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第二詩集『パラレルワールドより愛をこめて』



目次
第一部       星
     「きょう」
     一滴
     エチュード
     夜勤明け
     愛して、孤独。
     夜更けのおとぎ話
     一夜
     反転重力
     海路
     遠い惑星
     銀河生命体
 
第二部       死
     生存本能
     ここはなんてB級映画
     乾杯
     夜の箱庭
     ピエロの末裔
     月夜の廃病院
     簡易ロボットの終結
     やけくそラプソディ
     屋上ピクニック
     穏やかな春風は全て死
     十年前大学生
     加藤ショコラよ、永遠に
     くるしまぎれの添加物
     遺品整理のSFを愛して
     遺品整理のSFを愛して Side.B
 
第三部       境界線
     幻惑
     へび
     あひるとさかなの水遊び
     数十ページ
     空想世界の白銀の街
     簡易娯楽
     なりたいだけが凡庸で
     殴り書きの廃墟都市
     東校舎、窓辺の一等席
     青羽貯金箱
     劣等上等の殺人未遂
     渇望必死なロンリーガール
 
第四部       愛
     事後
     鯖を焼いた街角の一軒家、を通り過ぎる
     逃避行の方程式
     ユリさんについて
     模様替え
     回顧記録
     美化委員
     そういうことらしい
     痛みの等価交換
     たぶんいつか小説になる繭
     草原
     午前4時のナポリタン
     家路
     最愛のひと
     ピクニックデート
     フィルムカメラ
     フィルムカメラ Side.B
     永遠の果て
     永遠の果て Side.B
     あとがき前に
 
あとがき


第一部 星


「きょう」

いつか、なんて曖昧なものに振り回される人生はごめんだよ。わたしの「きょう」は今日しかないよ。昨日でも一昨日でも、ましてや明日でも10年後とかでもないんだよ。宇宙が爆ぜて、わたし、というものが生まれて、それから景色が動き出した。銀河系のちっぽけさんに、「きょう」をあげる。


一滴

彼方の虹にアストラが咲く
夢から目覚めてしまう前に
急いで有栖
 
霧雨の街で貴女を待ってた
濡れそぼったら終わりだよ
永遠に白兎
 
今宵も夢で騙りましょう
どこまでもどこまでも
未来でさえ味方
 
消えてなくなりたいのはだぁれ?
 
馬鹿みたいになって
同じ言葉を繰り返して
空はやっぱり憎たらしくて


エチュード

空がきれいだったから
羽をぴかぴかに磨いて
手と手を繋いで遊ぼう
 
夜になって
星が降って
風の旅人となれ
 
日が昇って
夢のままで
永遠の子どもであれ
 
空を飛ぼう
風に乗ろう
星を探そう
 
僕達は
僕達だけの
北斗七星であれ
 
白熊と
十字架と
宇宙旅行の物語
 
鍵はいつも
真夜中2時、時計台のなか。


夜勤明け

世界って意外と味気ないものよ
どう足掻いたって
自分の目しか持てないんだから
 
微熱にふわふわ
気球船に乗っていきましょう
綺麗なカーテシーを魅せてね
 
天邪鬼にも明日が怖くて
反転する星の無重力状態
有限無限の彼方に微笑んでいましょうね
 
澄み渡った青空と
過ぎ去った牛乳と
夜明けの地下鉄


愛して、孤独。

図々しさが恋の始まりだとして
私たちって何者なのかしら
 
たわいもない家族ごっこ
おままごとにも飽きたから
指先を絡めてプリンを食べよう
 
聖なる夜に有り触れた
言葉足らずのらぶれたー
 
たぶん、サンタはやってこない
14パーセクの先で
再びお会い致しましょう
 
抱き締めて、銀河。 


夜更けのおとぎ話

最後の晩餐を信じていて欲しくて、私は途方もない嘘をつくことを始めた。銀河系の狭間でネオンサインはぴかぴかと輝いて、土星人はあくびをするだけで幸福だと言う。信じていいのかなんて愚問中の愚問で、お決まりのパターンにはもう幾年もうんざりしている。山の麓で宇宙は夜を造っているんだってさ。


一夜

夢は口に出して叶うと言うわ
カイロスには前髪しかないのよ
 
さぁお手を取ってくださいまし
夜道を馬車でがたんごとん
 
月夜がこんなにも眩しくて
一夜限りの罪を犯しましょう
 
ふわりと夜の花片を咲かせて
貴方のブーツが軽快なステップを踏む
 
仮面舞踏会でまた合間見えるまで
どうか秘密のままで…… 


反転重力

かなしいねぇ、かなしいねぇ、
地球はまんまるく出来ているのに
涙はまっすぐ堕ちるんだねぇ
 
雨水を飲んで
生きて、生きて、
残忍な言葉が
僕たちを切りつけるけれど
 
地球はまんまぁるく出来ているから
下の反対はうえになるから
雨が昇ってゆく国もあると思うんだ
 
虹が哀しみの国もあると思うんだ 


海路

わたしたち
小さな星だね
 
地球の空は
よく曇るから
またたきすら
見えないよ
 
わたしたち
小さな星群
 
航海の果てに
行こう
 
後悔の果てを
生こう


遠い惑星

いないあなたを、探す。
惑星は遠い世界の象徴で
憧れのシティボーイの手を取って
どこまでも、どこまでも
飛んでゆけると、信じてみたのだけれど。
 
けっきょく、ひとり取り残されて
ネオンが遠くに見えるから
やっぱり、ちょっぴり、さみしくて。 


銀河生命体

詩を書くのはすき。
死を描いてもおこられないから。
 
詩を書くのはすき。
何行でおわってもいいから。
 
詩を書くのはすき。
文法なんていらないから。
 
詩の惑星で
詩を食べて
詩を書いて
 
見えない詩に
恋焦がれて
わたしは今日まで
わたし、になった。
 
透明な詩のせかいで
眠りにつくのがすき。 


第二部 死


生存本能

垂れ流された言葉たちは
ふよふよふよと
真空の世界を飛び交って
 
煌めく銀色の道筋
あなたの元へ届くのだろう
 
詩を考えることは
死を考えることに
似ていて
 
死を考えることは
生を考えることに
似ていて
 
生を考えることは
性を考えることに
似ている
 
私達は
しがないただの哺乳類だ 


ここはなんてB級映画

今日もゆるやかに死んでいく。
坂道をころころ転がっていって
海辺の街に辿り着くまで
潮の香りが鼻腔を擽るから
混沌たる記憶の狭間で
うつらうつら船を漕ぎながら
かまくらの中で灯火に安寧を
 
吹雪の中に約束を
真夏の夜の運命を
星は今夜も瞬いて
 
さよならばかりが
ほんもので
 
今宵もきっと。 


乾杯

死体を乗せたトラックがゆく
あたしも別に大した顔じゃないけど
綺麗なものが好きよ
嫌いになっても大丈夫なくらい
好きにならなくちゃいけない
無意味に時間を浪費して
そのまま死んでいけたら幸せなのに
誰かと会う時は
まっさらな気持ちで会いたい
記憶も思い出もまっさらに
そうすれば
全部全部なくなるよ
全部全部なくなったら
私たちはようやく死ねるね
上等なカクテルのような空
私たち、ようやく溶け込めるね 


夜の箱庭

寂れた部屋の街角で。奇跡を信じる幼子の。鳴き声切なく儚くて。手を伸ばしたってチープな明日に持ってかれちゃう。太陽よりもヘッドライトが好きよ。夜の帳、雨の匂い、見知らぬ人の車とヘッドライト。私だけの箱庭で。誰のものにもならない、私がいる。欲することが哀しくて、私が夢想に消えてゆく。 


ピエロの末裔

そんな真っ直ぐなものでもないんだね。どろどろ臭くて汚くて。まるでここは吐き溜めだ。人類が残した最期の廃棄物。腐敗臭が私を優しく迎え入れる。そろそろ終わるのだろう。いっそ終わらせてしまいたい。終止符ばかりの夢。……馬鹿なんだろう。たぶん、馬鹿なんだろう。愚かにもなれない馬鹿なんだ。 


月夜の廃病院

打ちひしがれて立ち上がれない夜もある
真っ黒な世界 水浸しの床
這いつくばった検査着の彼女
 
人は一人で生きていくのだ
それを教えて貰うには少しだけ依存してた
これだから愛というものは信用ならない
 
優しさとか思いやりとか
そんな甘い言葉で人の自我を曖昧にする
死神だ
 
哀しいかな
崖下は骸 


簡易ロボットの終結

それは終わり
何一つ始まらぬ白昼夢
 
そらは終わり
永遠を問うなど無価値
 
咀嚼は始まり
唐突な生命との廃棄物
 
粗雑は始まり
骸の骨粉を撒く沖つ海
 
さようなら
さようなら
 
マタアイマショウ
 
全ての終焉に幸あれ
 
幸福の鐘が鳴り響き
空も海も高く遠くそして深く
 
さようなら
さようなら
マタアオウ 


やけくそラプソディ

ちっぽけな不条理でさえ
大きな断崖に見えるのに
みんなはどうやって生きているのだろう?
 
あー
昔昔の人間に戻りたい
人間が造った壁なんか
なーんもなくって
人間が殺した人なんか
だーれもいなくって
 
幸せばかりじゃないだろうけど
不条理も今よりは少なかった
あの頃
 
潮風に塗れていた
あの頃 


屋上ピクニック

私たち、このまま堕ちていくのかな
何処までも何処までも永遠までも
少しだけ飛べたと思ったのに
それさえも嘘だったのかな
それさえも夢だったのかな
 
蜘蛛が歩いていくよ
かさかさかさって
私たち、みたいだね
這いつくばって惨めで
安易に理解者ぶる人たちに囲まれて
不幸だ。
 
そろそろ飛ぼうよ、


穏やかな春風は全て死

制服を着ていた感触を思い出せなくなった頃、大人は産まれて。大人になれば、知らない空を見ても感動しないんだよ。だなんて、訳知り顔で。
ぜんぶぜんぶ、忘れちゃうんだろう。愛も夢も憂いも絶望も。それから死んで空になる。ワンシーンを彩る空になる。空になって、霞みゆく明日になる。……だろう? 


十年前大学生

痛み止めを飲んで
パーティにはやっぱりサンドイッチだし
残酷な人格をしているね
人のものを読み漁っては
それを糧にまた造る
搾取という名の創作行動
かんばせは一等不細工で
キャンバスは一等真っ白だ
罪深いほどに
罪悪感のない
ただの生存本能 


加藤ショコラよ、永遠に

平行線世界の加藤ショコラが飽和していて、一生お守りみたいにして生きていく言葉がある。
 
期日は確実に迫ってきていて、JPOPの歌詞はどこか薄ら寒い。
 
今日も今日だ。
 
いつだって痺れを切らすのは私の方で、哀しいくらいに時間は均等に配られている。
 
今日も今日だ。
 
今日でしかない今日だ。 


くるしまぎれの添加物


逃げて
その先
明日
 
希望と
絶望の
狭間に
 
いつだって
誰かに
何かを
言って欲しくて
 
でもそれってただの甘えだよね
 
どこまでも砂糖菓子
みたいにはなれないし
いつの日も綿あめ
には乗れないんだよ
 
魔法みたいに
消えてくから
うつくしいんだね
 
そう言って
欲しかった、なぁ
だなんて今更。 


遺品整理のSFを愛して

私の浅ましい心など
とうのとうに見透かされている
それでも時は流れるのだから
それでも大切にしたいのなら
 
死体は死体だけのまま
僕達は眠りに着くよ
寂れた駅の
プラットフォーム
何にもない
僕の胸に
 
才能なんて曖昧なものに
縋り付くくらいなら
死んでやる
 
無敵の先に夢の跡 


遺品整理のSFを愛して Side.B

忙殺された遺品たちを
手探りに集めては
意外とガラクタばかりだと
がっかりするよね
 
と、美しい顔をしたひとが言うので
わたくしはちっとも絶望しなかったわ
 


第三部 境界線


幻惑

ころころ予定が変わるので。
あしたもきのうも曖昧に。
接続詞だけの王国へ。
水玉模様のあの人に。
怯えて暮らす子猫の話。
 
ゆうるりら、ゆうるりら。
 
血圧だけは正常値です。 


へび

プラスチックの焦げた匂いが
私の身体に染み付いた
 
フライパンの上
油が跳ねて
 
私の胃腸はすぐにもたれる
貴方の肩には寄りかかることすら出来ないのに
 
廃れてしまった音楽と
荒廃した世界の狭間で
私は今夜もひっそりと
息を凝らして機会を伺う 


あひるとさかなの水遊び

童話とSFの最寄り駅にて
懐古主義と未来人が邂逅を果す
開幕式には指輪を投げて
遠くの水平線までキラッと光る
 
有り触れた日常にばいばいして
爽やか味の風景画を
一枚ばかし食べてみたい
 
あいすくりーむの明日が
きっと彼等を待っている 


数十ページ

口に入れてしまったビー玉は吐き出しなさい。
空を鉄の塊が飛ぶなんて、有り得た話かもしれないでしょ。
夢と月が混ざり合わさって、白銀の花が咲くのは世の常識ね。
すり鉢に血を垂らしてみたら、きっと吸血鬼がやってくるわ。
 
契約の狭間に
青い夏空の向日葵模様
小さな子供部屋へ
続きのない物語を 


空想世界の白銀の街

夢みたいに
夢みたいに
 
まるで
夢みたいに
 
哀しみの空が夜になる
 
夢を見ていた
空想世界の白銀の街へ
 
空を飛ぶのは
魔女と宇宙飛行士
ライト兄弟
 
グリム童話の嘘とほんと
 
照明を浴びていたいと思った。
言葉が言葉であるうちに
言葉が言葉が
 
思いもよらない言葉たちが
見えない未来を彩るように 


簡易娯楽

意味がわからない、という意味があります。それを信じていてください。
 
デジタルデータ
売り飛ばされて
顔面偏差値
 
毒林檎の丸齧り
生き抜いたのは
溝鼠
 
木菟
小娘
銀ラック 


なりたいだけが凡庸で

病んでる間があるのなら
間引かれた愛もあるだろう
 
自己犠牲主義の元に
集まった
自己犠牲者たちに
反吐が出る物語を送るのはどうだろう
 
魔女狩りにでも遭遇して
狂信者の振り付けを習おう
 
まやかしだらけの錬金術師
詐欺師なんてただの一般人なのに
 
モブAに祝杯を
腐ったソテーにワインを添えて 


殴り書きの廃墟都市
 
泣きたくなるほどの純情を
吐き出したいほどの劣情を
 
鳴り止まないのは僕の鼓動
走り出したのはあの日の記憶
 
夢みたいな
まるで夢みたいな
 
それでもやっぱり覚えていて
僕の言葉を
君の世界を 


東校舎、窓辺の一等席

ここは映画祭
毎日がターニングポイントのような気がしていて
私は世界軸に生きていたい
 
終わることを知らない街路樹
夢の果て
衰退の一途を辿った
山羊
 
ロマンチックに
ドラマチックに
だからこそ皮肉めいていて
だからこそ残酷であれよ……
 
未来の残り香を嗅いで
今日の栄養分となれ
記憶を相殺する 


青羽貯金箱

永遠の孤独の果てに
稚拙さが残っていて
僕は忘れ去られた玩具箱だ
 
雁字搦めにされるくらいなら
いっそ鳥籠にでも隠してしまえ
 
優しい嘘でもいいんじゃないかな
相手のいない嘘なんて非存在なのだし
 
ありふれていたい
なんてのはまやかしで
僕らはまったくもって
言葉というものを知らないのだった 


劣等上等の殺人未遂

サヨナラさえも忘れられなくて
終りが見えない夢路にて
停車駅の汽笛を鳴らしなよ
 
マチカドさえも夢現の不自由さ
僕達、一体何に縛られているのだろうね
ホワイダニットを知りたいのだよ
 
永遠なんて馬鹿みたい
鼻で笑う、あの娘が欲しい
花一匁は天気予報なんかじゃないんだよ
 
それって、さ、、、 


渇望必死なロンリーガール

現実との乖離に
夢は夢のまま
そこはかとなく
落ちぶれて
堕落したのか
脱落したのか
 
それはただの
ことばあそび
 
明日が怖い
少女の泣き顔は
夜道を駆けてゆく
追われて
追いつかれて
引きずり落とされる
 
うしろがみは
ただひかれて
 
欲しいものは
何でしょう
欲しかったものは
何でしょう
 
ただ、
 


第四部 愛


事後

寂しさの塊みたいな、夜を抱えて。眩しい明日がやって来ることが、憎くて苦しくて。愛される貴方から愛されたら、私も世界から認められるような、気がして。空っぽな愛を求めたところで、むしろ虚しいだけで。孤独は愛せないから、独りなんだよ、っていつかの君が笑っていて。ね、今夜も寂しいでしょ。 


鯖を焼いた街角の一軒家、を通り過ぎる

嘘を吐きたい訳ではなかった
知っている言葉の多さが問題ではない
早とちりの評価が欲しいのか、本当に?
 
嘘を信じたい訳ではなかった
サヨナラの数値と物語が問題ではない
早とちりの真実が欲しいのか、本当に?
 
愛を囁きたい訳ではなかった
誰も彼もの夕暮れを欲して
手に入れたものは一体何だろう


逃避行の方程式

どこまでも
限りもなくて
都合の良い夢を
見ていよう。
 
欲しているのが
誰かの愛情だなんて
そんな寂しいこと
言わないで。
 
さよならも
おはようも
途方もない
地平線。
 
嘘も誠実も
友も恋人も
非存在な世界
に、なればいい。
 
不平等で
理不尽な
それでいて
自由らしい。
 
僕達。 


ユリさんについて

ゆるりラ、と。
浮遊体になった、わたくしたちの。
眠るまでの戯れを。
 
雲泥が、空に恋をするので。
雨はしとしと啜り泣く。
 
ゆルリら、と。
世界と六畳について、わたくしたちの。
子らが産まれるための考察を。
 
紅く、色づく。
花の名を。
わたくしたちは、知らないのです。
 
ユルリら、ユルリら 


模様替え

子供部屋みたいな毎日を
少しずつクリアにして、
なんだかそれは
大人への通過儀礼みたいだよ
 
子供部屋だった記憶を
少しずつ忘れていって、
なんだかそれは
ミルキーウェイロードだね
 
カラフルな毎日に
お別れ会を開いて、
なんだかそれは
冬の惑星みたいに寂しいので
 
僕は針葉樹をポップに描くよ 


回顧記録

味のしなくなったガムのように
着古したお気に入りのワンピースみたいに
人生だって色褪せていく
 
何者にだってなれる
そんな希望も
こんな天気の日には
絶望にすら感じられるのだから
私も大概大人になったらしい
 
何者にもなれなかったあの日々を
愛おしく思う 


美化委員

校舎の匂いが好きだった
お洒落な嘘なら要らないから
 
プリーツスカートが永遠の証で
私たち、永遠の子どもたちで
 
夕焼け色に染まってゆく
廊下を歩いていた
 
私たち、無垢で純粋で
勇敢で傲慢で
 
怖いものなど何ひとつとして
なかったんだ
 
幸せだった
自由だった
 
それから
少しだけ可哀想だった。 


そういうことらしい

ぺっしゃんこに潰れたパンも
愛して
それっぽく可愛くなろう
 
楕円を描く練習ばかりを
愛して
それっぽく可愛くね
 
今という時間さえも
愛して
それっぽく可愛いよ
 
財産という名の希望を
愛して
可愛くってそれっぽく
 
大丈夫
愛することと
可愛いことと
それっぽいことは
 
全くの別物で
全くのおなじ 


痛みの等価交換

私を馬鹿にする人がいる
満月の夜は何処と無く不満になる
 
脱兎のごとく逃げ出して
今にも壊れそうなのはあなたの方だ
 
大きな蟻が必死に列を生して
はぐれた者の触覚は引きちぎられる
 
明日は来ないものだから
「明日」と名付けられた
 
今宵はどうしようも満月だったので
こんな時くらい優しく痛い。 


たぶんいつか小説になる繭
 
愛してるよ、ってその人は言った。
繭は意味がわからなくて泣きそうになる。
空はたぶん青くて、清々しいまでの秋空で。
でもそんなもの、ひとつだって心に響かない。
疲れとは、こんなにも感情を蝕むものなんだ、とちょっぴり驚いた。
ファンタジーの話をしようよ。とりとめのない、ファンタジーの話を。あるいは、ミステリーの話をしようよ。
繭が繭のままでいられるうちに。
 
寂しくないの?って聞かれたから、寂しくないよって答えた。でもそんなの、強がり以外の何者だっていうんだろう。
だから、その人は去っていた。
繭はその人を追いかけない。こういうときは追いかけてほしくないものなんだよ、って確か言ってた気がする。
それもこれも遠い記憶の向こう。すぐに忘れるのは繭の頭が悪いせい。 


草原

赤茶に焦げた髪を揺らして
そこはかとなく夏草は揺れ
若草色のレースを編み込み
駆けてゆくわ 駆けてゆくわ
スカートの裾をたくし上げて
貴方のもとへ 貴方のもとへ
 
空が高く青く深く
犬の鳴き声が遠く
雲は白く鮮やかに
 
思ひ出をひとつ
在り来りな淡い
想いを綴る手紙
 
駆けてゆくわ 貴方のもとへ 


午前4時のナポリタン

午後4時のナポリタンが美味くて
食べかけが美しいと知った真夜中
泣いたらおしまい。
 
君がいれば
何も怖くないよ
そう信じて気球に乗った。
 
恋人たちはフレンチキスして
明後日はきらきら光っている
 
夕焼け空がやさしくて
雨の匂いがした
冬の匂いがした
 
王冠はまだ
誰のものでも
なかったりする。 


家路

街は今日も夕焼けに染まる
道ゆく人々の流れに身を任せて
みんな生きていた
呼吸の音が聴こえてくる
 
驚くほど孤独じゃなかった
 
思春期の苛立ちさえ
小鳥の囀りのようで
 
瞬きしたんだ
世界は既に救われている 


最愛のひと

あいしてたんだ。
だから、しあわせに、いきて。
 
流れる雲に
言葉を餞に
 
降り注ぐ雨が止まないから
君の頬を雫が伝うから
 
花模様に光る傘を贈ろう
君が大好きだったアマリリス模様の
 
あいしてたんだ。
しあわせをタイムカプセルにつめて。
 
あの日に還ろう。 


ピクニックデート

君が頑張るから
明日も頑張ろうって思うんだよ
 
青空の下でピクニックにしよう
君が好きな
チェック柄のレジャーシート
君の好きな
Beatlesをポケットに忍ばせて
 
サンドイッチにめいっぱいの
「すき」を込めて
 
今夜もきっと
晴れるよね
 
ありがとうって
君が言うから
こちらこそって
咀嚼するんだ 


フィルムカメラ

明日なんて、来なければいいのに
指先同士を繋ぎ合わせて、
銀河向こうの約束を交わす
 
恋人繋ぎの永遠を
フィルムに閉じ込められたら
よかったのに 


フィルムカメラ Side.B

寂しくないよ
 
雨上がりの空も
錆出した銅のコインも
 
君が笑ってくれたから
手を繋いで浜辺に行こう
 
フィルムカメラに世界を納めて
僕ら、永遠の恋をしよう 


永遠の果て

海を見に行こう
君と僕だけの逃避行
 
穏やかな秋風は
わずかに冬の気配を連れてくる
 
海岸沿いをふたり歩いたら
きっと僕らは無限大
 
暗い部屋に閉じこもっていた過去も
霧がかる深い森のかなしみも
ふたりで手を繋げば一瞬の幸福
それを永遠にして、僕らしあわせになろう 


永遠の果て Side.B

世界への幸せを
表現する手段は不明瞭
幸福なことは確実なのに
どうしようもなくじれったい
 
これは君に送るラブレター
 
歓喜と敬愛の渓谷で
君は笑って手を振った
 
小さな僕は楽しくなって
駆け出してしまうだろう
 
日の沈まぬ丘上の村
幼馴染みたいな君とふたり
永遠の切れ端を知る 


あとがき前に
何かが始まる予感がした。楽しくて華やかで煌びやかで、でもどこか虚しくて。何にも始まらない安寧に満ちた日常を廃棄して、始まらないかもしれない何かの微かな残り香を吸い込む。隣の境界線は今夜も超えられないだろうから。それでも手を伸ばして鱗粉を指先に、きらきら舞って。ぱられる・わーるど。
 


あとがき


 愛は時としてチープなものです。
 詩人は意外と素直で、その人のそのままを書いているように思われがちですが、実際はそうでもないのかなって思います。今回、ここに集めた詩はほとんど私の話ではありません。
 実在しない人を想って書く詩はどこか物語的で自己陶酔的です。
 楽しい虚構は正しくパラレルワールド。あり得たかもしれないいくつもの人生、の片鱗。
 それらを夢想する瞬間、私は私の生を実感します。実はね。
 とはいえ全部が全部嘘でもなかったりするから無限に楽しいですね。本当だったり、嘘だったり、ほんのり真実をまぶしてみたり、詩の紡ぎ方はそれだけでも飽きないものだなと日々実感します。
 伝わるかどうかより面白いかどうかで書いてしまうので、もしかしたら私は詩人ですらないかもしれませんね。でもだからこそ詩作は面白く、永遠に忘れずにいたい物事の一つです。
 あと、限りなく突き詰めて言葉にしたところで、次の瞬間には紛れもない嘘になってしまう感情たちがとても愛おしいです。
 今回はそんなパラレルワールドたちの言葉を集めました。いかがでしたでしょうか。
 少しでも楽しんでいただけたのなら何よりです。
 それでは、またいつかの虚像でお会いいたしましょう。


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