見出し画像

【読書】民主主義の崩壊: 戦前イタリアからの教訓

戦前イタリア、ムッソリーニのファシスト政党による政権掌握を、既存民主的政治システムの崩壊の結果として、そこに至る過程を3フェーズで描き出したイタリア人政治科学者のPaolo Farnetiの論文。

要約

  • ファシスト政党やナチス党の政権掌握を、民主主義の崩壊という観点から描き出した論文の一つ。

  • イタリアの場合、既存政治社会の機能不全から始まり、ファシスト政党と組む以外の全うな選択肢がなくなり、結局ファシスト政党の台頭&権力掌握を許してしまうという3フェーズで民主主義が崩壊。

  • 民主主義とは脆弱なシステムで、その恩恵を享受する人が意識的に守ってあげないといけないということがわかった。




1.論文の紹介

論文のタイトルは「social conflict, parliamentary fragmentation, institutional shift, and rise of Fascism: Italy」で、著者はイタリア人政治科学者のPaolo Farneti(1936-1980)。同論文では主に、ファシスト政党台頭を可能とした民主主義の崩壊に焦点を当てて分析。

なお同論文はドイツ生まれのスペイン政治研究者Juan J. Linz(1926 - 2013)とアメリカ人政治学者Alfred Stepan(1936 - 2017)編集による「the breakdown of Democratic regimes」(1978年刊行)に掲載。

2.伊ファシスト政党台頭分析

国家の議会政治システムを、都市vs田舎、中央vs周辺、資本階級vs労働階級等の亀裂/cleavagesから構成される①市民社会/civil society、政党や支持団体等によって構成される②政治社会/political society、権力や政府を構成する③制度/institutional setから構成されると分業システムと見るFarneti。

①市民社会の各グループや階層が抱える不満や怒り、③制度的な矛盾や抑圧等から生じ得る社会的な緊張/tensions衝突/conflictsを、②政治社会が議会制度を通じて、バランスよく妥協点を見いだし、ある意味社会のガス抜きをする。政治社会が適切かつ健全に機能することが国家にとって大事という。

しかし、戦前イタリアではその議会政治が崩壊。それはファシスト政党が台頭したことが原因ではない。むしろそれは結果だという。その崩壊の過程は3つのフェーズがある。

  1. 政治社会の自立喪失/loss of autonomy: loss of power, fragmentation等のいわば機能不全

  2. まともな代替案が失くなる/ exhaustion of legitimate political alternatives: 既存政党らが手詰まり状態/stalemateに陥ること

  3. 権力掌握/takeover of power:  ファシスト政党による国家掌握

フェーズ1は、戦間期の様々な社会不安に対する解を出せない既存政党らへの不満等が、社会に亀裂や分断をもたらし、反左翼/社会主義という切り口からファシスト政党を含む極右政党の議会入りを許してしまう。すなわち既存の②政治社会が機能不全に陥る段階。

フェーズ2は、自由主義的政治家で戦前最後の民主的首相のジョヴァンニ・ジョリッティ/Giovanni Giolittiによる政権舵取りの失敗。当時過度のインフレに悩まされていたイタリア、高まる社会の不満に乗じてファシスト政党が民兵組織による直接行動を駆使して影響力を高めて行く。ジョリッテは既存政党らと協力してファシズムの暴力行為に真っ向から立ち向かうでもなく、むしろ反社会主義という形でファシズムと手を組む/electral cooptionを選んでしまう(彼はムッソリーニを御せると思っていた)。

ジョヴァンニ・ジョリッティ

そしてフェーズ3では、民主的政治システムに浸透したファシスト政党、民兵組織による暴力、そして1922年のローマ進軍(無血クーデター)へと繋がっていく。

ベニート・ムッソリーニ

3.感想

難しいことが色々と述べられている専門書だが、要は空前の経済社会不安・動乱の戦間期、リベラルや社会主義といった既存政党が、社会のあちこちで鬱積する不満を受け止められなくなりファシズムの台頭を許してしまう、既存政党が一致団結してファシスト政党を止めればよかったがそれも叶わず、右派が手を組んでしまい、ファシスト政党に国家権力を簒奪されてしまったというストーリー。

以前読んだ民主主義の分析本の元ネタとも言える研究。

興味深いのはファシスト政党の議席。ムッソリーニによるローマ進軍以前に実施された1921年のイタリア総選挙ではファシスト政党はたったの35票だった。それでも何だかんだで国政を掌握してしてしまうのだから、民主主義というシステムはそこにあって当然な空気のような存在と捉えることがいかに間違っているかがわかる。

民主主義は、その恩恵を享受する国民が守ってあげないといけないシステムということ。これは、民主主義とよく抱き合わせで考えられる自由主義の分析でフランシス・フクヤマも同様の発言をしている。

※フランシス・フクヤマの本は以下

最後に一言

万人におすすめとは言いがたい専門書。政治学や民主主義に興味ある人にとっては、手に取ったら面白いはず。

本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。


併せて、他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


この記事が参加している募集

推薦図書

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?