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ヴァンピールの娘たち

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ヴァンピールの娘たち Ⅰ-6

ヴァンピールの娘たち Ⅰ-6



Ⅰ-6. 納戸に南京錠がかけられ、庭にアライグマが降臨する。そして自警団による攻撃の狼煙が上がる。やがて龍の甕から龍が飛び立つ

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 いつのまにか納戸の扉に南京錠がかけられていた。それではそこが父と母の居室になったかといえばそうではなく、二人の寝起きする部屋は、居間の東側に隣接する八畳間で、うなぎの寝床のように細長いと思われる納戸と壁一枚で仕切られていた。ちなみに姉妹は、居間の南側に続く

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ヴァンピールの娘たち Ⅰ-5

ヴァンピールの娘たち Ⅰ-5

Ⅰ-5.姉妹はメダカをもらい受け、庭の二つの大甕に放つ。そしてムゥはきたる自警団の襲来に備える

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 草花の一掃された庭に腐葉土と苦土石灰が大量に投入され、これを父が先の尖ったシャベルで耕して四本の畝を作り、そこへ女たちがエダマメ、ラッカセイ、キュウリ、トマト、そしてトウモロコシの種を植えた。ほかにもアサガオ、ヒマワリ、オシロイバナ、マリーゴールド、ゴーヤなどの種が五月の連休までに庭の方々に

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ヴァンピールの娘たち Ⅰ-4

ヴァンピールの娘たち Ⅰ-4


Ⅰ-4. 束の間の一所定住生活。都下の家の庭、あるいは耕やされる黄金郷。そして黄金郷のエメラルドは栞となって書棚にしまわれる

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 姉のムゥが小学四年生、妹のクゥが小学三年生になんなんとする折、一家は東京に移住した。東京は初めてだった。東京、と一口にいっても、もちろん広い。彼らの移住先は二十三区外の、いわゆる都下に属していて、いまはどうでも、往時は住宅地の面積と生産緑地のそれとが半々といっ

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ヴァンピールの娘たち Ⅰ-3

ヴァンピールの娘たち Ⅰ-3

Ⅰ-3.ムゥとクゥの妄想サバイバル術、あるいは姉妹に施される英才教育について。そして姉妹は図書館にて無言で騒ぐ

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 幼稚園バスのドアが開くと、
「ただいまよりムゥ艦長、およびクゥ副艦長、任務につくでありまっす!」
 そういって姉妹は、出迎えの副園長夫人および運転士の朝の挨拶に敬礼でもって応える。ステップを上がって乗り込むと、姉は周囲を睥睨し、すでになかで待機している十二名の園児らは、皆直立

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ヴァンピールの娘たち Ⅰ-2

ヴァンピールの娘たち Ⅰ-2


Ⅰ-2. 父と母の秘密を知ろうと姉妹は夜更かしをする。とある吹雪の真夜中に姉妹は甲冑姿の両親を認め、妹は生首と対面するが、後年姉によってその事実を否定される

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 姉は妹の「トリセツ」をよく心得ている。自分からはいいにくいこと、しにくいことを実現するのに、妹の前でふと思いついたというテイで独りごちさえすれば、希望は必ずといっていいほど叶えられた。たとえばこんなふうに。
「ところでチチとハハ

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ヴァンピールの娘たちⅠ-1

ヴァンピールの娘たちⅠ-1

Ⅰ-1. 人は生まれながらに亡命者である

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 娘たち二人に対する二親の教えとは、「人は生まれながらにエグザイルである」というものだった。
「エグザイル」と文字通りにいわれた姉妹は、かなり大きな勘違いをしばらくは生きることになる。彼らが幼少の頃、歌って踊れる同名の人気男性グループを、テレビで見ない日はなかった。だから姉妹は、歌って踊れることが、ヒト生まれながらの本性と心得たものだった。

 

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