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診断メーカーのお題通り物語を書いてみた

ガラス瓶の中に想いを詰め込んだ。
慈しむように、そっと。
たったそれだけのことなのに、人は私を「狂ってる」「サイコパスだ」と言う。

何故だ?
数少ない友人との会話を思い出す。

「“想い”って好きになれるものと好きになれないものがあるよな」
「まあ、そうだな」
「なんだ、珍しく共感してるじゃねえか」
「俺もお前がまともなことを言いだしてびっくりしてるよ」
「お前も“想い”について悩んだりするのか?」
「ときどきね。なんか、同じ“想い”でも、すごく大切にしたい時と、急に手放したくなる時があったりしないか?」

彼は誰も聞きたがらない私の話を、多少諌めながらも聞いてくれる人だった。
私の話にこんな風に共感したり、詩的なことを言っているのは初めて見たのでいささか驚いた。
彼は言葉を続けた。

「昔あれほど大切だった“想い”も今になると忘れそうになるんだ」
「切ないよな」
「だから俺は最近、らしくねえことしてんだよ」
「なんだ?」
「“想い”を瓶に入れて取って置いてるんだ」
「その手があったか」

彼の提案に目から鱗が落ちる思いだった。

「“想い”を瓶に入れる為に整えなおす作業って自分でも気づきがあるし、きっと“想い”のためにもなっていると思うんだ」
「確かに、全て入れなくともカケラだけ入れて置けば懐かしむには十分だもんな」
「意外だな、お前は笑うかと思ってたよ」
「いや、結構気に入った。近いうちにいくつかやってみるよ」

あの日から私は大切にしたい“想い”ができると特別大切な部分を切り取って、ガラス瓶に入れている。
大抵、“想い”は信じられないという目で私を見るが、そんなことはどうでもいい。

『あんたの言う“想い”は、私が思うそれとは違うものだわ』

3人前の彼女の言葉が脳内でかすかに響く。
もちろん彼女も、懐かしめるように取ってある。瓶についていた当時の鮮烈な赤も、今では少し黒みがかかってきた。
時が経つと味が出るとはこういうことか。

そして今日も、ガラス瓶の中に“想い”を詰め込んだ。
慈しむように、そっと。
たったそれだけのことなのに、人は私を「狂ってる」「サイコパスだ」と言う。

何故だ?
謎は謎のままがいい。

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