マガジンのカバー画像

恋に満たないエピソード

7
運営しているクリエイター

#掌編小説

赤いくつ、赤いばら、白いばら

赤いくつ、赤いばら、白いばら

いつも白と黒のものしか身につけないことにしている(理由はまた、今度)。

でも今日は少し贅沢なお店で食事をするから、いつもより少しおしゃれに見えるよう、家を出る直前に赤いパンプスに決めた。

最近は駅までの道を自転車でなく歩くようにしており(理由はまた、今度)、見た目よりずっと歩きやすいその靴で、てくてくと歩いた。

いつもの道で、ふと左を見ると、知らない人の家の柵にたくさんの小さな赤いばら。その

もっとみる
次に雨が降ったら

次に雨が降ったら

「濡れるのきらい?」

 そう聞かれたのは、軒のないラーメン屋の前で、席が空くのを待っているときだ。彼は傘を差しているようで、私に言わせたらちっとも差していない。傘の中棒を無造作に右肩にかけているだけで、もう片方の肩には傘をよけた雨粒が容赦なく落ちている。

 私は、できるだけ濡れないように傘をまっすぐに持ち、バッグを体の前で抱えるようにして、心なしか背中を丸めて小さくなっていた。

「うんまあ、

もっとみる
「B型の人が好きなんですよ」

「B型の人が好きなんですよ」

 2年後輩の三島君は、さわやかで面白くてモテそうな青年なんだけど、入社してきたときはすでに結婚して子供も2人いた。学生結婚らしい。だから他の人たちよりずっと落ち着いて見えたし、新入社員なのに家族を養っているから、他の人みたいに自由に使えるお金がなくて、遊んでいる風もなかった。

 ほとんど一緒に働くことはなくて、というかほぼ皆無だったけど、「よくできる」といいううわさは聞いていた。ときどき、部署全

もっとみる