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欧州: EU外国政府補助金規則/FSR

2024年3月27日、ブルガリアの鉄道事業政府調達に名乗りを上げていた中国鉄道会社が、先般EUにて採択された外国補助規則/FSRを背景に手を引いたとのニュースが流れた。いい機会なのでFSRについて概要をサクッと整理。

記事要約

  • EU域内では、健全な競争に基づいた域内単一市場を目指して、EU加盟国政府による特定企業に対する政府援助は原則禁止。

  • 外国企業が外国政府の援助からの支援を受けている可能性も指摘される中、公正な競争条件/Level playing fieldの担保が課題。

  • 今後、EU域内での大規模な合併や公共調達への入札の際には、対象企業は欧州委員会への事前通知&承認が必須。




1. 外国政府補助とは?

欧州域内では、健全な競争に基づいた域内単一市場を目指して、EU加盟国政府による特定企業に対する政府援助/subsidies(例:資金提供、税制優遇などなど)は原則禁止となっている(欧州委員会の承認に基づき例外措置として認められるケースもある)。

※政府補助を巡るEUルールの概要は以下から

しかしグローバル化した現代において、外国企業がEU域内市場に乗り込み企業活動に従事する場面も増えており、その外国企業が外国政府の援助からの支援を受けている可能性も指摘される中、公正な競争条件/Level playing fieldの担保が課題となっている。

外国企業による域内企業の買収や株式取得なども含め、海外からの域内投資を地域別にグラフ化したのが下記(あくまで数)で、アメリカやイギリス、スイスに次いで、中国や日本が上位に食い込んでいる。

Number of foreign investment deals in Europe by country of origin, 30 per cent threshold
(出典:欧州委員会の影響アセス報告書, p. 16)

そして下記の図が、海外企業による域内企業の株式買収数。

Number of foreign acquisitions of equity holdings in European companies
(出典:欧州委員会の影響アセス報告書, p. 16)

このうちの何割が、外国政府により援助を受けた外国企業なのかは不明だが、世界的に政府による特定企業援助や支援というのは増加傾向にあることがわかっている。その図が以下。企業援助&支援の数としてはアメリカがダントツに多く、次いでロシア、中国、UKの順となるが、援助額となると中国がダントツで次いでロシア、アメリカ、UKとなる。

Number of newly implemented subsidy measures (worldwide) per year
(出典:欧州委員会の影響アセス報告書, p. 25)

どんな方式や形の政府補助が多いのか?以下の図を見ると、政府貸付や資金助成、税制優遇、外国市場進出に対する資金補助、信用保証などが典型的なモノとなっている。

Subsidy measures in place by type according to GTA
(出典:欧州委員会の影響アセス報告書, p. 28)

2. EU外国政府補助金規則/FSR概要

2021年5月に欧州委員会が法案を公表し、コデシの末、2022年7月に暫定合意、正式採択などを経て、2023年7月に適用開始となったEU外国補助金規則/Foreign Subsidies Regulation (FSR)。

目的は、域外国政府の補助金を受けた企業の活動によって生じるEU域内市場での歪曲的な効果を是正することで、そのための対企業活動審査を実施するための欧州委員会の権限や枠組みを設定。

結果、EU域内での大規模な合併公共調達への入札の際には、対象企業は欧州委員会への事前通知&承認が必須となる。対象となる案件は下記

  • 合併・買収:当事者となる企業の一方がEU域内で5億ユーロ以上の売上高があり、5,000万ユーロ超の外国政府からの資金的貢献を受けている場合

  • 公共調達:概算額が2億5千万ユーロ以上の公共調達に入札する企業が域外国政府による資金的貢献を受けている場合

欧州委員会への通達内容は、EU非加盟国による下記のような資金的貢献などが主で、各種フォーマットやその他各種詳細は法規に記載。

  • 資本注入、補助金・交付金、融資・融資保証、経済的インセンティブの付与、営業損失の相殺、公的機関が課した財務的負担の補償、債務免除、DES・リスケ等の資金または債務の移転

  • 免税措置等の本来得るべき歳入の放棄または十分な対価を伴わない特別なもしくは排他的な権利の付与

  • 物品・サービスの提供または購入

なお、審査の結果、外国政府の補助金によるEU域内市場の歪曲効果が、その投資のもたらす経済効果を上回ると判断する場合、合併あるいは公共調達への入札を不承認としたり、救済措置を課すことができる。また、事前通知義務を怠った場合には、罰金を科すこともできる

3. コメント

中国鉄道会社が手を引いたブルガリア鉄道事業政府調達がまさに好例で、今後域内産業の育成に役立ちそうな法規となっている。日本企業にも影響を与えかねないとの情報も散見される。

それ以上に気になるのが、中国産EVのEU市場進出。法規は違うが、中国産格安EVの中国政府の関与を疑っており、欧州委員会が現在調査中である。いずれにせよ今後の動きを要注視。

今回も、JETROさんや法律事務所さんがうまく規制内容をまとめてくださっており、大変感謝しつつ、私は各種レポートをつまみ食いする形で本稿をまとめた。


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