マガジンのカバー画像

何度も読み返したい素敵な文章の数々 vol.2

80
運営しているクリエイター

2017年11月の記事一覧

あたたかさの持続、それはこだわりが生み出した。

あたたかさの持続、それはこだわりが生み出した。

どうぞ、と笑顔で手渡されたのは店の名前のスタンプが押されたカイロ。ありがとうございますと受け取ると、もうすでに温まっていた。待てよこのカイロ、私たちが帰る時間に間に合うように準備されていたのか。

先日自由が丘にあるalso Soup Stockというお店にお邪魔した。もともとSoup Stock Tokyoのファンだった私にとって最高に魅力的な場所だったのだ。もちろんご飯が美味しかったのは言うま

もっとみる
君はいつも壁がある、だから僕は好きなんだ。

君はいつも壁がある、だから僕は好きなんだ。

飲み終わったアイスコーヒーの氷をゴロゴロとストローで転がす。それは時を止める魔法である。

「久しぶり」

彼は笑顔でいつもこう言った。先週も会ったじゃん、とツッコむこともあったけど、会う頻度は大半がそれに等しかった。だから会うと話すことはたくさんあって、その度に必ずお互いの近況報告をした。こなす、と言ったほうが近いかもしれない。彼とする近況報告はいつもどこか冷たくて、なんとなくの距離があった。近

もっとみる
Hの字で寝る

Hの字で寝る

お産のあと、まなみと樹(いつき)さんは実家に里帰りしていた。
そのころのぼくは泊りがけの撮影が続いたり、出産報告のハガキづくりや、メールや、市役所に出す書類の準備やらで妙に忙しかったので、まなみの家族にはとても助けてもらっていた。

まなみの家族構成は「父、母、まなみ、弟」で、みんなろう者で日本手話を第一言語としている。このような家族構成を「デフファミリー」と言う。

ぼくのほうは「父(聴)、母(

もっとみる
慣れではなく、麻痺だった。人見知りなわたしの処世術

慣れではなく、麻痺だった。人見知りなわたしの処世術

人見知りは何かとドキドキして大変だ。生きていれば初めて会う人を避けるのは難しいし、人間社会は厄介だなと思う。

物心ついた頃から長いこと人見知りに悩んでいた。でも悩んでも人と会うのは避けられないし、毎回ドキドキして心臓が壊れそうになるのもつらい。だからそんな人見知りな自分と、ある方法で折り合いをつけることにした。

それは「たくさんの人と会いまくって慣れる」という、ショック療法みたいな方法だった。

もっとみる