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タイタンの妖女/カート・ヴォネガット・ジュニア【読書ノート】

時空を超えたあらゆる時と場所に波動現象として存在する、ウィンストン・ナイルズ・ラムファードは、神のような力を使って、さまざまな計画を実行し、人類を導いていた。その計画で操られる最大の受難者が、全米一の大富豪マラカイ・コンスタントだった。富も記憶も奪われ、地球から火星、水星へと太陽系を流浪させられるコンスタントの行く末と、人類の究極の運命とは?巨匠がシニカルかつユーモラスに描いた感動作。

『タイタンの妖女』は、1959年に出版されたカート・ヴォネガットのSF小説で、彼の2冊目の作品だ。自由意志、全能、人類の歴史全体の目的といった問題を扱い、1973年には星雲賞長編部門を受賞している。

物語の中心人物は、22世紀のアメリカ、カリフォルニア州ハリウッド出身の富豪、マラカイ・コンスタントである。幸運に恵まれた彼は、その運を使って父の財産を増やすことに努めるが、それ以外に顕著な成就はない。彼の人生は、地球から火星への旅、記憶喪失、火星軍での訓練を経て、水星に迷い込み3年間を過ごすという予期せぬ方向へ進む。地球に戻った彼は、神の不興の象徴として晒され、最終的には土星の衛星タイタンで、彼の運命を左右するウィンストン・ナイルス・ラムフォードに出会う。

ラムフォードはニューイングランドの裕福な家系出身で、宇宙探検家としての夢を実現させるための富を持っていた。彼とその飼い犬カザックが搭乗する宇宙船が、「時間等曲率漏斗」に巻き込まれると、二人は特殊な波動現象となり、太陽系内を螺旋状に存在するようになる。この状態でラムフォードは、過去と未来を知る能力を得て、物語を通じて未来を予言する。

火星人による地球侵略後の人類を団結させるため、ラムフォードは「徹底的に無関心な神の教会」を創設し、火星人の侵略を煽る。トラルファマドール星から来た探検者サロと友情を育むが、サロは実はトラルファマドール星からのメッセージを運ぶロボットで、その使命は地球の文明を利用して宇宙船の故障部品を修理することだった。人類の歴史は、この部品を製造するために操られており、ストーンヘンジや万里の長城などは、サロへの進捗報告のメッセージとして建設された。

物語は、コンスタントと彼の息子クロノがタイタンでサロに必要な部品を届け、ラムフォードとカザックが宇宙の別の場所へ飛ばされるところでクライマックスを迎える。ラムフォードとの口論が未解決のまま終わり、サロは自らを分解し、コンスタントとクロノはタイタンに取り残される。クロノはタイタンの鳥と共に生活し、コンスタントはサロを再組立てし、最終的にはインディアナ州インディアナポリスで人生を終える。

タイタンの妖女の中心となる話は、火星人の侵略戦争後に地球が平和になるというものだ。その平和な地球で、「徹底的に無関心な神の教会」が地球最大の宗教になる。この教会では、神が存在するが、人間には興味がないとされる。神は偉大で忙しく、地球や人類のことに時間を割く余裕はない。故に、教徒たちは自分の問題を自分で解決し、神に頼らずに生きるべきだと教えられる。この宗教が地球で最も主流となる。
教会の特徴的な手法はハンディキャップ主義で、全ての人間に平等性をもたらすためにハンディキャップを与える。美しい女性は醜い仮面をかぶり、イケメンは視覚障害のある女性と結婚し、体力のある男性はお重りを身につける。このようにして、人間の生まれながらの特性を消し去ることで、社会全体が完全に平等になる。
このような社会の描写は、理想社会としてではなく、不気味な警鐘として描かれている。誰もが平等になったが、それが幸福をもたらすかどうかは疑問だ。物語は悲劇と喜劇の要素を併せ持ち、ノーベル文学賞に最も近いSF作家とされるヴォネガットのほぼデビュー作にして、みずみずしい内容を持つ。
主人公の一人は、地球とペテルギウス間に存在する螺旋状の波動の中に飛び込み、過去から未来までの時間を見渡す能力を得る。この特異な状況は、人間の悲しみやおかしみと交錯し、最終的には深い感動を呼ぶ小説となっている。


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