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三百字の小説×二十本

 二十五才~二十八才の頃に書いた、たった三百字の小説たち。
 別ペンネームの小説サイトで公開していたもの。
 今だったら書けない(書かない)ような言葉がいっぱい詰まっているので、こちらで公開。
 ★の後ろがタイトルです。


  ★夢の扉

 一度でもその扉を叩いた者は、誰もが必ず己の夢を叶える。扉は東の国の魔女ガラの屋敷にあるという。

 ちんけな片田舎で燻るジャン・クラウスは扉の噂を知って旅立った。僕は大金持ちになろう……。
 雨の日も風の日も歩いた。歩きに歩いた。

 一年後、扉の前に着いた。
 ノックを一回――バーン! 凄まじい音がして扉が開き、部屋の中に吸い込まれた。
 目の前には見知らぬ青年がいた。
「やった!」
「えっ?」
「今度は君だ。誰かがこの扉を叩くまでね」
 閉まる扉の陰に青年が消えた。扉を押したり引いたりしたが開かない。
「どういうことだ?!」
「五年ぶりの空! 自由だ! 夢が叶った!」
 歓喜の声が聞こえた。JKははっとした。

 一度でも扉を叩いた者は――。


  ★君の奴隷

 その日、亜姫は久し振りのフリーだった。

「伊藤亜姫だ!」
 商店街を抜けた街路で上がった、ばかでかい叫び声。げらげら笑いながら年上らしい男たち――大学生?――が駆け寄ってくる。
 僕は亜姫を見た。亜姫は口元だけで笑っていたが、目が笑っていなかった。
「郁郎、先に帰りな」
 不機嫌な声で亜姫が云った。それは提案でも助言でもなかった。命令だった。僕は何度か爪先で地面を蹴って亜姫の気が変わるのを待ってみたけど、亜姫は「早く」と云っただけだった。僕は後ろを何度も振り返りながらその場を後にした。頭をそびやかして立っている亜姫が、僕は心配で仕方がない。

「初めて生で見たよ!」

 少し離れた所から眺めた僕の恋人は、確かにアイドルだった。


  ★鈍行列車

 あの頃、私たちは旅をしていた。

 五枚綴りで一枚の青春18切符を三人で分け合い、西へ向かっていた。沢野はしきりに頭を振り上げて伸びすぎた前髪を目の前から消そうとしていた。
「あと少しで京都だぞ」
 川嶋は半笑いだ。
 私は「古寺百名鑑」に夢中なふりをしながら二人の会話に耳を澄ませていた。
「今日はホテルに泊まろうよ」
 沢野が甘ったれた声で云う。
「馳に云えって」
 川嶋が無責任なことを云った。
「ホテルだって? バカなことを」
 私が云うと沢野は悲しげな顔になった。
「学生って貧しいな」
 沢野が云った。
「高校生だからな」
 川嶋は相変わらず半笑いだ。
 車窓の外を流れ去る見知らぬ街の灯り。地を這う流星たち。

 光はやがて去り、私は年を取った。


  ★個人授業

「そっと掴むの。強くしても、弱くしてもいけない」
 青白い炎を僕の手に移して、ガーベラは僕の目を見て笑った。
「……あぁ、上手ね」
 アルトの深い声が耳を揺らすのがくすぐったい。僕の手の中で熱を持たない冷たい炎が踊っている。ピシ、ピシ。比重の軽い金属同士を打ち合わせるような音が鳴る。
 薄紫の瞳が僕を見ている。ぼうっとしながら炎を掌の上で転がす。
「ピューロ、気を逸らしちゃだめよ」
 ガーベラが忠告する。だけど彼女の息が僕の横っ面にかかる……。
「僕、あなたの――」
「えっ?」
「あなたの授業がいつも、楽しみです。とても」
 嘘じゃなかった。真っ白な髪を揺らしながらガーベラは笑い、少ししてから静かに云った。

「有り難う」


  ★衝撃のレッド

 大船でマクロと遊んでいた時のこと。
 彼の携帯が鳴った。マクロ――本名は真黒文彦――が電話に出る。
「真黒です。えっ、殺しですか」
 通りすがりのサラリーマンが、ぎょっとした顔で振り返った。
 何を隠そう、彼は大学生にして探偵なのだ。それも殺人事件専門の……。
 電話を切った後で、彼が事件の内容を教えてくれた。
 戸塚市内で一人暮らしの女子大生が何者かに殺害された。彼女は腹を包丁で刺されて失血死したが、死ぬ前に己の血でフローリングの床に「10」と書いていた。
「ダイイングメッセージ?」
「たぶんね……」

 帰りの電車で藤沢を通過した時、彼の顔がぱっと輝いた。
「|と○か!」

 数日後、神奈川県警に逮捕された男の名字は「井丸」だった。


  ★雨だらり

 外に出ると雨が降っていた。
 下りたばかりの階段を昇って、事務所の傘立ての中で縮こまってる置き傘を取り、また階段を下りて外へ出た。
 電車もバスもじめじめしていて嫌だった。

 お風呂から上がると新から電話。
「俺だよ」
 酔っている。
「何の用?」
 私たちは別れた。そんなに前じゃない。
 先月の二十日に別れた。
「アラタ。私もう行かないからね」
 べろべろに酔っぱらい、私が迎えに行くまで電話をかけてくる新。私は彼の弱さや自分本位のわがままに疲れ、これ以上自分の生活を蝕まれたくなくて新と別れた。
「俺、どんな様子か知ってるのか」
「千紗から聞いた」
 新は毎晩居酒屋をはしごしては潰れているらしい。勝手にすればいい。

「私は行かない」


  ★謎の言葉

 もしもし。てっちゃん、聞いてや。おれやけど。こないだ職場でおもしれーことあってんな。おれ家で夜に漫画描いとるやんか。朝ごっつぅ眠うてな。ほんで東京まで二時間かかるやんか。めちゃ辛い。そしたらよー、一昨日とうとう意識なくなってん。十分くらいやってんけど。ふぅーっと意識が遠のいて、次にハッとするまでの記憶があらへんねん。それでよ。寝てっ時にいらったエクセルのファイル見て、おれぁ、まーたまげたで。
 「たBSやがて」て書いてあんねん。
 そこまで普通の設計書やねんで。突然「たBSやがて」ゆわれてもな!
 よく〆切間際の漫画家が手の指を六本描いたりするゆうやろ。まさか我が身に起こるとは、よぅ思わんかったでー!


  ★彼女へのディスタンス

 君はいつもくよくよと思い悩む。
 君は俺が吐く言葉にびくびくと怯えて、「私を責めないで」と云う。俺の素直な感情、正直な気持ちが君を泣かせる。
 君は云う。
「私の気持ちは、あなたには絶対分からない」
 そう云いながら、君が内心期待していることを俺は知っている。私を慰めて、優しくして、私を追いつめないで――と。
 君は夢を語る。薄氷の上を歩くような望み薄の夢を語る。君は焦っている。時間が無いと嘆く。年を取りすぎたと嘆く。
 仕事帰りでくたびれた顔の俺は、自由になる僅かな時間を君に捧げている自分の馬鹿げた振る舞いが無性に可笑しくなる。俺は君に気づかれないようにして笑う。

 俺はもう、夢の国に住む彼女との距離を縮めようとは思わない。


  ★生誕

 誰も知らないことだ。
 不吉な夕暮れに染まる建物の中で「それ」は生まれた。赤い手足。蒼白い顔色のそれ。水晶のような目は顔半分を占める程に大きい。鼻は低く、口には唇がない。頭部はつるつるとしていて、手触りが良さそうだ。
 僕はそれが生まれるところを見た。
「リリー」
 僕はかつて共に暮らした少女の名前を呼ぶ。リリー。あの夜、お前を見た最後の夜に現れた男は司祭なんかじゃなかった。忌まわしい錬金術師だったんだ。リリー。お前の銀髪はすっかり消え失せてしまった。

「素晴らしい機会を与えて下さったことに感謝します」
 リリー。不治の病はお前から去り、その代償に汚れた永遠を与えられた。詐欺師が僕の手に金貨を押しつける。

 目眩がする。


  ★新宿午前一時

 憂鬱なイントロダクションを8ビートでよっつ数えて、黒髪の少年は目眩く魅惑の世界へと単身ダイブする。銀色のピックとF社の愛機だけを抱き込んで、操って、乗り込んでゆく。光の速さで。冷えた空気を自分の熱で掻きわけて進む。後方に置き去りにされたものたちの悲鳴が、一台のアンプから奔流となって迸る。
 夜の街には諸手を挙げて歓声を送るファンの群れなどない。ただ、あちらこちらに佇む人影が、我知らず彼に無言のメッセージを送る。聞かせてくれ。もっと、もっと。さらに速く。深く。潜り込んでゆく。彼の両手が歌声の代わりに謳う。涙、怒り、秘めた恋の結末が鮮やかなメロディーになる。夜空震わすマイナーコード。かき鳴らすギター。


  ★三月七日

 白い紙を前にして、深呼吸を一つ。幻に思いを馳せる。
 ローズのほのかな香り。濃くはないそれが少し物足りない。好きな匂いはオレンジなどの柑橘系。床に置いたキャンドルの橙の炎の下には、青のイルカが二頭。ゼリーの海に溺れている。
 私はまだペンを走らせている。一度は胸の奥にしまい込んだ筈のペンを。なぜだろうか。
 涙を流した日も、笑い疲れた日も、何でもない日も。いつでも私はペンを握っていた。美しいものも、醜いものも、黒のインクに乗せれば霧散してしまう。それが嬉しくて、同時に哀しくもある。私はものを書くのが好きだ。全てを覚えながら忘れていられるから。

 真夜中。朝陽を怖れる夜の住人として、今夜も私は生きている。


  ★火を掴む

 明け方。田村からのメールを見た。
「魂の喜びて、なんやろ?」
 変わり者で通っている友人は、先月仕事を辞めて漫画家になった。夜勤明けの研修医にとって、田村は眩しい。

 文章を書いていたことがあった。遠い昔のことだ。燃える手で文字を綴った。夜も朝も昼も。
 今はもう、何も書いてはいない。
 小説を「天帝に捧げる果物」と記した偉大な先人のようには、俺はなれなかった。だから俺は炎を捨てた。唯一俺を生かす炎を、俺は自ら吹き消したのだ。
 だが俺は知っている。俺は人々の喜びのために医学を志したのでは毛頭無く、ただ安定を得るために魂を売ったのだと。

 かすかな予感がある。
 俺は、いつか再び炎をこの手に掴むだろう。そんな気がする。

 

  ★京橋駅前

「てっちゃん」
 田村は子供のように両手を上げて俺を呼んだ。
「バカ。目立つだろ」
「ひひ」
 嬉しそうに喉の奥を鳴らす。
「どしたん? 元気あらへんな」
「お前が元気過ぎるんだよ」
 白に近い金髪が風に揺れている。「茶髪禁止の現場多かってん。せやから、目一杯弾けよ思うて」という理由で脱色したらしい。ブリーチ剤650円也。
「すっかり自由業に染まっちまったな」
 羨ましいなどとは、口が裂けても云えない。
「てっちゃんは、おれとちゃうくて立派やから」
 少し苦さの混じった声で云う。
「お袋さん、まだ怒ってるのか」
「そらー怒るやろう」
 あっはっは。田村は高く笑う。その横顔に見え隠れする覚悟と誇りに目を奪われる。

「俺はお前が羨ましいよ」


  ★UENO

「今、平気?」
「うん」
「上野来ない?」
「遠いよ」
 私の最寄り駅は東海道線の辻堂駅だ。
「いいから。お願い」
 電話越しの声が震えている。
「上野で何があるの?」
「知り合いの刑事さんの結婚式」
「私他人じゃん。やだよ」
「そう云わずに。二次会だから、身内だけだし」
「余計だめじゃん!」
「実は……。探偵のバイトで依頼人だった方がいらしてて」
 はっとした。艶めかしい女性の声がマクロに話しかけている。「早く行きましょ」だの、「フミちゃん」だの。
「す、すみません。僕もう」
「ほら、早く!」
 雲行きが怪しくなってきた。
「たすけて、ゆっこちゃん」
「分かった」

 私が携帯と財布だけを手に持ち、夕暮れの街へ飛び出したのは云うまでもない。


  ★夏の迷子

 冷夏だ水不足だと言われていたが、七月の台風以降はダムも満ちて、スイカのうまい猛暑が続く。
 ふと、昨年暮れの出来事を思い出した。

 二階の天袋からホットカーペットを出していた時、何かがひらりと落ちてきた。一センチほどの、ごく薄い紙のようなもので、厚さは一ミリも無さそうだ。屈んで拾い上げようとした俺は、その正体に気づいて背筋を冷やした。
 トカゲだ。色こそ褪せているが、緑の皮膚には人工では造り得ない艶がある。小さな手足には指が揃っていた。尻尾もある。
「理緒。これ、夏に迷い込んだ奴だろ」
 この年の夏に、理緒が一階のピアノ室で「トカゲが入ってきた」と騒いでいたのだ。
 ペラリとした遺体を見て、理緒が言った。
「南無三」


  ★S区

 この街には猫が多い。
 噂には聞いていたが、越してきてびっくりした。仕事の行き帰りに転々と佇む猫々々。やっべー、たまんねー。
 そんなことを話していたら、呆れ顔の草に「ガンジは野良猫を可愛がっても、引き取りはしないだろ。やめた方がいいよ。そういうの」と云われた。
「餌はやってないぜ」
「そういう問題じゃなくてさ。猫に期待させるなってこと」
「何か喰えるかもって?」
「そう」
 俺は云い返す言葉もなく黙り込んだ。見かける猫全匹を救えないなら、一匹たりとも手を出すな。草が云っているのはそういうことだ。
「だったら、お前は何なんだよ」
 いつだって、誰かれ構わず助けようとするくせに。草は猫のような溜め息を吐いた。
「うるさい」


  ★1と2の遠さ

「絶望した!」
 会うなり、田村は大声で云った。
「もう打ち切り喰らったのか?」
「ちゃうくて! おぉ、この怒りどうしてくれよう、ほんま、なめとんのか!」
 田村の話を要約すると、こうだ。

 通販サイトで漫画を注文した。
 翌日、住所の301号室を302号室と書いてしまったことに気づくも、既に発送済みで変更できない。
 営業所に電話して正しい住所を伝えたが、配達時間を過ぎても届かない。
 ネットで配達状況を調べると、「不在のため持ち帰り」。

「一日中、家におったっちゅうねん! どんだけ阿呆なんや! 鳥!!」
 身悶えして嘆く。そもそも1と2を間違えた阿呆は誰だ?
「猫と飛脚は、お前と関わり合いにならなくて幸運だったな」
 鳥が可哀相だ。


  ★三、四、五

「気がついたのね」
 目が覚めると、瞼を赤く腫らした博士が僕を覗き込んでいた。
「びっくりした。突然倒れたのよ。あなた」
「夢を見ました」
「素晴らしいわ。どんな夢だった?」
「僕によく似た子がそばにいて、僕に云いました。『お前は三人目だろう? 僕は四人目だよ』と」
 すると博士は微笑んだ。
「違う。あなたは四人目よ。三人目は造っている途中で壊れたの」
 四人目。僕は三人目ですら無かったのか。とすれば、頬を涙で濡らして僕に掴みかかってきた「彼」は、自分を四人目だと思っているけれども、実際は五人目だという訳だ。遠くで鳴り響いているサイレンの音が、やけに煩い。
「なぜ、僕を造ったんです?」
 五人目の手が触れた、右の肩が熱い。 


  ★永別の冬

 彼女は独り言のように声を洩らす。
「おかしいでしょう。あんなに憎んでいた筈なのに、いざとなったら涙しか出なかった」
 彼女は泣きはらして赤くなった目を細めて笑ったが、僕は笑えなかった。六才で妹と引き離され、施設で育ったという彼女は、危うげでありながら逞しい。僕は、どうしようもなく彼女に惹かれていた。彼女は「一人前」だった。少なくとも、大学院まで進みながら、未だに就職の決まらない僕よりは。
 だから今朝、彼女が取り乱した様子で僕を訪ねた時には心底びっくりした。
 彼女の父親は末期の肺癌で、父親と暮らす妹から報せが届いた頃には、全てが終わろうとしていたのだそうだ。
 笑い声が泣き声に変わる。
「大丈夫。大丈夫だよ」


  ★いつか、どこかで

「逃げるのよ」
 闇の中で若い女の声を聞き、少女は驚きのあまり卒倒しかけた。
「わたし、かみさまにささげられるの」
「神ですって? 人を喰らう神などいるもんですか。さあ、いらっしゃい」
 女の手が少女の手を掴んで引っ張り上げる。
「不安だったけど、間に合って良かった」

 長い道のりの果てに、輝く空が少女を迎えた。
「もう大丈夫」
 手が離される。女の右手の甲に魚の形の痣を見たのを最後に、少女の記憶は途絶えている。

 十年ほどが過ぎた、ある日のこと。彼女は焼けた鍋で火傷を負い、病院で治療を受けた。
 数日後、包帯を解いた医者が云った。
「不思議な形だね」
 右手に目を落とした彼女は声を上げて泣いた。

 そこには、いつか見た魚の痣があった。




  ★十数年後に書く、あとがき

 今読み返すと、「わー、漢字多いー」とか、「字数制限内にするために漢字を使ってないか?」とか、「この地の文で、その人物の視点から見ているのはおかしくないか?」とか、言いたいことは山ほどあるのですが、当時はこれでもがんばって書いていたので、ここで後悔……じゃない、公開させてもらいました。
 そのうち、こっそり非表示にするかも。
 エタってしまった長編小説は、「叉雷の鱗」というタイトルでした。
 話の流れも決まっていて、ラストシーンも書いてあって、なぜ完結まで頑張れないのかと小一時間。キャラクターはみんな大好きだったんだけど、今思えば、一人称でいいのに三人称にしていたりと、無理していた感がだいぶあります。
 これから書く小説は、エタらないように工夫して書こうと思っています。

 他のノートでちらっと書きましたが、二次創作の小説を短い期間にいっぱい書いていました。それで脳が疲れてしまったのか、なんなのか、今は手を動かして、ラクガキや漫画を描きたい! という気持ちが強いです。たぶん、書きすぎたんだと思う。二次は楽しいし、反応もたくさんもらえたけれど、やっぱり自分の話を書きたくなった。
 思うところがあって、二次の方から、こちらへのリンクは貼っていません。まったくのゼロから始めたかったので。

 また、小説を書きたいなと思っている。というか、もう書き始めてはいる。まだまだ、ちゃんとした形にはなっていないけれど。


 ここから、いらん話を少しします。
 十代の頃から、絵や文をかいていましたが、数年おきにブランクがあったりして、必ずしもずっと続けていたわけではありませんでした。
 でも、今この年(三十九)になって、それでもまだなにかをかきたいという気持ちが自分の中にこんなにもあることに、わたし自身がびっくりしている。
 今、なにかをかいている時の気持ちは、焦りながらプロを目指していた頃とは全然ちがう。
 ようやく、焦らず、丁寧にかけるようになってきました。
 「あなたにプロは無理です」と言ってくれた編集者さんや、「人に伝わらなければ、インクの染みと同じ」と言ってくれた編集者さんには、とても感謝しています。
 ひとつの夢をあきらめることで、自分には無理だと思っていた夢を五つも(=恋愛、結婚、妊娠、出産、子育て)叶えることができた。
 届かなかった夢に懸命に向き合った日々は無駄じゃなかったと、今は、はっきり言える。
 かいていてよかったです。
 これからもかいてゆくと思います。
 本当にかきたい人は、どんな状況でもかくし、どれだけ中断していても、ひとたび再開してしまえば、以前と同じような情熱を持ってかける。
 そういうことが、実感としてわかるようになった。
 いつでもやめられるし、やめても誰からも責められない。
 アマチュアでいることって、実はすごく贅沢なことだということもわかってきました。
 夫からよく言われるのが、わたしは「アーティストであって、お金を稼ぐのには向いていない」。(アートと言えるようなものはかいてないけど、夫の中では、わたしはアーティストらしいです)
 プロになりたかったけれど、なれなかった人間だからこそ、かけるものがあるような気がしている。
 これから、どんな生き方をすることになっても、かき続けてゆこうと思う。
 なんでって……。

 かくことそのものが、生きているうちで、一番楽しいことだからー!

 なんだか、まとまりのない文を書いてしまったなあー。



  ★補足

「★1と2の遠さ」の鳥は、今はなきペリ○ン便のことです。これを書いた後に廃止になりました。

 このノートの見出しの画像は、「みんなのフォトギャラリー」から、konohanokoさんの画像をお借りしました。とってもきれいだったので。

今後の活動資金として、たいせつに使わせていただきます。 例:本を買う、画材を買う、映画を見るなど