手法をアレンジするときには

先日、ある企業様とのミーティングで、バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard, BSC)の考え方に沿って、同社様に合った経営指標をどのように設定すべきかがテーマになりました。

BSCについては、以前も取り上げたことがあります。自社にとってのKPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)を設定する上で、拠り所となる切り口を4つの視点で提示してくれているものです。

ウィキペディアでは、BSCについて次のように説明されています(一部抜粋)。

~~この概念は、従来の財務的指標中心の業績管理手法の欠点を補うものであり、戦略・ビジョンを4つの視点(財務の視点・顧客の視点・業務プロセスの視点・学習と成長の視点)で分類し、その企業の持つ戦略やビジョンと連鎖された財務的指標、及び非財務的指標を設定する必要がある。

財務の視点:株主や従業員などの利害関係者の期待にこたえるため、企業業績として財務的に成功するためにどのように行動すべきかの指標を設定する。

顧客の視点:企業のビジョンを達成するために、顧客に対してどのように行動すべきかの指標を設定する。

業務プロセスの視点:財務的目標の達成や顧客満足度を向上させるために、優れた業務プロセスを構築するための指標を設定する。

学習と成長の視点:企業のビジョンを達成するために組織や個人として、どのように変化(改善)し能力向上を図るかの指標を設定する。~~

冒頭の企業様では、次のような問いかけがありました。
「4つのうち、特定の指標を設定せずに、他の3つだけを設定するという運用方法はよいか。自社ではこれから新たにBSCを導入しようとしているが、「顧客の視点」については、設定できるイメージがもてない。自社は極めて受注生産型のビジネスモデルで、盤石な主要顧客からの指示待ち注文に基づいて成り立っている。よって、顧客に対して働きかけることのできる要素があまりなく、設定したとしても自社の意志とは関係ない受け身的な指標になりそう。ひとまず他の3つの視点を設定して運用開始するのもありかもしれないと思うのだが。」

話としては分かりますが、私の回答は「いいえ、顧客の視点についても設定するべき」でした。

BSCであれば、4つの項目が経営に必要な要素としてバランスしているからこそ、「バランスト」スコアカードのはずです。自社流にアレンジして3つにしてしまうと、「バランスト」ではなくなってしまうでしょう。

各視点で3つずつ指標を決めていくと合計12個(3×4)にもなる、そこまで指標を追いきれないので「とにかく今年はこの項目これだけ」として1つずつ・計4個に絞る、はありだと思います。しかし、視点自体を絞り込んで3つにしてしまうのは、当初の設計思想を壊してしまい、意味のないものにしてしまうでしょう。

同社様には、次のように問いかけてみました。
「これから先、長期的にも主要顧客の受注を待つことに依存することでよいか。それが、今後の外部環境でも成立し、自社の戦略にも合っているなら、それはありだと思うが。」

すると、「短期的にはよいが、長期的に安定した受注が続くとは限らない。自社主導での新しい提供サービスを開拓できるための準備は必要。」という回答でした。であれば、例えば新サービスのローンチ件数、そこまで至らずとも新サービスの企画件数、あるいは少額でもいいので新規顧客開拓件数など、拠り所となるKPIは設定できるのではないかという話になりました。

一般的に使われている方法論を自己流にアレンジして使うのは、場合によってはもちろんありです。その上で、自分のしようとしているアレンジが、その方法論のそもそもの本質を外してしまうことにならないか、立ち止まってみる必要があります。

<まとめ>
自己流のアレンジが、型の本質自体を外すことになっていないか考える。


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