。もっと言えば、いくら人材の分析結果や戦略的な提言を経営や事業部門幹部に行ったところで、顧客であり共創主体である当人たちにその問題意識やリテラシーがなければそれらは何のアクションにもつながっていかない。

ゆえに本来こうした改革は、人事部門のあり方を見直す前に、「経営層や事業部門側に最終的にどういった人材マネジメントのアクションをとってもらいたいのか」「そのために人材マネジメント全体の中の役割分担として、人事と経営層・事業部門にそれぞれどのような役割を持たせるのか」「そのために経営層・事業部門側にどういった窓口・推進機能が必要なのか」までを時間をかけてでも明らかにして初めてその会社としての人事部門に対する個別具体的なニーズやそれを踏まえた組織のあり方が見えてくる
それがないコンサルタントの提案は、一般論、絵に描いた餅、あるいは単なる人事の業務工数分析やツール・システム導入等だけに終わってしまうだろう。

■人事部門の問題は、人事部門単体ではなく、社内での「構造的」な問題

人事部門の問題を内部の業務や組織、人材等だけでとらえているだけでは恐らく状況は一向に改善しない。結局、人事部門の問題は、経営や事業部門との関係性による「構造的問題」なのである。だからこそ人事部門の問題は複雑で解決が難しい。
そもそも会社で起こる問題というのは全て「構造的」な問題であり、これを「属人」「属組織」で捉えているうちは恒久的な解決など絶対にできない。そうした全体像をとらえないままの改革の推進、ましてや外部からのコンサルティングに自分は警鐘を鳴らしたい。実際そういった視野狭窄なアドバイスを送ってしまっているコンサルタントは恥ずかしながら存在する。

繰り返しになるが、人事単体で業務のデジタル化や人事の組織改編、メンバーの育成等を粛々とやっていった先に「人事部門変革」が起きるほど、話は簡単ではない。
「人事業務の効率化・高度化で人事部門はより経営・ビジネスに貢献していけます」なんて超単純化されたロジックの謳い文句で支援を提案してくるコンサルがいたらぜひ注意していただきたいと思う。

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