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長期経営計画のすすめ Ⅰ.方針_4.スケジュールを決める



①いつ社内外へ発表するのか?

長期経営計画においては、どこかのタイミングで社外や社内に発表することになり、この発表する時期から逆算でスケジュールを決めていくことになります。

まず社外に向けた発表をいつ行うか、特に上場企業で長期経営計画に携わる方は情報開示の観点からも気になるテーマの一つでしょう。事例からみていきましょう。ちょうど先日、2023年11月15日に株式会社デンソーが2030年や2035年に向けた長期経営計画を発表しました。

内容も大変参考になりましたが、今回のテーマは発表タイミングです。デンソーの決算日は3月31日であり、前年度の決算発表は2023年4月27日に行われています。また第二四半期決算発表は2023年10月31日に行われています。

少し話が外れますが、経営計画に類似すものに「統合報告書」があります。こちらは企業の財務と非財務の情報を統合し、企業の価値創造プロセスを説明した報告書です。上場企業を中心に作成・発表され、世界中に普及しています。デンソーの「統合報告書」は2023年9月29日に発表しています。

デンソーにおいては決算発表や統合報告書の発表とは別に長期経営計画を社外に発表していることがわかります。

もう1社事例をみてみましょう。西日本旅客鉄道株式会社は「JR西日本グループ長期ビジョン2032・中期経営計画2025」を2023年4月28日に発表しており、これは前年度の決算発表と同じ日に社外発表を行なっています。


私もこれまでの経験の中で、いつ発表するのが最適なのかを検討してきましたが、社外に向けては2つの事例からわかるように、決算発表と一緒に行うか、別に行うかのどちらかになると思います。

次に社内に向けた発表をいつ行うかについてです。改めて長期経営計画はそれ自体で完結するものではなく、長期経営計画から中期経営計画に展開し、単年度計画から予算策定、アクションプランと落とし込んでいきます。

4月1日に新年度が開始される企業の場合、アクションプランまでが4月1日までに完成していることが望ましく、スタートとなる長期経営計画自体は数ヶ月前に一定完成し、全社および関係者に発表されることになるでしょう。そう考えると、前年の11月くらいには長期経営計画が完成し、関係者には適宜社内発表されていき、3月31日に長期経営計画からアクションプランまで全て完成するスケジュールが適切だと考えます。

上記のことから改めて社外発表に戻ると、まず長期経営計画が一定完成した段階で発表したデンソーと、全てが完成して発表した西日本旅客鉄道ということになるのではと思われます。


②何ヶ月間でつくるのか?

次に長期経営計画の策定には何ヶ月間くらい必要なのか?ということについて記述していきます。企業規模や上場企業かどうか、初めて策定するのか、策定をリードできる人材がいるかどうかで、期間は変わってきます。

私のこれまでの経験から作成した「長期経営計画策定フレームワーク」を紹介します。こちらは未上場の中小・中堅企業で初めて策定するケースを想定しています。

長期経営計画策定フレームワーク

今回のテーマであるスケジュールの点においては、7月にプロジェクトを立ち上げ、約1ヶ月間かけて方針を決めていきます。その後、8月から企業戦略領域でファーストステージの検討を3ヶ月間実施します。一部並行してさせて9月から事業戦略領域でのファーストステージの検討を4ヶ月間実施します。年明け1月から企業戦略領域でセカンドステージの検討を2ヶ月半ほど実施し、2月から事業戦略領域でのセカンドステージの検討を1ヶ月間実施し、3月上旬を目処に完成させます。

9ヶ月間に渡る長期のプロジェクトになりますが、検討に検討を重ねるテーマであり、関係者は実務を抱えながら取り組みますので、時間が足りない状況になることがほとんどです。


③取り組みを進める方法は?

長期経営計画は経営者・経営幹部が中心となり策定していきます。重要なテーマであるビジョンやミッション、事業ポートフォリオや成長戦略などの企業戦略には決して答えはなく、多数決や先行事例をみて決めることでもありません。関係者の思いや意志がぶつかり合い、共感や納得しながら、時には経営者の強いリーダーシップで意思決定していきます。

そのような長期経営計画をスケジュール通りに進めていくには、プロジェクト全体や一つ一つの会議を強くリードする役割が重要です。Ⅰ.3で記述したアウトラインを常に意識し、上記のフレームワークを元に推進していきます。会議で意見を出してもらって、まとめる作業を繰り返すだけでは、意見が変わるたびに停滞し、前に進みません。この会議で何を決めるのか、そのための論点や選択肢は何か、事前に検討してもらうことは何か、意見を活発化するための叩き台となる資料の用意など、リードする役割によって、より良い長期経営計画を策定できるかが左右されます。

最後に具体的な検討サイクルや頻度について記述します。私自身、長期経営計画の策定においては、中小企業の社長というポジション、大企業の経営企画のポジション、コンサルタントとして支援するポジションを経験してきました。それらの経験から週に1回、60分-90分間の会議を繰り返す方法が、日常的に忙しい経営者や経営幹部を拘束することや、事前検討して会議に臨んでもらうことを考えると適正かと思います。また、より深い議論が必要なタイミングでは丸1日間や1泊2日等の合宿を開催し、集中した長時間を確保することも良い方法です。

今回は以上となります。次回は長期経営計画を策定する「体制」について書くつもりです。


連載予定【目次(案)】
Ⅰ 方針
1. 目的を決める
2. 期間・更新を決める
3. アウトラインを決める
4. スケジュールを決める ←今回
5. 体制を決める        ←次回

Column 事例を調査する

Ⅱ 企業戦略
1. 現状のビジョン・ミッション・バリューを確認する
2. 過去の全社業績を分析する
3. 現在の事業ポートフォリオを可視化する
4. 経営資源を可視化する
5. メガトレンドを調査する
6. 今後のビジョン・ミッション・バリューを決める
7. 企業ドメインを決める
8. 目指す事業ポートフォリオを決める
9. 成長戦略を決める
10. 新規事業・M&A戦略を決める
11. 一次業績計画を策定する
12. 一次投資枠を設定する
13. 全社一次要員計画を策定する
14. TOPマネジメントを決定する
15. 企業戦略を事業戦略に展開する
Column 事業承継に向けた長期経営計画

Ⅲ 事業戦略
1. 過去の事業業績を分析する
2. 現在の製品ポートフォリオを可視化する
3. 外部環境を分析する
4. 企業戦略を理解する
5. ミッション・バリューの見直しを検討する
6. 事業ドメインを決める
7. 目指す製品ポートフォリオを決める
8. 成長戦略を決める
9. 売上計画を精緻化する
10. 要員計画を精緻化する
11. 投資計画を精緻化する
12. 損益計画を精緻化する
13. ロードマップ・KPIを決める
14. 事業戦略を企業戦略へフィードバックする
Column 経営計画の先行研究

Ⅳ 計画完成
1. 売上計画を確定させる
2. 投資計画を確定させる
3. 要員計画を確定させる
4. 採用計画を確定させる
5. 組織計画を確定させる
6. 人材育成計画を決める
7. 新規事業・M&A計画を決める
8. リスク管理計画を決める
9. IT投資計画を決める
10. 財務三表計画を決める
11. ロードマップ・KPIを決める
12. モニタリング計画を決める
13. コミュニケーションを開始する
Column 社員がワクワクする長期経営計画
最後に私の著書と副業で経営している会社の紹介をさせてください。


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