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妖精王の憂鬱

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おてんば妖精と妖精王の小さな冒険。弱き者たちの、勇気の話。【完結済】
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妖精王の憂鬱【縦書き版】

妖精王の憂鬱【縦書き版】

こんにちはギーの代筆者ナマケモノです。

さっそくですが、かねてよりベラゴアルドクロニクルの「縦書き版」を制作していまして、その第二弾となります。これからも各物語を順次リリースしていきたいとおもいます。

とはいえ、縦書きをnoteさんで公開するのは不可能みたいなので、ファイルのアップロードという形になります。前回親切な方々から、しっかり読めたというご報告を頂いているので、少し自信がありますが、そ

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妖精王の憂鬱 −その1

妖精王の憂鬱 −その1

 

 「こっち?」

 「そっちじゃない、こっち」

 「こっち?」

 「だから、そっちではない。こっちだって!」

 「もーっ、こっちってどっち!」

 草むら影から小さな声が聞こえる。人間ならば耳を澄ませていても、到底、聞き取れないほどの小さな声。そんな声がする。一面にスズナがひしめき合い、争うように逞しく自生するハコベの隅、さらにその葉の裏の影。そんな場所で、小さな声がする。

 ハース

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妖精王の憂鬱  −その2

妖精王の憂鬱 −その2

 「へぇ、それじゃあ、ファフたちはそのハイドランドって所を目指してんだ」フリセラは未だにうっとりとした声で言う。もう何度も「可愛い」を繰り返している。

 「で、ハイドランドってどこ?」彼女は団長に訊く。団長は肩をすくめ首をかしげる。

 「でも、わたしたちはタミナに行くんだよ?知ってる?自由都市タミナ」

 「知らなぁい」ファフニンは感心なさげにのんびりと返事をする。

 「じゃあ、その小っちゃ

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妖精王の憂鬱 −その3

妖精王の憂鬱 −その3

 金熊亭の夕げは賑やかしく過ぎていった。忙しなく動き回る給仕の間を縫うように、占い婆が各テーブルに取りつき、占いを勧めたり、守りの咒具(まじないぐ)を売りつけていた。

 大方の出し物を終えたフリセラが、盛台の縁にちょこりと座るファフニンの隣に座る。

 「駄目だね、ハイドランドに向かう冒険者なんてひとりもいないよ」フリセラがため息を吐く。妖精は先ほど与えたハチミツに夢中で、あまり聞いていない様子

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妖精王の憂鬱 −その4

妖精王の憂鬱 −その4

 男は腰のランタンを灯し、積まれていた木箱の上に妖精を寝かせる。

 「死んじまったわけでもないよな。妖精は死んじまったら煙みてぇに消えちまうっていうしな」

 言葉からして、男はファフにとどめを刺す気はなさそうだ。気を失う妖精の小さな鞄の中で、黄玉の王は黙っている。下手に口を聞くのは得策とはいえないからだ。

 そうして男を観察する。長マントに隠れて物々しい装備が見える。黒い胸当てに獣脂を塗り込

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妖精王の憂鬱 −その5

妖精王の憂鬱 −その5

 ストライダは、海辺から町に繫がる下水路の暗渠に入り込んでいる。

 「沼地だの、小鬼の穴ばかりの生活が嫌で街に入ったが、結局こんなくせぇところに潜り込んじまって…、」忌々しげに言う。

 「おまえは、あまり仕事熱心なほうではないようだな。」男のポケットの中で黄玉が喋る。

 「ん、まあな、ストライダつっても、色々だ」物語に出てくるような奴らばかりでもねぇよ。男はぶっきらぼうに言う。

 「…して

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妖精王の憂鬱 −その6

妖精王の憂鬱 −その6

 露天で売られるのも悪くはない。ルーアン王は、早くもそう思いはじめている。

 季節はうららかな金鷹、柔らかな陽差しの昼下がり。それだけでもすべてが揃っているようにも感じる。数千年の時を経てきた上で、こんなひと時が少しくらいあっても良いようにも感じる。

 問題は、この商人に我の言葉が聞こえないという所にある。無論、隣に並べられている小さな宝石たちとも会話が出来ない。見ろ、右隣のやつなんて、石英の

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妖精王の憂鬱 −その7

妖精王の憂鬱 −その7

 フリセラは薄暗い路地を抜け、タミナの民兵に賄賂を渡し、水路沿いの石段を下ると、石橋の下に、ぼろ屋根が乱立しているのがみえる。

 貧民街の通りを歩くと、すぐに人々との違いに気がつく。大きな町であればあるほどに貧富の差が激しくなる。団長がそう言っていたことを思い出す。

 通りの人々が嫌な目つきで彼女を見る。男たちがニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。よそ者の女がかなり珍しいようだ。

 通りに

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妖精王の憂鬱 −その8

妖精王の憂鬱 −その8

 「おい、遅くないか?遅いよな。」あまりにも遅いじゃないか。ウンナーナは陽が落ちてからもう、かれこれ半刻は同じ言葉を繰り返している。その側で、言葉にはしないがドンムゴも、その倍は同じことを考えている。

 二人は用もないのに客入りを確認したり、馬に飼い葉を上げたりして、金熊亭の入り口にあたりをうろうろしている。

 一方、婆は店の一番奥のテーブルに陣取り、ぴくりとも動かない。商売道具もしまい込み、

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妖精王の憂鬱 −終話

妖精王の憂鬱 −終話

 「それではずいぶん話が散らかったようなので、我の話は手短にいこうではないか」妖精に抱きしめられたルーアン王が口を開く。

 「ファフニンよ。我が従者よ」

 「んー。なぁに? 王さま」ファフニンが王をほおずりしながら言う。いささか調子は狂うがな。ルーアンはそう感じながらも話を続ける。

 「お前は、妖精の国に帰るつもりはないのだろう?」

 「もう王さま帰りたいの?」ほおずりの手が止まる。

 

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